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狂犬いえいえ、忠犬ですよ。  作者: sirosugi


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5  メイドさんは生まれを語る。

 メイドさん誕生秘話

 まあ、私の生まれなんてものに興味を持つなんてもの好きがいるものですわ。でも突然の問いかけでも素直に語りますと、フェイラルド・テスタロッサですわ。


 いえいえ、悪意ではなく、真実として知りたいと思っているのは信じますよ。揶揄いの気持ちでこのような質問をされるような人が、あの方にお仕えできるとは思いませんし、アナタ個人は信用していますから。

 そうですねー、ます私についてのうわさ、生まれに関してはうそではないですよ。私の出生はまさしく野良犬がふさわしいですから。


 ファムアット王国の東側が魔境というのは今更ですが、その境界線であるフェルグラント家の東側もなかなかに自然豊かな土地です。

 私の一番幼い記憶は、そんな大自然の中で転がっている自分の小さな身体でした。

 ボロボロになった布にくるまれ、しまわれた籠は横倒し、視界には土と草、地面の固さと風の冷たさ。ただそれを理解する知能というものがなかったので、このあたりは後付けなんですけどね。


「おい、来てくれ。子どもだ。」


 それが私を差しているのは分かりませんでした。視線を動かす気力もない私にはそんな音がしたという感覚でしたが、その直後に私の身体は持ち上げられました。


「か、軽い、生きているのか。」


 そう言ってずいと近づく顔に私は目をぱちぱちさせました。長い髪に伸びた髭、言ってはあれですがクマのような顔だったと思います。


「瞬きをした。だが。」

「ゴルド様、こちらをまずは水を。」


 何やら慌てるクマさんの腕はなかなかに居心地が悪かったのですが、すっと差し出された濡れた布、そこに含まれた水分に私は本能的に食いつきました。

 どれほどの時間だったのか、わかりませんが私は結構な時間を放置されていたらしく、まるで生まれたてての赤子のミイラようだったそうです。


「よし。飲め飲め。生きてる証拠だな。」


 そう思うなら、もう少し優しく持ってほしい、妙に力がはいって痛いしバランスが悪いです。


「おや、どうした、お腹が空いているのか?」

「ゴルド様、それではいけません。ほらこんなに怯えて。」


 しかめっ面になっていた私を、水を差しだしてくれた人が奪い取る。此方は頭もカバーしたなかなか上手な抱っこでした。


「おお、よしよし、まだ首も座っていない。いや弱っているんですかね。顔を見る限りでは3歳か4歳じゃないでしょうか?」

「そうなのか、それなのにあんなに軽いなんて。」

「捨て子?それにしては、あまりにも。」

「ともかく、急ぎ帰るぞ。帰り道でよかった。」


 何やら色々話されていましたが、安定した腕の暖かに私の意志はすとんと落ちていました。


 次に気づいたとき、今度は女神様のように美しい人に私は抱かれていました。


「あら、起きまちたかー。泣かなくて偉いでちゅねー。」


 滝のようにな落ちる金髪に、甘い香り、それでいてどこまでも深い黒の瞳。あまりにきれいで自然と手を伸ばすが、思うように身体は動きません。


「あらあら、大丈夫よ。すぐによくなるからね。」


 そんな私を察して、女神様は私の手をそっと握って温めてくれました。そのぬくもりに安堵していると、口もとに何か甘く温かい物が近づいてきました。


「お乳が出たらいいんだけど、ミルクで我慢してね。」


 ちゅるり、流し込まれたそれは、甘く温かった。これは私の記憶の中で一番古い美味しいという感情でした。


「おお、よしよし、マールやアルとは違って泣かないのね、アナタは?」


 次々に運ばれるミルクと温かな女神様の優しさ。それを恨めしそうに見ているクマさんと、ニヤニヤと笑う大人たち。

 女神様の名前はアリア・フェルグランド様。クマさんの名前はゴルド・フェルグランド様、

 そう赤子のときに捨てられた私を拾ってくださったのは畏れ多くもフェルグランド家の領主夫妻様だたのです。


「回復魔法をかけることはできないのか?」

「幼いうちに魔法は成長に悪影響があるの。それにこれだけ食欲があるならば大丈夫よ。すぐに元気になる。」


 私を中心に何やらお話をされていたようですが、赤子の私にはほとんど記憶はありません。

 ですが、私のことを真剣に考え、面倒を見てくれた女神さま、いえマリア様への恩義は確かに感じておりました。

 後になって分かったことですが、ゴルド様達は定期的に行っている視察の帰りに私を見つけたそうです。私の近くには壊れた馬車と争った痕跡、人間の痕跡は他になかったそうです。


「フェイラルド・テスタロッサ。テスタロッサという家名は聞いたことがないですね。」

「ああ、もしかしたら外国から亡命していた一族の生き残りかもしれない。子どもだけ残して・・・。」


 まあ、そんな感じに領主様たちは語っていたそうです。私の名前はくるまれた布と籠に書かれていたようで、恐れ多くもみなし子でありながら苗字をもつ栄誉も賜っているのはそのためです。


「この子は、我が家で育てる。きっと強い子になるぞ。」


 泣かない赤子というのはツボにはいったらしく、ゴルド様は、マリア様のもとを訪れるまえに私を育てること決意されていたとか。


「そうね、今の旦那様を見てを泣かないし、怯えた様子もありませんから。」

「御屋形様の顔は、坊ちゃんですら怖がりますからね。」

「おい!」


 自然とこぼれる笑い声。温かい空気を感じつつ、それを理解する知恵もない私は瞼を閉じるのでした。

拾われた赤子は美しく成長し、やがて・・・。

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