表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狂犬いえいえ、忠犬ですよ。  作者: sirosugi


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/21

8 貴族の面子 前

 メイドさんの優雅な日々 貴族のお仕事編

 貴族というのは、メンドクサイ生き物なんです。気楽な侍女の立場から申し上げます、フェイラルド・テスタロッサです。

「山賊ですか、すぐに殲滅に向かいます。」

「いや、フェイ、そういうわけじゃなくてだな。」

 本日は珍しく呼び出された執務室にて、親方様からお言葉をいただくレグナ様に付き添わせていただいています。

 と思ったらたんなる山賊退治(ゴミ掃除)のお話でした。

 この世界は豊かですが、平等ではありません。貴族は貴族、平民は平民として、日々懸命に生きていれば、競争が生まれ、敗者が生まれることもあります。あるいは、事故や不運から、身を落として犯罪に走る者もいる。貴族である親方様やお嬢様たちの役目にはそんな犯罪者を駆除して、平民たちの安全の確保も含まれます。

 しかし、山賊退治(ゴミ掃除)は所詮は対人なので、ご領主一家が出向くまでもなく我々で充分な案件です。そんな不届き者は、処理してからご領主様に報告があがるものですが・・・。

「フェイ、控えなさい。お父様のお話が終わってないわ。」

 おや、色々と考えていることをレグナ様に見抜かれてしまいました。ポーカーフェイスには自信があるのですが、レグナ様には通用しません。さすが我が主。

「山賊が出たのは隣のアルファロ領だ。領の境界線である大森林に住み着いた100人規模の集団が街道を通る旅人を襲っているとのことだ。あの森は魔境ほどじゃないけど、深いからな。さすがのアルファロ閣下も手を焼いているらしい。」

「それって。」

「フェイ。」

 確信犯では?と進言しようとしたら、先回りされてしまいました。

 山賊は魔物と違って、元人間です。ゴブリンやオオカミのように勝手に増えることはありえません。もはや村ともいえる規模。飢えや貧困からの山賊行為ならば、そうなる前に何らかの対策をする必要があるし、他から流れてきたなら領に侵入される前に対策をするのが領主の役目です。10人程度なら仕方ないとしても、100人規模ともなれば、降格されても文句が言えない失態です。

「今回は場所が悪い。なんでかわかるか?」

 そういった細かいことはあえて言わず、親方様は私たちにそう問いかけました。

 これはつまり、レグナ様の教育ですわね。

「2人なら、大森林の事情は理解していると思う。大森林は複数の領で共有し管理しているものだ。魔境ほどではないが、恵みも多く、魔境よりも安全だ。それが我々にもたらすものは、貴族や王族が個人や家だけで管理するには大きすぎる。」

「国が始まる前、初代王が魔王を討つまでは、人類を生かす恵みの場所だったんですよね。だからこそ王家の天領にもせず、信頼できる複数の貴族家で共有することになったんですよね。」

「そうだぞレグナ、よく勉強しているな。だが、今回のような場合、その共有が問題になってくる。」

 レグナ様の賢い返答に微笑みながら、親方様がちらりとこちらを見ました。ええ、私は事情を把握しましたわ、守るかどうかは別として。

「うーん、アルファロ家の人達は、動きたくても動けないということですね。」

 正解ですわ、レグナ様。

「大森林は共有財産であり、森の保全のために軍の常駐は禁止されています。収穫や伐採は各家の裁量に任されていますが、限度を超えた活動は許されていません。山賊退治という名目でも、周囲の貴族が越権行為と騒げば、問題になる。最悪、王族による裁可が下ることも。」

 その通りです、授業でも習っていないはずなのに、この判断力素晴らしいです。 

「大森林には、林業や狩猟のための拠点もあります。山賊たちはその一つを使って生活しているんでしょう。小賢しい、ただの山賊ではないかもしれません。」

 パーフェクト。大森林の事情からそんな裏にまで気づかれるとは、さすがレグナ様です。貴族として満点の回答ですわ。

「その通りだ。アルファロ家のほうでもも今回の山賊騒ぎは早い段階で気づいていたのだが、対処しようとするたびに一部の貴族が騒いで対応が遅れてしまっているそうだ。ちょっと軍を集めただけでも、叛意の恐れありと騒いでいるらしい。」

 典型的な貴族間の足の引っ張り合いじゃないですか、やだー。まったく平和ボケしたゴミ虫はどこにでもすぐ沸いて困ります。

「親方様、もしかして、北のストエン家あたりですか?」

「フェイ?」

「アルファロ家に迷惑をかけるなんてストエン家ぐらいですから?」

 さすがのレグナ様も、貴族間の関係についてはまだ疎いようです。私たち召使いとしては、主に迷惑が掛かりそうな厄介貴族(ゴミムシ)の把握は最優先で学びましたから、その違いです。

「ストエン家は北方の塩湖に面した伯爵家です。アルファロ家と同様に大森林の所有権を持つ大家様なのですが、いかんせん当代の領主様は向上心の強いお方でして・・・。」

 興味深く私の話に耳を傾け、うなづいてくださるレグナ様の御耳を汚さないように慎重に言葉を選ぶのは苦労しますわ。

「ストエン家は塩湖の管理を任されいる由緒ある家柄。当代のパンク様は、現状の役職からさらに大森林の管理も行える能力を見せて、侯爵、ゆくゆくは公爵にまで上がって国に貢献したいいうお考えの勤勉なお方なのです。」

「なるほど、だから、アルファロ家の山賊退治を邪魔しているのね。なんなら、山賊も。」

 その可能性は大きいでしょう。わざわざ手のものを送り込むような愚物ではないでしょうが、山賊の気配を見逃して、アルファロ家の領地へと誘導するくらいのことはしているかもしれません。

「フェイもしっかり勉強しているようで何よりだ。」

「臣下としては当然のことでございます。むしろ出過ぎた口をお許しください。

 と、不穏な方向へと思考が流れそうになり、親方様が会話を止めたので私も追従いたします。

「ストエン家やほかの貴族に文句を言わせないように、アルファロ家の方では王都へ連絡、討伐の許可を申請している。許可が下り次第、山賊討伐が行われる。それまでは我々も協力して、街道や森周辺の巡回を強化して、山賊が森から出てこないように封じ込めることになった。」

 うーん、これは。

「父上、お疲れ様です。」

 レグナ様のねぎらいに、親方様の眉間のしわが緩みました。親方様も今回の件がイライラしていたようですわ。

「領内には追って通達するが、我が家であの街道を使うことが多いのはお前たちだ。だから先に話をすることにした。」

 たしかにアルファロ家の街道は王都へもつながるもの。親方様の名代や王太子様との交流のために、レグナ様がよく使われるものです。当然、お供として私も付き添います。

「歯がゆいですわ。いっそ証拠も残さず。」

「やーめーてーねー。それこそ山賊が居なかったら、アルファロ家の面子が大変なことになるから。」

 わかっています、冗談ですわ。

「取り急ぎ、来週王都へ出向くときは、気をつけなさい。アルファロ家が治安維持をしているからめったなことにはならないと思うが、騒ぎぐらいにはなるかもしれない。」

「「はい。」」

 親方様の言葉に、私たちは揃って返事をしました。本来なら侍女の領分を超えた行為ですが、こういう場面で揃えると、レグナ様の機嫌が大変よろしくなるのです。

 

 貴族というのは、ただ移動するだけでもそれなりの格が求められます。領内ならば馬に乗って駆けたり、徒歩でも構わないのですが、領を超えての移動ともなれば馬車や護衛などでそれなりの見た目にする必要があります。

「レグナ様、まもなく街道へとはいります。」

「そう、やりすぎないようにね。」

 公爵家の姫であるレグナ様ともなれば、馬車は一際豪華に、護衛も多数となり行列ができる。本来ならば、そうなるものでございますが、フェルグラント家は武門の家であり、もとをたどれば建国時の勇者の血筋につながります。そのため、馬車こそは派手でありますが一台のみ、護衛は少数精鋭となります。

 なんなら、身の回りのお世話も含めて私だけで十分なくらいでございます。


 えっ、何が言いたいか?

「護衛は少数だ、囲んでたたんでしまえ。」

「一斉に掛かって、人質にしてしまえばこっちのもんだ。」

 小賢しい程度の山賊からは、恰好の標的と見えたということです。

 街道を塞ぐように森から飛び出してくる30人程度の男達。見た目はバラバラですが、鎖帷子に、ピカピカの剣や槍、10人ほどはクロスボウや弓で武装しています。

「うーん、これはどこかの領軍がヘマをしたようですわね。」

 半円の陣形を取ってこちらの場所に迫る集団を前に、私は馬車を止めさせます。突っ込んでもいいですが、この程度の事で馬車に傷がついたら大変ですからね。

「では、行って参ります。」 

 護衛達には伏兵に備えて馬車の周囲の警戒をさせ、私は軽い足取りで集団に向かって進み出ます。

「なんだ、女が1人で。」

「メイドだ。あれだな、命乞いだ。捕まえて可愛がってやれ。」

 下品な笑いと笑い声。馬車は防音機能もしっかりしていますが、お嬢様の教育によろしくないですわ。

「って、まて、あれって。」

「フェルグラントの猛犬?」

 余計なことに気づいた山賊さんの気配がしたので、短剣を投げて口止めをします。

「はっ?」

 まあ、事情を聞くために数人残せば充分ですわね。

 私は駆け出して、戦闘の数人の足を浅く切りその動きを止めます。

「なっ、失礼いたします。」

 倒れていくなか、一際体格な大きな男を掴んで正面に構えます。

「ぐわ。」

 反射的に引き金が引かれたクロスボウの矢がささり、痛そうですが知ったことではありません。

「く、くるなー。」

 クロスボウや弓という遠距離武器のいいところは、安全圏から一方的に攻撃ができるからよいのであって、近づかれば意味はありません。仲間を縦にされて、攻撃をためらっている間に距離を詰めてしまえば人間も巻き藁も違いはありません。あとは武器を傷めないように手足を切って戦意をくじくだけ。

 ね、簡単でしょ。

「な、囲め、相手は一人だ。」

「よ、よくも弟を。」

 瞬く間に半数の仲間が戦闘不能になったタイミングで、山賊たちは、撤退か降伏かの選択をする余裕が少しだけありましたの。まあ、選択以前の愚かさでしたけど。

「逃げても無駄ですけどね。」

 数程度でどうにかなるような実力で、レグナ様のフェルグラント家の下僕が務まるわけないじゃないですか。

 幸いなことに別動隊や伏兵はいませんでした。馬車単機で少数の護衛。30人で一斉に掛かれば造作もない相手と思っていたのでしょうけれど、相手が悪すぎましたね。

フェイ「サーチ&デストロイ。」

レグナ「ハウス」

 貴族の揉め事も立場も関係なく、主人を害するなら切り捨てる系の有能な侍女です。

 後編は山賊お掃除タイムです。



 今更ですが、貴族関係とメインキャラの名前は車のメーカーや車種をもとにしています。 

 アルファロ家・・・アルファロメロ

 ストエン家・・・エンスト みたいな感じで

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ