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Aランクパーティをクビになった『動画編集者』がアイドルパーティに加入して無双  作者: 焼屋藻塩
第2章 『四星の絆』の夢

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110/201

第110話 夢の終点で

 ムビが『エヴァンジェリン』を訪れてから、1週間が経った。

 その間も必死で会場を探し続けたが、一向に見つからない。


(どうしよう……もう2ヶ月を切ってるのに……)


 この国では野外フェスは法律で禁止。

 港やテーマパークでの開催も提案したが、実績不足で断られた。


 ——本当に、もう手は尽くした。


 メディアの報道も一時落ち着いていたはずが、最近またムビや『四星の絆』へのバッシングが強まっていた。


 ……これが、ジニーの言っていた“さらに強い圧力”なのか。


「ムビ君」


 俯いていたムビの耳に、エヴリンの低い声が届く。


「はい……なんでしょう」

「悪いけど、会議室に来てもらえる?」


 口調は静かだが、重みがあった。


「……分かりました」


 ムビは立ち上がり、エヴリンの背中を追った。


 ---


 会議室には、社長と『四星の絆』の4人が並んで座っていた。

 いつも朗らかでユーモラスな社長の顔には、見たことのない険しさが浮かんでいた。


「ムビ君。忙しいところ、すまないね」

「いえ……会場が見つけられず、本当に申し訳ありません」

「今日はね……僕自身、本当に苦しくて、辛い提案をしなければならない。 どうか、その前提だけは理解してほしい」


 社長の口調が、重く、ゆっくりと沈み込んでいく。


「実は今、ルナプロダクションの全タレントが、メディアやイベントから軒並み出演を断られている」

「えっ……!?」

「気を悪くせず、冷静に聞いてほしい。 “『四星の絆』が所属している事務所は遠慮したい”——そういう理由らしい」


『四星の絆』が顔を見合わせ、困惑と動揺が広がる。


「どうして……?私たち、何か……」

「建前上は“印象の悪化”とのことだが、 実際は——『エヴァンジェリン』の圧力が原因だと見ている」


 ムビは息を呑んだ。


 ——あいつらは、俺たちだけじゃなく、事務所ごと潰しにかかってるのか……。


「正直、このままでは、ルナプロは存続できない。 だから……一人の経営者として、皆にお願いしなければならない」


 社長は深く頭を下げた。


「……『四星の絆』を、解散してもらえないだろうか」


 空気が止まった。

 重たい沈黙が、壁にも天井にも染みつく。


 最初に声を発したのは、震えるようなシノの言葉だった。


「それで……私たちは、どうなるんですか?」

「もちろん、君たちは大切な仲間だ。 裏方や育成を担当してもらう予定もあるし、将来的には管理職への道もある。 僕としては、本当に残念だが……」

「……私たちの夢を、諦めろということですか」

「———その通りだ。どうかルナプロを救うために、呑んではくれないだろうか」


 社長は再び、深く頭を下げた。


『四星の絆』の4人は、肩を震わせながら目を赤くしていた。


「……少しだけ、考える時間をいただけますか」

「もちろん。明日、結論を教えてくれればいい」


 社長とエヴリンは、無言で部屋を後にした。


 ---


「あーあ……ライブどころじゃなくなっちゃったね……」


 ユリが笑ってみせる。でもその声には、元気の欠片もなかった。


「まさか、『エヴァンジェリン』がここまで手を伸ばしてくるなんて……」

「……どうするの?」

「——解散するしか、選択肢が残されていませんわね……」


 サヨの声も沈んでいた。


「私は嫌だよ」


 ルリの目からは大粒の涙が溢れていた。


「今まで、皆で頑張ってきたんだよ!?もうちょっとで夢が叶うのに……こんなのって———あんまりだよ……!」


 ルリが息を詰まらせながら、気持ちの全てを吐き出す。

 ルリの言っていることは、皆痛い程分かっていた。


「その通りです。私も悔しいです。でも、このままでは私たちだけでなく、ルナプロも共倒れしてしまいます。現実的に、解散するしか道がありませんわ」

「解散して、どうするの?冒険者活動に専念するってこと?」

「それも難しそうですわね……。『四星の絆』で活動する以上、ルナプロへの圧力は止まらないでしょう。改名したところで、そんなことで世間が許すとは思えません」

「じゃあ……私たちの活動は……ここで終わり、ってこと……?」


 "終わり"———その言葉の響きに、ユリは泣き出した。


「私も……サヨの意見に、賛成……」

「……ユリッ……!」

「悔しいけど……他の人を巻き込んで、自分の夢を追いかけることはできない……」


 シノも目に涙を溜めながら声を震わせる。


「私も……。私たちだけなら、どれだけでも抵抗してみせますが……。お世話になっているルナプロの皆さんまで、巻き込むわけにはいきません……」


 ルリは頬を涙で濡らしながら肩を落とした。

 目線だけを動かし、ポツリと呟く。


「ムビ君は……どう思う……?」


 ムビに『四星の絆』の視線が集まる。


「……本当に、すみません。俺が、いらないことをしたばかりに……」

「……ムビ君のせいじゃないよぉ。だってムビ君、すごく頑張ってたもん……」


 ユリの嗚咽が響き、シノとルリも顔を手で覆った。

 サヨの頬にも、静かな涙が流れていた。

 ムビも涙で視界が滲んでいた。


「明日……社長に伝えましょう。『四星の絆』は、ここで解散しますと」

「……シノぉ……」

「今まで……本当にありがとう。 みんなと過ごした日々は、楽しかったよ……!」


 その瞬間、シノは堰を切ったように号泣した。

 涙は、部屋の中にいた全員へ伝播した。

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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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