6 ベイビーな赤子はすくすく育った。
メイドさん成長編
そのまま私はフェルグラント領の領城へと運ばれ、育てられることになりました。とまだまだ赤ん坊のフェイラルド・テスタロッサですわ。
「おお、ちいさい。」
「かあさま、前にに話していた妹ってこの子ですか?」
城に運ばれ、何人もの女性によって身を清められた私は、ふかふかのベットに寝かされて快適でしたが、そんな私を見下ろす、小さなな人達は脅威でした。今までは私の何倍も大きな人達ばかりでしたので、自分に近いサイズのお二人のことは印象に残っています。
「おお、やわから。」
無遠慮に頬っぺたをぷにぷにしていた男の子とめっとその手をはねる女の子。他と比べたら小さいですが、私よりも大きい彼らの興味と警戒の視線は厄介なものでした。
「めっ、アル。赤ちゃんは大事にする。」
「いたい、何する。」
私を見ていたと思ったら急に喧嘩を初めてしまいました。
「こら、2人とも。赤ちゃんの前ではいい子にしなさい。」
と思ったら女神様によって2人は一喝されて、静かになりました。
「ごめんなさいね、フェイラルド。お姉ちゃんもお兄ちゃんもあなたに興味深々なのよ。」
そっと抱き上げられニコニコと笑う顔が近づき私がきょとんとしているのを見て。
「ほら、アル、マール。この子が今日から新しい家族になるフェイラルドよ。改めて挨拶して。」
その場に腰かけは女神様は、私の顔が良く見えるように抱っこいして2人に近づけました。
「マールよ、ふぃれるど?」
「ふぃれるど?」
「あらあら、2人にはちょっと難しいのよ、フェイラルドよ。」
「「ううーん。」」
どうやら私の名前は発音が難しいようです。
「そうだ、フェイ、フェイちゃんよ。」
「「フェイ!」」
いいやすい名前に2人は嬉々してはしゃぎ、私にずいっと顔を近づけました。
「マル―ラ フェルグランド。マールお姉ちゃんだよ。フェイちゃん。」
「アルフォード フェルグランド アルだ。よろしくな。」
女の子のほうがすまし顔で、男の子の方は興味深そうに私に挨拶してくれました。
「母様、私も抱っこしたい。」
「ええっと、もう少し落ち着いてからね。」
先ほどの行動はなんだったのか、女の子方は私をなで繰り回していました。
ちなみにこのお子様たちは、恐れ多くもフェルグラント夫妻のお子様で、女神様もとい奥様は私を自分たちの娘として迎えいれてくれたのです。
ほんと畏れ多いですね。
といっても、奥様もお館様も忙しいので、私やお子様たちの面倒を見てくれたのは、侍女長や屋敷の人々でしたけどね。
「ほら、お食べなさい。苦いかもだけど、こっちもね。」
侍女長のイザベル様はぶっきらぼうな言い回しに、どこか怒ったような表情でしたが、匙で根気よく食事を与えてくれ、食事の後は私が眠るまで抱っこしてくれました。家中の人間が私を構いたがる中、私の睡眠時間はイザベル様によって守られていたそうです。
「さて、今日は先代フェルグラント様のお話をしましょうか。」
執事のトマ様は、世話こそしてくれませんでした、私が退屈そうにしているとふらりと現れてはたくさん昔話をしてくれました。此方の顔を見ながら穏やかに話してくださるので私は話すことはわりとすぐに理解できました。
「トマ?」
私が初めて喋った言葉は、トマ様の顔を指さしての「トマ」だったそうです。トマ様は今でも自慢されますわ。おかげで、トマ様のお孫様から嫉妬されたりもします。(冗談ですけど。)
「フェイ、これがリンゴで、こっちはオレンジ。どっちが食べたい。」
「これ?」
料理長のナックル様は、籠一杯の食べ物を持ってきては私の食べたいものを何度も聞いてくださいました。
「両方でもいいんだぞ、もっと食べて肉をつけないと。」
「ナックルさん、食事は先ほど相談したでしょ?」
ただその量は加減を知らないのか、これでもかとお皿に料理を用意しては、イザベル様と静かに言い合っていました。お館様よりも大きいナックル様がイザベル様に怒られてしゅんとなっている姿は、今でも時々見られる光景ですが、とても微笑ましいです。
まあでも、奥様やお館様は別格でしたわ。
お館様は寝てばかりの私を気にかけて、執務の合間を縫っては私のもとを訪れて中庭や外に連れ出して様々な景色を見せてくださいました。
「フェイ、みろ。ひまわりがこんなに大きく育ったているぞ。。」
「おお。」
「そうだ、そづだ。ひまわりはいいぞ、土が良ければどこまでも育つし、種は家畜のえさにも使える。」
「なるほど。」
舌足らずでも反応を返すのがうれしいのか、意気揚々といろいろな場所に連れ出してくれましたが、
「「旦那様(お館様)。まだ身体が落ち着いていないフェイを連れ出すなとあれほど。」」
たいていはニコニコと笑う奥様か、眉間にしわを寄せるイザベル様にお説教をもらっていました。
そうですよ、フェルグラント家ではアリア様とイザベル様が一番強いのです。旦那様もアル兄さまも私も、奥様とイザベル様には逆らえません。
ほかにも家中の人が幼い私に夢中だった。とイザベル様や奥様は懐かしそうに良く話してくださいます。捨て子だった私にもやさしい素晴らしい人々です。
大事に育てられ、栄養も睡眠もしっかりととれた私はすくすくと育ち、半年後の年明けの祝いの時には立ち歩けるぐらいには回復し、その背丈はアル兄さまと同じぐらいには育っていました。
子どもの成長は早いと言いますが、私の成長は少々異常だったようです。荒野で拾われたときは赤ん坊ほどの矮躯だった私は、すくすくと育ち、歩けるようになり、たくさん話しかけられたことで話すことも達者になりました。
「ごるどさま、まりあさま。しんねんあけましておめでとうございます。」
見様見真似の淑女の礼をお披露目したら、家中の皆さんが微妙な顔をしたことは覚えています。
「フェイ、それは侍女や臣下のものがするお辞儀よ。」
一番最初に我に返ったイザベル様がそう言って抱きしめてくださいました。普段は厳しいイザベル様がそのときはとてもやさしかったのは、驚きとともに新年の喜びを教えてくださいました。そう、それが私にとって一番古い新年の記憶でございますね。。
少々話が長くなってきましたね。あなたさまが聞きたいのは、お嬢様との出会いなのかもしれませんが、少々お待ちください。
さて、新年の挨拶は、私の異常さの発露であったのでしょう。その日の内に話し合いがもたれ、次の日から私はイザベル様の下で侍女としての教育を受けることになりました。
「フェイはまだ子供よ、それに私たちの子です。あの子を拾ったときにそう覚悟したのよ。」
「それは承知しております。ですがあの子の賢さなら自分の状況は理解しているはずです。そうでなくてもいずれはご家族や周囲との差に気づくでしょう。そうなったときあの子が苦しまないようにできることはしておくべきです。」
「でも。」
「無論、最後に選ぶのはあの子です。ですが、選べなくなってからでは遅いんですよ。」
何やら激しい話し合いがなされたそうですが、最終的にはイザベル様の意見が通ったそうです。私は子供向けの柔らかい服から、新品のお仕着せを与えられ、イザベル様監督のもと、他の侍女様達とともに侍女見習いとして働き始めました。
「いいですか、侍女とは家と主の守り手です。主が快適に過ごし仕事に集中できるように環境を整え、家を健全に保つ、そのための仕事は多岐にわたり多くの人と協力して仕事に取り組みます。あなたもできることを見つけ、己を磨きなさい。」
「はい、イザベルさま。」
「これからは私ことを侍女長と呼びなさい。」
「はい、じじょちょう。」
そのやりとりをしつつ、少しだけ身体が重く感じたのは寂しいという感情だったのでしょうか。ですが、イザベル様が予見したとおり、私は私の立場をそれなりに理解していました。愛され、世話をされているという自覚とともに、マル兄さまやアール姉様とは微妙に扱いが違う。今となっては当たり前と思えますが、当時の私は、自分にはそのあたりの感情は理解できませんでした。
ただ一つ誇れることは、イザベル様を含め、フェルグラント家の使用人たちは最強だったということですね。
「いいすか、洗濯は魔道具を使えばいいですが、魔道具にいれる前には必ず確認するっす、色物を分けておくのはは当然ですが、折り目がないかを確認すること。洗浄時間と洗剤は数を繰り返して覚えるっすよ。」
「はい。」
ランドリーメイドは、魔道具を使いこなすだけでなく、手洗いでもどんな汚れも取り除けます。訓練や遊びでできた泥汚れも、遠征でついた魔物の血の汚れも、鬼気迫る彼女たちの技術なら元通りです。
「掃除は高いところからと言いますが、そうなると誇りとか汚れが誰かにかかることがありますよ。ですから朝一番、他の人が働きだす前にさっさとすませるんですよ。あとはたまる前に、気づかれる前にですよ。」
チェインバーメイドは気配を消すのが上手で、気を抜くと見失ってしまいます。そして、痕跡を残さない仕事で部屋はいつでも清潔。この技術は未だに追いつける気がしません。
「料理で大事なのは食べる相手を考えることだ。相手の体調や好みはもちろんだが、備蓄や仕入れのバランスを考えて、主が望むタイミングで最高の食事をいつでも用意できるように準備しておくことだ。」
ナックル様が率いる料理人チームは、仕入れから下処理、調理までを一手に引き入れる精鋭チームです。王城からのスカウトを断るほどの腕前は説明するまでもありませんね。ただ気になることがあるとすれば、ナックル様含め、私には材料の下処理以上のことはさせていただけませんでした。
人には向き不向きがあると言い訳されましたが・・・。
いえ、わかっています、私は料理に関しては才能がありませんよ。
過去パート成長編 次回は修行編です。




