第108話 貸せない理由
「えぇっ!?どういうことですか!?」
「それが……私にも分からないの!理由を聞いても、答えてくれなくて……!」
「俺も連絡してみます!」
ムビはスマホを強く握りしめ、急いで電話を切った。
「どうしたの、ムビ君……?」
「エヴリンさんから連絡が……ルミノールアリーナが、貸せないって……!」
「えええっ!!?」
『四星の絆』のメンバー全員が、息を呑んで立ち上がる。
「どういうこと!?」
「すぐ確認してみます!」
ムビは慌ててルミノールアリーナへ電話をかけた。
「……ダメです。時間外みたいで……。明日、もう一度かけてみます」
「だ……大丈夫、だよね……?」
「大丈夫です。ライブは必ず開催しますので……!」
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翌朝。ムビはいつもより早く出社し、開館直後のルミノールアリーナへ電話した。
「はい、ルミノールアリーナです」
「私、ルナプロダクションのムビと申します。『四星の絆』のライブについてご連絡しました」
一瞬の沈黙の後——声のトーンが凍りつく。
「ああ、ルナプロダクションですね。昨日お伝えした通り、当アリーナはお貸しできません」
「そ、そんな……!一体なぜですか!?」
「申し訳ありません。検討の結果、決定いたしました」
「検討って……!予約は一ヶ月以上前に済ませていたんですよ!?」
「しつこいですね。失礼します」
「まっ、待ってくだ——」
プッ……
ツー……ツー……
電話は無情にも切られた。
くそっ……!一体どうなってるんだ……!
「ムビ君……どうだったの?」
エヴリンが不安な表情で尋ねる。
「ダメでした。直接ルミノールアリーナへ行ってきます!」
その言葉と同時に、ムビは駆け出していた。
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「お願いします!どうか、アリーナを使用させてください!」
「しつこいですねぇ。無理なものは無理なんです」
ムビは粘り強く交渉を続けた。
しかし、何を言っても冷たくあしらわれるだけだった。
「せめて、理由だけでも教えてください……!」
「何度も言ってますよね?検討の結果です」
ムビは嘘探知魔法を発動しながら会話を続けていた。
色々な質問をするが、一向に全容が見えない。
「外部からの圧力ですか?」
「だから違うって。検討の結果だって言ってるでしょう」
———嘘。
「……もしかして、『エヴァンジェリン』からの……?」
沈黙。職員は、深くため息をついた。
「いいかい。ここだけの話だよ。うちだってほんとは貸してやりたいよ。あんたら一体、何したんだ?この世界で生きていくのに、『エヴァンジェリン』に目を付けられたらおしまいなんだよ。今後は身の振り方を考えるんだな」
アリーナ職員は部屋を出て行こうとする。
「待ってください!お願いします……!」
職員の目つきが鋭くなる。
「あのな?うちだって、『エヴァンジェリン』にはかなりお世話になってるんだ。その『エヴァンジェリン』に盾突いて、あんたらと同じようになれっていうのか?冗談じゃない!あんた、責任取れんのか!?……話は以上だ。お帰り願おうか」
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その日、ムビはトボトボと会社へ戻った。
「ムビ君……どうだった?」
『四星の絆』とエヴリンがムビの帰りを待っていた。
「……ごめんなさい。駄目でした。『エヴァンジェリン』の圧力です」
冷や汗が、皆の頬を伝う。
「いくら何でも、ここまでするなんて……」
「エヴリンさん、どうしましょう……?」
「『エヴァンジェリン』の圧力なら、ルミノールアリーナはもう厳しいわね……。他の会場を探すしかないわね」
「……そうですね。俺もそう思います。今からでも、他の会場をあたってみます」
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その日一日、ムビは全国の会場に電話をかけ続けた。
だが、返事はどこも同じだった。
「すみませんが、そちらのグループにはお貸しできません」
理由を尋ねても、答えは返ってこない。
「ムビ君……どうだった?」
ずっと隣に座っていたユリが、小さく囁く。
「ダメでした……ごめん」
「ううん、ムビ君が謝ることないよ。ありがとう」
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翌日、ムビは朝から晩まで電話をかけた。
ルミノールから遠く離れた小さなホールも、大規模なドームも——すべて断られた。
あきらめるな……。 必ず、どこか会場がある筈だ……。
翌日も、ムビは朝から晩まで電話を続ける。
翌日も。その翌日も。
それでも、会場は見つからなかった。
もう……国中のありとあらゆる施設、1件残らず全部連絡したぞ……。
ムビは頭を抱えた。
こんなことがあり得ていいのか。
ひょっとして、これが今後ずっと続くのか?
まさか……『四星の絆』は、もうステージに立てない……?
その瞬間、ムビの脳裏に『四星の絆』と過ごした日々が蘇った。
レッスンで流した汗。
夢を語り合った夜。
そしてダメな自分を拾ってくれた皆の笑顔。
「……もう、ここしかない」
ムビが最後に選んだ連絡先は———『エヴァンジェリングループ』だった。




