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Aランクパーティをクビになった『動画編集者』がアイドルパーティに加入して無双  作者: 焼屋藻塩
第1章 『動画編集者』の覚醒

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第10話 『白銀の獅子』との再会 その2

「皆さんすみません、お待たせしました。報告に時間が掛かっちゃって……」


 ギルド館内に入ったムビは、異変に気付く。

『四星の絆』と一緒に居るときに感じる違和感があった。

 視界に映る全員がこちらを見ている、という感覚。

 ムビは『四星の絆』と一緒に居るわけではないのに、現在自分がその状況にあることに気付いた。


 そしてもう一つの違和感に気付く。

 フロアの中央だけ、別空間であるような、特別な人間だけが入ることを許されているような、そんな風な印象。

 そこには『四星の絆』がいて、もう一方のグループは……『白銀の獅子』。


「ムビくーん、こっちおいでよー♪」


 ユリが呼び掛ける。


 久々に感じる、胃が重くなる感覚。

 まったく気が進まないが、行くしかない。


 ムビは自分の足が、鉛に変わってしまったのではないかと思った。

 ほんの数メートルの距離が、とてつもなく遠く感じる。

 永遠に辿り着かなければ良いのにと思う。

 そこに近付く程に、周囲の目が冷たくなるのを感じた。


「久しぶりだな、ムビ」


 ゼルが、ムビにだけ分かる程度の含みを持たせ、声を掛けてきた。


「久しぶり」


 ムビは、極力平静を装って返事をした。


「お前、この子達のプロデューサーになったんだって?良かったじゃないか、良い居場所を見つけることができて」


 ゼルの声にはたっぷり皮肉が込められていたが、それに気付いているのは、ムビと、『白銀の獅子』のメンバーと、ムビの噂を聞いている聴衆の冒険者達だけだろう。


「いえいえ、私達の方がお世話になりっぱなしなんです!」


 ユリは全く気付いていない様子だ。


「ムビ君、見て!私ゼルさんからサイン貰っちゃった//幸せ過ぎて今日眠れないかも//」


 ルリは憧れの『白銀の獅子』を前にして感激しっぱなしという様子だった。


「ムビさんも含め、憧れの『白銀の獅子』が勢揃い……。夢のような瞬間です……」


 シノも、凛とした瞳が優しく揺れ動いていた。


「まぁ、今はそいつ『白銀の獅子』じゃ無いんだけどね」


 リゼが皮肉たっぷりに笑う。


「そ、そうですよね。私達も、ムビさんが『四星の絆』でないと困りますし……」


 シノが苦笑する。


「あらあら、随分と必要とされてるわねームビ?」


 リゼの言葉を聞いて、聴衆の一部がクスクスと笑う。


「今はどうか知らないけど、この先足を引っ張らないように気をつけなさいよ~?」


 私達のときみたいにね、という声が聞こえた気がするのはムビだけだろうか。


「どうだろう、再開を祝って、このあと皆でご飯にでも行かないか?ムビの近況についても詳しく聞きたいしな」


 ゼルが爽やかな笑顔を浮かべて『四星の絆』に提案する。


「えぇっ、いいんですか!?」

「きゃ~噓でしょどうしよう~//」

「ムビさん、折角の機会ですし行きませんか?」


 ゼルの提案に、『四星の絆』は色めき立った。

 反面、ムビにとっては最悪の提案だった。

 恐らくゼルは『四星の絆』が気に入ったのだろう。

 そして、その輪にムビが加わっているのを良く思っていない筈だ。

 今は大勢の聴衆が居るから隠しているが、もしも個室で『四星の絆』だけになったとき、何を言われるか分かったものじゃない。

 いや、確実に『白銀の獅子』時代のムビのお荷物具合を散々語って聞かせるだろう。

 ひょっとしたら、『四星の絆』の皆に愛想を尽かされてしまうかもしれない。

 それは、今のムビにとって何よりも怖い。


「もちろん、全部僕達の驕りさ。皆は良いみたいだね!——ムビはどうだい?」


 ムビの脳裏に、『白銀の獅子』からクビを宣告されたときの悔しさと、顔に掛けられた水の冷たさが思い出された。

 そして同時に、シノが『白銀の獅子』を語ったときの瞳の輝きが思い出された。


 …………………………………………………………。


「………………そうだね。……行こうと思……」

「申し訳ありません。私達、疲れてまして。またの機会にさせていただきますわ」


 サヨが、ムビの返事に割って入った。

 ゼルの眉がピクリと動く。


「……あれ?そうだったかい?それは気が付かなくてごめんよ。それじゃあ、君以外の四人でも……」

「私達、明日また早朝からダンゴールの討伐に向かう予定ですの。折角の機会を棒に振ってしまうのは残念ですが、今日は帰らせていただきますわ」


 サヨは、丁寧な口調で静かに笑みを浮かべているが、かといって譲歩する気配を感じない。


「サヨ……?明日は休みじゃ……」

「ダンゴールの繁殖時期は限られていますわ。私達はDランクに昇格したとはいえ、まだDランクの魔物を相手取るにはレベル不足です。ダンゴールが大量発生している今のうちに、できるだけ多くのダンゴールを狩る必要がありますわ」


 ゼルの眉がまたピクリと動く。


「はは。それはそうかもしれないけど、冒険者には時に休息も必要さ。君達にとって、今日は大手柄を挙げためでたい日だろう?そんな日には、仲間達と大いに祝うべきさ。目先の小さな経験値ばかり気にしていては、この先やっていけないよ?」

「まぁ。憧れの先輩冒険者からのアドバイス、ありがたく頂戴致しますわ。しかし、私達にはとても優秀なプロデューサーがついておりまして、生憎とその点についてはあまり問題視しておりませんの」

「優秀なプロデューサー?……あぁ、ムビのことか。低ランク帯では優秀な……ね?」

「えぇ。()()()()()()()()()()()()()()()から、明日は冒険に行くべきだと指示を受けましたの」


 ゼルの口元がヒクつく。


「へぇ……」

「明日の予定、これから皆さんに伝える予定でした。そうですわよね、ムビさん?」


 そんな話は、ムビも初耳だ。

 サヨとは一度もそんな話をしていない。

 でも、これはサヨからの助け舟だろう。


「……そうだね。やっぱり今後のことを考えると、狩場があるうちは狩りを優先した方が良いと思う」


 これはサヨに話を合わせているだけではなく、本心でもある。

 皆の休暇を優先する気持ちも強いが、冒険者としてはその方が間違いなく正解だ。


「というわけですの。私達は、プロデューサーに全幅の信頼を寄せています。その方の方針なので、今回は遠慮させていただきますわ」


 サヨがにっこりと笑う。


「そうだったの、ムビ君?そしたら明日も早いし、今日はこのまま帰った方がいいね」

「まぁ……すごーく勿体ない機会だけど……明日も行くならしょうがないか……」

「ごめんなさいムビさん、そうとは知らず話を勝手に進めてしまって……。ゼルさんすみません、大変行きたかったですが、また今度よろしくお願いします」


 ゼルはこめかみがピクピクしていた。


「……そうか。優秀なプロデューサーがそう言うなら仕方ないね。また今度……ということで。皆、帰ろうか」


 ゼルは『白銀の獅子』を引き連れて出口へ向かう。

 ムビはピンチを切り抜けることができ、ホッとする。


「——そういえば一つ、不思議だったんだ」


 ピタリとゼルが足を止める。


「ダンゴールの大量討伐、実はうちでもかつてやったことがあるんだ。もしかして、そのやり方をパクっているんじゃないかと思ってね。もし、今回のダンゴール討伐で彼を優秀だと思っているなら、ひょっとして、あまり頭が良くないんじゃないかな?」


 ゼルが振り返りながら、たっぷりと皮肉を込めて言う。

 笑顔を浮かべているが、ムビにはブチ切れているのが分かる。

 それを聞いて、サヨが口を開く。


「あらあら、そうでしたの。流石は『白銀の獅子』様ですわ。ところで、そのダンゴールの討伐方法とやらは、どなたの発案でしたの?」

「さぁね。大分前のことだから、忘れてしまったよ」

「そうですか。そういえば、私からも一つ」


 サヨがにっこりと笑って言う。


「不思議だったのですが、どうしてこんなに優秀な方が追放されてしまったのでしょう。そのようなご判断をされた方は、ひょっとして、あまり頭が良くないのかもしれませんわ」


 ゼルの笑顔がみるみる崩れていく。


「彼はこの先の冒険についていけなかった!彼の身を案じてのことだよ!」

「あらあら、それはお優しいことで。では、ご機嫌麗しゅう」


 サヨが笑顔でヒラヒラと手を振る。

 ゼルはまた何か言おうとしたが、口を紡ぎ、そのままギルドを出て行った。


 同時に、聴衆が一斉にガヤガヤし始めた。


「おいおい、あの黒髪ツインテールの美少女、レスバ強過ぎないか?」

「それにしても、ムビの奴憎たらしいぜ。あんな美少女達と仲良くやりやがって」

「あんなお荷物がプロデューサーなんて信じらんねぇ。きっと騙くらかしてるに違いないぜ」

「なぁに、あんな無能、すぐにまたクビにされるのがオチさ」

「そしたら、俺が代わりにプロデューサーになろうかな」

「バカwwお前じゃ無理だってwww」

「いやいや、あんな無能よりは俺のがマシだってww」




『白銀の獅子』は宿の部屋で荒れていた。


「くそっ!何なんだあいつは!」


 ゼルは怒り狂っていた。


 あの女、ちょっと顔が良いからってつけ上がりやがって!


「ダンゴールの討伐、間違いなくムビの入れ知恵だ!俺達のやり方パクりやがって!」

”奈落の泥流”(アビス・フラッド)を使ったダンゴールの討伐方法は私が考えたのに!」


 ゴリとリゼが憤慨する。

 ただ、マリーだけは少し首を傾げる。


 ……あの討伐方法って、確かムビがリゼに伝えてたような……。

 たまたま二人が話しているのを立ち聞きしたのだけど……。


「信頼しているプロデューサーだと!?笑わせる、あんな情けない男のどこがいいんだ??」

「ほんとそうよ!あんなの地味で憶病でキモいだけの無能だってのww」


 ゼルとリゼがムビの外見や内面の悪口を散々言うが、マリーはまたこっそり首を傾げる。


 ……リゼは多分、ゼルみたいな陽キャイケメンが好きなんだろうけど……そんなに言う程かなぁ?

 地味というか、自然体であんまり自分磨きしていないだけっていうか……意外と顔かわいいし……。

 言えないけど、正直、顔だけならゼルよりムビの方が好みなんだよなぁ……。


「マリー、そういえば次の依頼はどうなっているんだ?」

「あっ、うん……。次の依頼は、最近勢いを増している野盗『蝦蟇蜘蛛』の討伐よ。アジトを発見したらしくて、直接叩くよう依頼されているわ。期限は3日後よ」

「野盗の討伐か……俺達なら楽勝だな。俺は王都の『Mtuber』とのコラボとメディア出演依頼が来ていて、そのとき一緒に新しい『動画編集者』を連れてくる予定だ。3日後だと合流が間に合わないかもしれない。悪いが、3人で片付けてきてくれ」

「あっ、実は私も……年に一度の大聖堂への礼拝予定で……」

「そういえばそうだったな。マリーもダメか……二人でいけるか?」

「当たり前でしょ。私一人でも十分だわ」

「安心しな。俺とリゼで野盗は壊滅させておくぜ」




 月の光が美しく時計塔を照らす中、『四星の絆』は時計台の前の広場を歩いていた。


「……いやー、今日はお疲れ様!ほんと凄い一日だったね!最後、『白銀の獅子』ともお話できたし!」

「このサイン、家宝にするわ……//」

「最後、ちょっと揉めちゃいましたが……。サヨ、あんな言い方しなくても……」

「ごめんなさい。実は私、今日は早くお風呂に入りたくて。ちょっと強引に断ってしまいましたわ」

「そっかぁ。まぁ仕方無いけど……」


 皆で軽く晩飯を食べた。

 明日もあるし、今日はこれで解散、という流れだろう。


「じゃあ皆、また明日!寝坊するなよ~?」

「一番危ないのはユリ、お前だ……」

「まぁ、今から寝れば大丈夫でしょう」

「明日も張り切って討伐しましょう!」

「じゃあ皆、おやすみ~♪」


 皆、それぞれの家路に就いた。

 月の光に道が照らされる中、ムビは歩きながら今日一日のことを振り返る。


 正直、ギルドではサヨさんに助けられたなぁ。

 今日は何とかなったけど、多分『白銀の獅子』に目をつけられた筈だ。

 今後もこういうことになるだろうし……。


 折角自分の居場所を見つけたのに、先のことを考えるとムビは気が重くなった。


「ムビさん。ちょっと……」


 ムビの背後から声がした。

 振り返ると、そこにはサヨがいた。


「サヨさん……どうしました?」

「いえ。少しお話がしたくて」


 黒髪ツインテールの少女が、月の光に照らされて美しく佇んでいた。


「私、『白銀の獅子』の古参ファンを名乗っていましたが、『白銀の獅子』をお慕いした理由は、演者の4人ではなく、動画の編集内容だったんです。少しでも視聴者を楽しませようという意図が伝わってきて、きっと編集されている方々は、優しくて素敵なんだろうなと思ったんです。まさか、ムビさんお一人だとは思いませんでしたが」


 幼さの残る小さな顔が、月の光に照らされてクスクスと笑う。


「だから、私の『白銀の獅子』への憧れは、ムビさん一人に向けられたものなんです。『白銀の獅子』で何があったかは存じ上げませんが、何があったとしても、私のこの気持ちは変わりません」


 あれ、何だろう……視界がぼやけてきて……


「だから、安心してください。何があっても、私だけはムビさんの味方です」


 月下に舞い降りた天使が、優しくムビに微笑みかける。

 視界が滲んでいるせいか、何もかもが、ムビにとっては現実とは思えない光景だった。

 少女はくすりと笑う。


「では、おやすみなさい。また明日」


 少女は、夜の中に消えていった。

 後には、優しい闇だけが残っていた。

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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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