第二章最終話 ミラ視点 <後編>
王都の超高級店。
ジニーは一足先にワインを開けていた。
葉巻を吸いながら、今日の『四星の絆』のライブを思い出していた。
悔しいが、あの演出は素晴らしかった。
『エヴァンジェリン』にも取り入れねばなるまいて。
そして、『四星の絆』の四人。
あの少女たちがなんとしても欲しくなった。
ユリ、シノ、ルリ、サヨ。
なんとかして、四人とも『エヴァンジェリン』に再加入させたい。
あいつらが加われば、『エヴァンジェリン』はより強力になる。
今日の公演を見て分かったわ。
あいつらは、アイドルとしてしか生きていけない人種だ。
まだまだ、圧力の掛け方は山程ある。
追い詰め、屈服させ、いやでも再加入させてやるわ。
くくく……。
数年見ないうちに発育も良くなったようだし、たっぷり枕も強要してやるぞ。
あいつらの乱れっぷりを早く見たいものだ。
そしてあのムビという少年。
あいつはうちの四天王をたぶらかしたように、『四星の絆』にも卑しい下心を持っているのだろう。
あいつは業界から完全に干し、二度と『四星の絆』に会えなくしてやるぞ。
また土下座でもしてくるだろうか。
犬のように見苦しく懇願してくるか?
……ははは♪あの情けない姿を思い出しながら飲むワインは格別だな♪
今度は靴でも舐めさせてみるか?
そのとき、入口のドアが開いて、ミラが入ってくるのが見えた。
ミラがまっすぐこちらに歩いてくる。
ようやく来たか、ミラ。
くくく……。
相変わらずの美少女だな。
胸も大きい。
ジニーの目線がいやらしくミラの全身を舐め回す。
食事に来るあたり、私に気があるんじゃないか?
私といるときはいつも笑顔だしな。
どれ、食後にホテルにでも誘ってみるか。
「やぁ。遅かったじゃない―――」
バキィッ!
ジニーの顔面にミラの鉄拳がめり込んだ。
顔面が陥没し、前歯が2本飛んで行った。
「がはぁぁぁぁッ!!??」
ジニーは激痛のあまり手で顔を覆うが、指の隙間から鼻血が止めどなく流れる。
周りの客から悲鳴が上がった。
「な……なにするん……ぐえッ!?」
ミラはジニーの顔面を掴み、万力のような指に力を込めた。
「いでででででででででででで!!!!!」
「———お前、馬鹿なのか?」
ミラの声は冷え切っていた。
「なんでムビにバラしておるんじゃ?嫌われてしまったじゃろうが?あいつに嫌われたら意味無かろうが??」
ミラの指に力がこもり、骨を砕かんばかりに頭蓋を軋ませる。
「ぎゃああああああああギブギブギブギブギブ!!!」
「ブギブギうるさいのー、豚かお前は?」
バキャアッ!
ミラはジニーの顔面をテーブルに投げつけ、テーブルが真っ二つに割れる。
「ひ……ひいいいぃぃいぃぃ…………!!!」
ジニーは激痛のあまり動けず、テーブルクロスに包まれながら藻掻いていた。
ミラはジニーの髪を掴んで、引きずった。
「なによりお前———ムビに土下座させたそうじゃのう?お前のような汚い豚が、何を勘違いしたんじゃ?」
ミラの目は本気で怒っていた。
殺意すら感じられ、ジニーは震えあがる。
「ご……ごめんなさいッ!!!私が悪かったです!!もう二度としないから許してぇッ……!!」
ミラはジニーを無造作に放り投げ、ジニーは床に転がる。
「謝るときは、どうするんじゃ?」
ジニーはミラの低い声を聞いた瞬間、額が地面に擦れる程、目いっぱい土下座した。
「申し訳ありません!調子に乗ってすみませんでしたァッ!!」
ミラは容赦なくジニーの後頭部を踏みつけた。
「ぶ……ぶふぇっ!?」
「皮膚が剥けるくらい擦り付けんかこのゴミ」
ミラは体重をかけた。
「あびゃびゃびゃびゃびゃ!!やめてッ……折れた鼻がッ……!あびゃびゃびゃびゃびゃびゃッ!!」
痙攣する足元の人豚の頭部を、ミラは念入りに踏みにじる。
強く踏みしだく度に、鼻血がぴゅーと噴き出た。
「そうそう、豚はそうやって地面に這いつくばるんじゃ―――よっ!」
「ぷぎぃッ!?」
頭を強く踏み抜かれ、ジニーはそのまま両手をパタリとおろし、痙攣し続けた。
「全く……土下座くらいで気を失いおって。ああそこの店員、邪魔したの」
ミラは札束を店員にポンと渡して、店を出て行った。
---
はぁ~、どうしたらムビに許してもらえるんじゃろうかのぅ。
トボトボとミラは歩く。
手を引くなんて言ったが、やっぱりどうしてもあいつが欲しい……。
―――いっそ、力づくであいつを奪うのはどうじゃろうか……?
先程怒りのままに力を振るい、ミラは頭に血が上って興奮していた。
内面に抱えるマグマのような情欲が抑えられない。
理性と本能が何度も頭の中で主導権を奪い合う。
欲しい……ムビが欲しい……。
そのとき、近くにムビの反応があることに気付いた。
頭に血が上っていて、今まで気付かなかった。
ムビ……。
近くにおるのか?
今会っても、冷たくされるんじゃろうな……。
でも、やっぱり会いたい……。
ミラは本能のままに、反応のある方へ歩いて行った。
10分程歩き、月光が明るく照らす道に出た。
ムビ……。
そこにおるのか……?
ミラが路地裏を覗くと、目の前に眠っているムビがいた。
……こんなところで寝ておるのか?
そういえば、一月半も寝ておらんと言っておったな。
ここで、力尽きたのか。
ムビは、穏やかな顔で眠っている。
先程ミラに向けられた冷たい表情はどこにも無かった。
ふふっ、こいつ、可愛い寝顔をしておるのぅ……。
そうだ、シャッターチャンスなのでは!?
ミラは急いでスマホを取り出し、ムビの寝顔を写真に収めた。
か……かわいい……!
ミラはスマホ画面に映るムビの寝顔に惚れ惚れした。
スマホをポケットにしまうと、じっとムビの寝顔を見つめる。
……もしかして、起きない……?
ミラはムビをつつくが、一向に起きる気配は無い。
……そうか。今この瞬間なら、お前はワシのものじゃな?
ミラはムビをギュッと抱き締めた。
―――ふわぁぁぁっ!?何じゃこの感覚は!?
ムビの匂いがする!
落ち着くし、癒される……!
ミラの頭に上っていた血は急速に引いて行った。
そのまま、鎖骨のあたりで何度も頬ずりする。
これはたまらん……!
ミラは本能のままにムビの体中をまさぐる。
しかし、ムビは一向に起きる気配が無い。
……もしかして、何をしても起きないのでは……?
ミラはキョロキョロと周囲を見渡し、誰も人がいないことを確認する。
甘くため息をつき、髪を耳にかき上げ―――唇を重ねた。
瞬間、ミラの背中に電流が走る。
……ふふっ、これが接吻というものか。
初めてしてみたが、なんだか照れくさいのう。
ミラはスヤスヤ眠るムビの頭を優しく撫でた。
ワシの家に持って帰ったらどうじゃろうか?
でも、目を覚ましたら怒るじゃろうなぁ。
このままそっとしておくのが正解じゃろうな。
ミラは最後にもう一度キスをして、ムビをギュッと抱き締めて家路についた。
---
家に帰ったミラは上機嫌だった。
頭に上っていた血もすっかり引いていた。
ベッドに寝転びながらスマホを開く。
ふふっ……あれが接吻の味か……悪くないのう。
ミラは唇を指でなぞりながら、ムビの寝顔を見て頬を染めていた。
なんだか癒されるのう……。
もっともっと、色んな写真が欲しい……。
ミラは眠りに落ちるまで、いつまでもいつまでも、ムビの寝顔を眺め続けた。
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