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Aランクパーティをクビになった『動画編集者』がアイドルパーティに加入して無双  作者: 焼屋藻塩
第2章 『四星の絆』の夢

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第107話 絶対エース

 寝起きなのか、イヅナの目はトロンとしていた。


 芸能に疎いムビも、イヅナのことだけは知っていた。


『エヴァンジェリン』の絶対エース。

『四星の絆』のみならず、ルナプロのアイドル達は、皆口々に『イヅナは化物』と言っていた。


 先程会場で見たイヅナのパフォーマンスは、噂に違わず圧巻だった。

 48人もいるのに、殆どイヅナにしか目がいかなかった。

 セツナ、カエデ、ミナセだけが唯一存在感を出していたが、残りのメンバーはイヅナに完全に喰われていた。


 肩までの黒髪はまっすぐで艶があり、その下から覗く切れ長の灰色の瞳。

 間違いなく美少女ではあるが、ステージ上のイヅナから感じられた存在感———オーラを全く感じない。

 それが逆に、不気味でしょうがなかった。


「イヅナ……久しぶり」


 シノがイヅナに声をかける。


 元仲間とはいえ、アイドルの頂点に立つ存在。

 シノも流石に引け目を感じているのか、少し声が震えていた。


「えっと……誰だっけ?」


 イヅナは首を傾げる。

 雰囲気から察するに、煽りではなく、本当に覚えていないようだ。


「あははは!ほら、いたじゃない?途中で抜けていった中途半端なアイドルが」


 ミナセが大笑いしながらイヅナの肩を叩く。


「そうだっけ……全然覚えてないや」


 イヅナの声には、まるで感情がこもっていなかった。

 それどころか、目の前にいる『四星の絆』に興味を持っていないようだった。


「久しぶり……なのかな?折角会えたけど、私すっごく眠いんだ。お腹も減ってるし……。また今度ゆっくり話そうね。皆、行こう」


 イヅナは消えかけの浮遊霊のように、フラフラしながら馬車へ戻る。

 セツナとミナセは見下すような笑みを『四星の絆』に向け、イヅナの後に付いて行く。

 カエデも苦笑しながら3人に続いた。


「イヅナ」


 シノに呼ばれ、イヅナはピタッと立ち止まった。


「私達、ここで公演することが決まったよ。必ず、『エヴァンジェリン』に追いつくからね」


 数秒間、イヅナは立ち止まり———。

 ———直後、大きな欠伸。


「そ?頑張ってね」


 そのまま『エヴァンジェリン』の四人は馬車に乗り込み、夜闇の中へ消えて行った。





「完っ全に見下されてたね」


 喫茶店にて、『四星の絆』は憤慨していた。


「イヅナってば覚えてないですって!?同期なのに!ひどい!」

「ミナセは相変わらず嫌な感じでしたね」

「セツナの憎たらしさは総選挙1位ですわ」


 各々が口々に愚痴をこぼす。


「皆分かってない。一番ヤバいのはカエデだよ……」


 ルリが、ポツリと呟いた。


「カエデが?むしろ、一番いい子じゃない?」

「カエデの悪い噂は聞いたことありませんね……」

「そりゃそうだよ、あいつ徹底してるもん」


 ルリがゴクリと喉を鳴らす。


「実は私ね、カエデにいじめられてたんだよね……」

「えっ、そうだったの!?」


 3人は本気で驚いているようだった。


「レッスンの帰り、あいつが公園の猫に当たり散らしてるのをたまたま見かけて。止めに入ったら、絶対バラすなって脅されたんだよね。普段絶対に見せない、ゾッとするような顔してて。いつの間にか私の悪い噂も流されて、仲間やスタッフさんからも冷たくされるようになって……」

「それホントなの……?信じられない……」

「カエデといえば、『エヴァンジェリンの天使』って言われてるのに……」


 ユリとシノは本気で引いている様子だった。

 余程、カエデへの信頼が厚かったのだろう。


「ホントだよ。ていうかカエデは、ユリにコンプレックス持ってたんだよ。髪型やキャラ作りも、ユリの真似してたんだよ?」

「えぇっ!?嘘でしょう!?」


 ユリが悲鳴を上げる。


「ホントだってば。ユリの名前叫びながら、子猫蹴ってたもん」

「こ……怖すぎる……」

「ホントのあいつは、マジでやばいよ。表向きのあいつは、完全にユリをトレースしてるだけ。私が『エヴァンジェリン』を辞めたのも、半分以上はあいつが原因なんだよね……」


 ルリが苦笑する。


「『エヴァンジェリン』怖すぎますね。俺、『四星の絆』で本当に良かったです」


 喫茶店に着いてから、ようやく発したムビの第一声だった。


「ほんとにねぇ。ムビ君、私達で良かったね?」

「ほんとにそうですよ。だから、あんなに馬鹿にされたのが悔しくてなりません!絶対に見返してやります!」


 ムビはいい音を立てながら勢いよくコップをテーブルに置く。

 その様子に、『四星の絆』は笑う。


「そうだね。まずは二ヶ月後のライブを成功させないとだね」

「今日のライブ見ながら、色々演出を考えました。演出は任せてください。絶対に『エヴァンジェリン』より盛り上げて見せます!」

「お?ムビ君、頼りになりますな~♪」

「ムビさんがそこまで言うなら、本当に楽しみですね!」

「何々?どんな風にするの?」


『四星の絆』が眼を輝かせてムビを見つめる。


「はい!まずですね……」


 そのとき、ムビのスマホに着信があった。

 エヴリンからだ。


「ちょっと待ってくださいね」


 ムビは電話に出た。


「はい、もしもし」

「ムビ君!?大変よ!!」


 エヴリンの声が狼狽している。

 こんなに焦っているエヴリンは初めてだ。


「ど……どうしました……?」

「ルミノールアリーナから連絡があって……。二ヶ月後のライブ、『四星の絆』への貸出を中止するって!」

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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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