23 地味な人ほど、強くて厄介なものです。後編
バトルものになった?
貴族は、誰よりも先に戦いに赴く。率先して危険に身を投じて、下々の安寧を守るのが貴族の義務。誰よりも血を流すのが貴族らしいですわ。
オーガというのは、魔王が存命だったころから人類の脅威となっていた恐ろしい魔物です。3メートルから5メートルの巨体に、並みの矢や剣では傷一つつかない固い皮膚、なにより強靭な食欲を持っています。その鋭いキバで動くものはすべて獲物とみなし、空腹になれば木や石だって食べ、共食いもする。その飢餓に支配されたオーガは、どんな敵も要塞でも餌とみなせば殺到する。
また、群れをつくる魔物であり、数十頭から数百頭に膨れ上がったオーガの群れは、軍隊や街、要塞ですら食べ尽くすと言われている。
「矢でも石でもなんでもいい、ともかく攻撃して、時間を稼ぐんだ。」
フェルグラント領に幾つか存在する砦の一つ。いち早くオーガの群れの存在をした兵士達の誘導により周囲の領民たちを退避させ、不倶戴天の覚悟でオーガの群れと対峙していた。石作りの頑丈な砦に何重にも掘られた堀と罠。獲物を追って進軍するオーガ達は、それらに足を取られなあらもひるむことなく一直線に砦をめざしていた。
その数はおよそ50。中規模の群れながら砦を飲み込むには充分な脅威だった。
オーガは動く物を獲物として好む。だから逃げると地の果てまで追い回す。それでいて、執念深く、どんなに固く守られた砦であっても、そこに獲物がいれば、食べ尽くすまでは余所へ行かない。
「よりにもよって、オーガとは。」
「あいつらにとっちゃ、獲物がまとまって鍋にはいっているようなもんじゃないか。」
交代で休みながらオーガの進撃を止めること数日、いつ崩れるかもわからない均衡をなんとか保っていた兵士達は、矢の雨でもゆっくりと進んでくるオーガの群れを見ながらそんなことを話していた。
「耐えろ。もうすぐ、もうすぐ、お館様と領軍が来てくださるはずだ。」
「それまでだ、それまで耐えればいいんだ。その身を削ってでも民を守るのだ。」
必死に兵士達を鼓舞する隊長たちであるが、そこには隠しきれない疲労が見えてきた。
「隊長、矢の残りが。」
「くっ、射手の数を半分にするぞ。補給とともに、小隊長に伝令をしろ。」
歴戦の兵士であっても疲労はるし、矢や食料には限りがある。オーガの群れを発見して二週間、周囲の領民を避難させるのに一週間、オーガ―の群れが砦に狙いを定め、弓と罠による足止めを図って3日。オーガのあしを止めることには市成功しているが、矢が尽きれば即座に取り付かれるだろう。
「最悪の場合は女子供だけでも逃がすことを考えなければなるまい。」
オーガの群れを相手にしたならば、砦の中よりもばらばらに逃げた方が生き残る可能性は高い。兵士たちが死に物狂いで戦い、その身を食われてばさらに時間を稼げるだろう。
「決死隊の希望者を集っておくべきか・・・。」
魔物との闘いはそれだけ過酷であり、状況はギリギリ。砦を任された隊長たちは徐々に尽きていく矢玉を前に、絶望的な算段をはじめる。次の段階へ行くことをためらっていたら、待っているのは全滅だ。
「それは今しばらくお控えくださると助かります。」
ひらりと城壁に飛び乗りながら、そんな犬死に好意はやめていただきましょう。
「なっ、あなたさま。」
「フェイラルド・テスタロッサです、ごきげんよう。よくぞ進軍を抑えてくださりました。御屋形様も大変、感心しておられました。」
おそらくは、タイミングはギリギリということで、私を先行させ御屋形様のご慧眼は、すばらしい。
「これよりは、私どもが引き受けます。兵士に皆さまは念のために南門の封鎖を解除しておいてください。」
「ま、お一人で。」
「ええ。問題ありません。」
そのままひらりと城壁を蹴って、城壁を滑るように駆け下りて地面へと降ります。
ええ、登れるなら降りるのはもっと簡単な物ですわ。
「ぐるっるうううううううう。」
地面に降り立つと同時に矢の攻撃が止まり、オーガたちはすぐに私を見つけて駆けだしました。
「まったく品がない。」
冬の貴人のような特殊能力もない筋肉馬鹿にもふさわしい知能の低さ。
「でもせっかくの罠が壊れるのはもったいないですわねー。」
迎え撃ってもいいのですが、後のことも考えて、私は斜め右に走り出して、オーガの群れを連れ出します。お互いの距離は200メートルほど、この距離まで攻められても諦めなかった砦の兵士さんは実に優秀でありますわね。
「ほらほら、その程度では捕まえられませんわよ。」
適当に挑発しながあ、砦からオーガたちを引き離し、私の特異な平原へとおびき出す。ここまでは順調。目前に迫るオーガの群れはまるで濁流のようでありますが、個体差があるので、全体に縦長に伸びています。
「しっ。」
こちらに向かって手を伸ばす戦闘のオーガに飛び乗り、驚く首にあいさつ代わりの一撃。
「むう、なかなかに硬い。」
一太刀でスパっと行きたかったのですが、太い首全体を切るには勢い足らず首を切り裂いた程度で動きを止めることは叶いませんでした。
「ぐるわああああ。」
まあ致命傷にできたのでよしよしましょう。横になった視界でそれでもまだ私を捕まえようと群がるオーガーを足場に再び距離をとります。
「なるほど、まずまずの群れですわね。」
オーガを狩ったことはなんどかあります。ただその時は、もっと小さな群れで、アル兄さま達と一緒でしからわりと危なげなくいけたのですが。
群れが大きいということはそれだけ肥えたオーガです。つまり以前よりも硬く、力も強いということ。
「切れないわけではないですが、この数がめんどうですわ。」
タイマンなら問題なく処理できます。しかし、囲まれてしまえば私程度の可憐な侍女など押しつぶされてしまうでしょう。うまく立ち回れたとして、最後まで武器が持つかが不安です。
「オーガは剣士殺しでしたっけ?」
その硬い皮膚と巨体と生命力により、武器で戦う兵士の天敵と言われています。まあ、空を飛ぶ飛龍や実体のないレイスやスライムなども天敵と言われてますけど。
「参りましょう。」
致命傷を与えた個体は無視して、それを美味しそうに眺めていた一体に狙いを定めて、そのかかとを浅きりつけます。
「ぐぎゃ?」
鈍い痛みに顔をしかめて目を閉じた身体を駆けあがって、その首筋を切りつける。今度はさっきよりも力を加えて。
スパン。
「よし。」
今度は上手に首を切り離せました。
「ぎゃあああ。」
仲間がやられた。ですが、それがどのように行われたか理解する知能はオーガにはなく、仲間の血の匂いと目の前に肉に気を取られる。そんなぼーとした態度をしているうちにその頭を飛び回って3体のを切りつけます。
「「「ぎゃあああああ。」」」
上がる絶叫のうるさいこと。きっと砦を超えて周辺で聞こえていることでしょう。
「ぐらああああ。」
耳を塞ぎながら着地をして私は逃走を図ります。
いやいや、命令でもなければ50体のオーガ相手にこんな目立つ立ち回りなんてしませんよ。
私の役目は3つ。一つは、砦の兵士さんに御屋形様の出陣を伝えて希望を与えること。
「はい、砦からは誰も出ていませんね。」
二つ目は、オーガの群れを砦から引き離すこと。避難にせよ、突撃にせよ。あの場所は都合が悪いのです。馬などを使って魔物を釣るのは兵士の役目です。
「ぐるうううううう。」
一部のオーガは、死体となったお仲間をむさぼり始めましたがほとんどのオーガは私を追ってきます。食欲を優先するオーガですが、自分たちを傷つけた相手に怒りを表しに、その注意は私に集中しています。仲間のカタキであり、強敵、そして美味しそうな雌を前に、オーガさんも大興奮ですわ。
「まあ、このくらいでしょう。」
3つ目の役目は、オーガに叫び声をあげさせて、その位置を知らせること。
ヒュン。
それは、最初は静かな風切り音でした。ですがその直後に
ドン。
遅れてきた音は空気を打ち破る轟音。そして、すさまじい衝撃でした。
「おっとっと。」
剣を地面にさして支えにすることでなんとか転倒は免れましたが、全く加減がない。
ヒュン、ドン。
最後訪れる音と衝撃。今度はそれに逆らわずに吹き飛ばされるように後方に飛びます。
「お見事。」
残っているのは、バラバラにちぎれたオーガの成れの果てです。
とてつもなく大きな力によって切り裂かれ、衝撃の余波で肉片はネジ切れて、もとがなんだかわからないほどぐちゃぐちゃになっています。巻き上げられ、雨のように降り注いで、地面を染め上げる血だけが、それがかつて生き物であった証拠となるのでしょうか?
「やりすぎですわ。」
こちらに向かって近づく土煙をみながら、私は周囲に生き残りがいないか念のために確認をします。万が一うち漏らしがある場合は、さすがに侍女服が汚れてしまいます。
勇剣術の奥義「曼珠沙華」
その術理を理解するには、勇剣術の攻防術のすべてを理解する必要がある。というのが初代様の残された手記には書かれていたとかいないとか。
その奥義を極めた剣士は距離と時間を調節して相手を倒すと言われる必殺の一撃でございますわ。
「はは、今回も失敗だなー。」
「これだけの地獄を作っておいて、失敗ですか。流石ですは、御屋形様。」
「フェイ、褒めてないよな、それ。」
すべてを理解する。つまり先ほどの一撃を繰り出したのは、自分の技の結果を見て、がははとご機嫌な御屋形様であります。馬と兵士を連れた行軍では砦の救出に間に合わないと判断された御屋形様は、私を先行させて、オーガを砦から引き離すように命令をくだされました。
そして、ご自身も急いで現地へと向かいながらも、オーガの絶叫を目印、オーガの群れを襲撃、ただの一撃(ですよね?)をもって、その群れを鎮圧されました。
「というわけですが、理解できましたか、お嬢様。」
「いや、流石に無理。」
「ですよねー。」
マル兄さま共に、剣の手ほどきを受け、その戦いを何度も拝見させていただいた私にも全く分かりません。魔法と言われた方がまだ納得できます。
剣も魔法も極まった先は同じ。私や一部の人間が己の強さを奢らないのは、御屋形様のこの一撃を知っているからであります。おいそれと使えるものではないとのことですが、
「それはともかく、フェイ、よくやった。そしてよく生き残った。」
「身に余る名誉でございますわ。」
にこやかに私の頭をなでようとする手を避けてから、私は臣下の礼をもって答えました。
「(´・ω・`)。」
いや、なんですかその顔。
ちなみにですが、私が間に合わずに砦にオーガが取りついていた場合は、私を含めた兵士たち損害を無視して突撃して、1人でも多くを救うという作戦を。オーガの引き付けがうまくいかない場合は、私は見捨てて、諸共に吹き飛ばす予定だったりします。民のために命を懸ける。領民の生活を守る、フェルグランド家の人間としては当然の行為であります。
「フェイ、大丈夫。」
「はい、おかげ様でかすり傷一つ、しわ一つありませんわ。」
ただし、それはメイナ様には伏せさせていただいています。
「すごいね、フェイは。」
「当然ですわ。」
お嬢様の身に危険が及ばないような場面で、命をかけるどころか、侍女服を汚すような危険を冒す気などありません。
「私はお嬢様の侍女ですから。」
あとそうですね、名誉のために言っておきますが、砦を背後に武器を交換しながら、侍女服の汚れを気にせず戦えば、この群れは倒しきれましたわ。
危ないからやりませんけど。
ゴルド「俺ツエー。」
フェイ「なんだかんだ、かっこいいんですよねー。お嬢様を連れ出したのはNGですが。」
王国最強は伊達ではない。けど強すぎるゆえに、戦えない悲しき領主様




