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3 華麗なる侍女の一日 前

 メイドさんの優雅な一日

 侍女の朝はとても早いのですよと、フェイラルド・テスタロッサです。ごきげんよう。

 私の朝は、日の出とほぼ同時、朝告げの鶏の鳴き声よりも早いです。

 昔から寝付きと寝起きの良い私は、ぱっと目を覚ましたらベットから静かに這い出して、水場で顔を洗い寝巻のまま外へでて、見回りを兼ねたランニングをします。

「フェイ、おはよう。」

「おはようございます。そしてお疲れ様です。」

 すれ違う夜回り担当の兵士さんや侍女たちと挨拶を交わしながら、屋敷内を走り回り、時々止まってはスクワットや懸垂、素振りなどを行います。サーキットトレーニングという技法らしいのですが、フェルグラント家の侍女たるもの、この程度は呼吸よりも簡単にできなければ務まりません。

 程よく汗をかいたころに、見回りは終わり、井戸水を使って身体を清めて寝間着からお仕着せに着替えます。洗濯は、城中のものをまとめてランドリーメイドの人達が丁寧にしてくれますが、余計な手間をかけないように泥汚れやしわがないか確認して丁寧にたたんで置いておくのがポイントです。

 着替えが終わったら調理場へと向かい、朝食をいただきます。使用人用の食堂は、常に火がともり、料理人による出来立ての料理が食べられます。

 本来ならば使用人の食事というのは主の後なのですが、恐れ多くお館様は、出来立てを食べられるようにと理由を付けて、自分たちと同じレベルの食事を私立にも与えてくださいます。

「フェイ、どうだ、ちゃんと食べてるか。」

 まあ、人数が人数なので、料理は大皿に盛られ、その場にいる使用人たちで協力してお皿などは準備するわけですが、料理長のナックル様は、私の食事に関しては直々に山盛りの食材をのせてくださいます。

「ええ、今日も美味しいです。そろそろタケノコの季節とは思っていましたが、獲れたてはおいしいですねー。」

「ははは、朝イチの獲れたてだからな。ナマで食えるぞ。」

 いえ、それはさすがに、まさかと思いますが、お嬢様に?

「いやいや、お館様の趣味だ。あの人は自分で堀に行ってその場で食べてるいんだ。」

「畏れながら、お館様の基準についていけるのは、ナックル様だけですわ。」

「なんだよ、お前だっていける口だろ。」

 ちなみにですが、フェルグラント家の中で一番の早起きはナックル様でしょう。どんなに早起きしてもこの人は調理場でその剛腕をふるって城内の食事を提供されています。

 ナックル様を含めた他の使用人たちと雑談をしつつ、手早く食事を済ませたら、準備は完了です。

 

 レグナ様を含め、フェルグラント家の人達の朝は早いです。城の最上階にあるご家族のお部屋の一室の扉の前にカートを置き、私はそっと扉を開けて、中に入りカーテンを開けて朝の日差しを部屋に取り込みます。すると天蓋付きのベットに程よく光りが当たり、ベール越しの小柄な影がわずかに動きます。

 そのままカートをそっとベット脇に置き、お嬢様が完全に目を覚ますの待ちます。

「すー、すー。」

 昨日の夜に王都から帰ったばかりなのでお疲れなのでしょう、レグナ様の眠りはいつもよりの深いようで、朝の日差しから逃げるように寝返りを打ちながらまだ眠っておられます。凛とした態度で、大人びたお嬢様ですが、寝起きは年相応の無邪気さを感じます。

 無論、主の眠りを妨げるような愚行は起こしません。気配を消しじっとお嬢様を見守りながらいつでも動けるように待機する。私の朝の仕事はお嬢さまの安眠をお守りすることです。

「フェイ、レグナ。起きろ。今日は。ぶぺ」

 例えば淑女の部屋に無遠慮に飛び込んでくるアル兄さまや、お館様の迎撃でしょうか。

 扉を開けて現れたアル兄さまの顔面に柔らかい枕をたたきつけて廊下の外に押し出し、すばやく近づいて足払いをかけます。

「おっと、き、ぐは。」

 軽やかに避けたところに、他の侍女がモップで遠慮なくたたきつけて地面に寝かせる。枕をクッション代わりにしたので音は最低限です。

「アル兄さま、レグナ様はまだお休みです、昨日王城から帰ったばかりなのでお疲れなのです。」

 それ以上は言わなくてもわかるよな?

 こくこくとうなづくアル兄さまを他の侍女たちに引き渡し、再び部屋に戻ります。そういえば、今日はアル兄さまもお帰りになっていたことを失念していて事前に対処するのを忘れておりました。

 これは侍女長様のイザベル様にあとで怒られてしまいますねー。

「うーん、フェイ?」

「はい、ここに。」

 おっと、そんなことよりもお嬢様がお目覚めになられました。起きてすぐに私を探していただける栄養に胸が熱くなりますが、今は仕事です。

「おはよう。フェイ。」

「おはようございます。レグナ様。」

 ニコリと笑うレグナ様の魅力の虜になりながら、私は視線を合わせます。

「今日は特に予定はありませんし、もう少しお休みなられても大丈夫ですよ。」

「ううん、起きる。」

 そう言ってレグナ様はゆらりと起き上がりベットからでて容姿された椅子に座られます。

「失礼いたします。」

 寝癖知らずの艶やかな髪にブラシを通し、蒸したタオルでお顔や手足を拭かせていただき整えます。

「お食事はどうされますか。」

「食堂で食べる、アル兄様がきっとうるさい。」

「ふふふ、そうですね。」

 あのシスコン、そうしないとまた来るでしょうしねー。

 

 身支度を整えられたころには、レグナ様は凛とした淑女となられます。本日は外出の予定はないのでシンプルなドレスなのですが、立ち居振る舞いは10歳とは思えないほど洗練されています。もくもくと廊下を歩くレグナ様のあとを付き従いながら、食堂へとご案内すると、奥様とお館様、そしてアル兄様がすでに食事をされていました。

「おはようございます。」

「おはよう、昨日はお疲れさま。」

「おはよう、今日はタケノコご飯だぞ。」

「アル、少しは落ち着きなさい。」

 和やかに会話されるフェルグラント家の人達に私たち使用人たちもほっこりします。他家に嫁入りされたマール姉様に、王都で兵士として働きながら修行中のアル兄様。3人の御子息様達が全員揃うことはむずかしいのですが、今日はアル兄様がいらっしゃる分、城内もにぎやかになることでしょう。

「フェイ、避ければあなたも。」

「奥様、申し訳ございません。私はすでに朝食はすませておりますので。」

 そして畏れ多くも奥様は私をお誘いいただけくのですが、私はやんわりと断ります。いかに慈悲深い主様達ですが、そこはわきまえなくてはなりません。


 朝食後は、予想通り。アル兄様がレグナ様の元へと押しかけてまいりました。

「よし、2人とも、今日は一緒に森へ行くぞ。」

 主語がありませんわ、アル兄様。レグナ様も平然とされていますが、困惑されて言葉もありません。

「アル兄様、なぜ、森に?」

「そこに森があるからだ。」

 だめだこの人。今年17歳になる上、許嫁もいるというのに、ホント残念な人です。 

 


侍女?メイド?それ以上に優秀です。


基本的には前後編なお話の展開を計画しています。

前編で問題提起、後編で解決みたいな?

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