第12話 『白銀の獅子』の野盗討伐戦1
街の東部の山岳地帯では、野盗『蝦蟇蜘蛛』の被害が増えていた。
野盗討伐は通常DランクからEランクに設定されるものだが、冒険者の依頼失敗が多発しており、現在は難易度Cランクに設定されている。
そんな中、『蝦蟇蜘蛛』のアジトがついに発見され、一網打尽にするチャンスが訪れた。
万が一の失敗を避けたいギルドは、Aランクパーティ『白銀の獅子』に野盗討伐の依頼を出した。
「あれが『蝦蟇蜘蛛』のアジトね」
Aランクパーティ『白銀の獅子』の魔法使いリゼと、戦士ゴリが闇夜に紛れ、アジトの入口前で潜伏していた。
大きな洞窟があり、入り口の両脇には松明が掲げられ、見張りが二人立っている。
ギルドからの情報によると、見張りの交代は3時間に1回で、夜間はそれ以外の動きが無いようだ。
つまり、見張りの交代に合わせて制圧すれば、比較的発見されにくくアジトへの侵入が可能となる。
「おっ、丁度見張りが交代するみたいだな」
洞窟の中から二人の男が出てきて、元々見張りをしていた二人が洞窟の中へ入っていく。
「見張りを眠らせるわよ。"催眠魔法"」
リゼが見張りを眠らせると、入口まで素早く接近し、捕縛魔法で眠っている見張りを縄で縛り上げる。
洞窟の中を覗いたが、人の気配は無い。
「どうやら潜入は問題なさそうね。まぁ、こんなザコ共の巣窟、コソコソせず派手にいっても良いんだけどね。行くわよ、ゴリ」
ゴリとリゼが洞窟の奥へ進んでいくと、野盗3人と鉢合わせた。
「なんだお前らは!」
「はい、ちょっと眠っててねー」
リゼが"催眠魔法"を使いあっという間に野盗を眠らせ、捕縛魔法で縛り上げる。
奥に進んでいくと次々に野盗に出会うが、その度にリゼが瞬殺するため、アジト全体に気付かれずに順調に討伐が進んでいく。
「しかし、広い洞窟だな。大分進んだってのに、終わりが見えねぇ」
「ギルドによると、採掘所跡地らしいわね。奥まで5~6キロはあるって話よ」
1キロ程進んだ所で、部屋を見つけた。
部屋の前に立っていた見張りを眠らせ、中に入ってみる。
「あら、人質の部屋みたいね」
部屋には殆ど裸の女性が何人もいた。
こちらに気付いて全員ビクッと震えた。
「大丈夫、ギルドの依頼で助けに来た冒険者よ。解放するから安心して」
「へへへ・・・良い女ばっかりだぜ・・・」
「絶対手ぇ出すんじゃないわよ」
リゼは氷のような目でゴリを見た。
「あ・・・ありがとうございます!」
「はーい、今鎖を外すわね」
リゼが女性達に繋がれた鎖を魔法で外していく。
・・・?なんか皆、ベトベトしてるわね。
野盗に妙な趣味の奴がいるのかしら?
「なんだお前らはっ!」
後ろから野盗の声がした。
同時に侵入者を知らせる笛を吹かれ、アジト中に響き渡った。
「あちゃー、見つかっちゃったか」
ゴリが野盗を殴り倒し、部屋の外に出る。
リゼも人質を連れてゴリの後に続く。
「入口までの野盗は全員眠らせてあるから。あっちに逃げて」
リゼが入口の方を指差し、人質の女達は逃げていく。
反対方向から、野盗が次々と出てくる。
「おらぁ!死にたくねぇ奴はすっこんでろ!」
ゴリが前に出て、一人で次々と野盗達をなぎ倒していく。
倒れた野盗は、リゼが次から次に捕縛魔法で縛り上げていく。
「こいつら、めちゃくちゃ強えぇぞ!」
ゴリは手応え的に、野盗達の平均レベルは5と見た。
レベル44のゴリの相手ではなかった。
野盗達は次々に襲い掛かるが、ゴリに全く歯が立たず、どんどん奥へと侵入を許していく。
野盗達をなぎ倒しながら進むと、広間に出た。
広間の中央に、今までの野盗とは明らかに違う、高価な服装を纏った男が立っていた。
「頭、こいつらが侵入者です!」
どうやらこの男が野盗の頭のようだ。
太鼓腹で威圧感のある体格をした髭面のオヤジで、高慢な性格が表情に表れている。
「お前らが侵入者か、よくここまで来たな。だが、ワシが相手だったのが運の尽きだな」
野盗の頭が口笛を吹く。
すると、どこからともなく魔物が湧いてきた。
「こいつ、テイマーか!」
「左様。ワシの名はゲロッグ。このアジトには強力な魔物を大量に潜ませておる。お前らの命運もここまでよ」
リゼとゴリは、十数体の魔物に取り囲まれる。
「ふーん、ゴブリンオークの群れか」
ゴブリンオークはゴブリンとオークの特性を有するDランクの魔物で、討伐推奨レベルは18。
ゴブリンやオークと同様、男は殺し女は犯す。
繁殖力が非常に強く、人間の女を苗床にすることができる。
「なるほどな。連れ去った女をゴブリンオークの苗床にし、増えたゴブリンオークをテイムして、を繰り返してたってことかよ」
「ご名答。まぁ、気付いたところでどうにもならんがな」
ゴブリンオークは力と素早さがあり、毎年多くの冒険者が襲われ死亡している。
なるほど、これまでDランクの冒険者達が歯が立たなかったわけだ。
ゴブリンオークはゴリに対しては獰猛に威嚇をし、リゼに対してはニタニタといやらしい笑みを浮かべている。
「そこの女、お前良い女だな。お前は生かして、後でたっぷり可愛がってやる。いや、その前に、こいつらに可愛がってもらう方が先かな?」
「あらあら。こいつらが私のことを満足させてくれるのかしら?」
リゼは指を口元に当てて色っぽく笑う。
「ゆけ!」
ゲロッグの合図と共に、ゴブリンオーク達が一斉にリゼとゴリに飛び掛かる。
「”灼熱の嵐”」
リゼがポツリと呪文を唱える。
瞬間、ゴブリンオーク達は灼熱の炎に包まれ、あっという間に消し炭になった。
「よっわ~wwこんなんじゃ全然満足できないわ♪」
リゼが侮蔑に満ちた笑顔を見せる。
余裕に満ちていたゲロッグの顔が、一瞬で氷付いた。




