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狂犬いえいえ、忠犬ですよ。  作者: sirosugi


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21/21

21 お家騒動は余所でやってほしいです 後

 ざまあ劇場(秒で解決)

 テンプレな修羅場というのをはじめてみて、ちょっとワクワクしています。恋愛は嫌いではないフェイラルド・テスタロッサです、ごきげんよう。

 場の空気がおかしいことにただ一人気づかない愚か者は、言い聞かせるようにもう一度宣言しました。

「ピスタ・レヴァンテ。今日、この場をもって、お前との婚約は破棄させてもらう。」

 気取ったぽーすで指をさしながらの宣言に、ピスタさんはキョトンとした顔をした数秒固まり、その後、驚いたように目を丸くされました。

「え、何を言い出すんですか。わかってますか?」

 この場所で?このタイミングで?どの立場から?後ろに続ける言葉に悩まれて慌てる様子は、なかなかに可愛らしい。根が素直な御人なのでしょう。

「わかっているとも、もうお前とは許嫁でもなんでもないという意味だ。お前こそわかっているのか、何を馬鹿面をさらしている、殿下の御前だぞ。」

 どの口がおしゃってるのでしょう。

 ちらりと殿下たちを見ると、全員が微妙な顔をして黙っています。どうやらこの場は見守るようです。私達もそれに倣いましょう。

 がんばってくださいまし、ピスタさん。

「ええっと。」

「愚鈍だな。いつもの減らず口はどうした、無駄に知識ばかりため込んでいるから、こういうときに気の利いた言葉一つ言えないんだ。」

 やれやれといった様子で、首をふり、愚か者は強い言葉でまくし立てる。

「女のくせに、侍女が居なければ化粧の一つもろくにできないし、男をたてることもしない。口を開けば、今日はリンゴがいくらだの、輸入した商品の儲けがどうかなど、金の話ばかり、あるいは俺の上げ足をとるしか能がない。だったら黙っていればいいのに、社交の場では、私より話す。そんなでしゃばりで可愛げのないやつと婚約者をしてやっていた俺の気持ちを考えたことがあるか。」

 女性は男を立てるもの。そう言う考えがないわけではありませんが、最近は古臭いと考えられています。なにせ、現王様からして、愛妻家であり、恐妻家でありますし。この国で最強なのは、我らが主である奥様、アリア・フェルグラント様ですから。有能な女性が見合った評価を受けるのは、一般的です。

 一方で、古い慣習を好む貴族にとっては、女性は家を守り、子を産むのが仕事という考えが未だに根強いそうです。プロドゥア家はきっとそういう家柄なのでしょう。

「で、でも、プロドゥア伯爵がなんというか、この縁談は。」

「父は関係ない。家を継ぐのは私だ、私の将来を私が選ぶのに何の問題がある。」

 いえいえ、大ありですよ。と、その場にいたほとんどの人間がそう思ったのは違いありません。いやはや嗤いをこらえるのが大変です。

「で、でも。」

「ふん、お前の言い訳など予想できる。今から相手を見つけるのは大変とでも言いたいのだろう。安心しろ。相手はすでに決めてある。エルガ!」

 そして何を思ったのか、ルークスは、会場の隅で控えていた部下たちに向かって大きな声で叫びました。

「はーーーい」

 返ってきたのは甘ったるい声と、部下たちの間から飛び出した派手な女性でした。どこに隠していたのか、侍女や従僕とは思えないほど派手なドレスで着飾ったそこそこ華やかな女性でした。

 おそらくは、

「殿下、紹介しま。「捕らえろ。」」

 真っ先に駆けだしたウラカンさんが、ルークスを押し倒して、私たちから突き放し、周囲に控えていた護衛の方々が女性と、ルークスの部下たちを抑え込みます。

「な、なにを。」

 突然の蛮行に驚きつつ抗議するルークスですが、そんなことは関係ないとばかりにロープでグルグルと拘束されました。

 まあ、そうなりますよねー。

「ルークス・プロドゥア。私の前でずいぶんな振る舞いだな。」

 ここが、学園や、自宅ならばともかく、公共の場で王族、それも次期王と次期国母がいる御前で、許可なく部外者を呼び込もうとする。そんな愚行が許されるわけありません。

「茶番以前の問題でしたね。」

「¥¥¥¥ ^^^^(まあ、これで結果は出たわ。これから大変ね、フェイ)」

 すみません、できたらもう少しゆっくりと話してくださらないとわからないのですが。


 と、状況を戻しますと、怒りと威厳に満ち溢れているスバル殿下の影で、ドーフィンさんが、ピスタさんをそっとテーブルへと招き、私達は歓迎のお茶会となりました。

「あれは、バカなのか?」

「はい、残念ながら、頭がお花畑でして。」

 開口一番、ピスタさんにそう言ったのはリフターさんです。横でステラさんが顔を青くしていますが、それもそのはず、レヴァンテ家は伯爵家で、御父上は結構なお役目の方です。庶民であるステラさんもそうですが、リフターさんからして身分が違います。

「プロドゥア伯爵様も、扱いには手を焼いているようでして。」

「放蕩息子のために、有能なピスタ嬢を婚約者にあてがったということか。これはひどいな。旧時代すぎる。」

「はあ、そう言っていただけると、ただお義父様をはじめ、プロドゥア家の人たちには実の娘のようにも可愛がっていただいていたので、断ることもできず・・・。」

 ため息、そして浮かぶ侮蔑の顔。まるで我が子に絶望した母親のような顔をされています。

「まあ、ピスタさんに非がないことは明らかですし、私達が証人となるから、レヴァンテ家にお咎めがあるとは・・・。」

「いいえ、監督責任、それに縁組を進めていた我が家も同罪です。せめて、あのバカと私の首で収まるといいのですが。」

 なかなかに苛烈な思考をされる方です。

 あの愚か者たちが理解しているか知りませんが、今回の蛮行は、王族への不敬罪と、暴行未遂(課題解釈)と反逆行為と判断されても文句が言えない愚行です。

「わ、私は、殿下に新たな婚約者を紹介し、その証人になっていただこうと。」

「王族の権威を私的に使おうということか、ずいぶんと大きくでたな。」

 おっと、違法な権利行使も追加ですね。

「小賢しい、この場で殿下のお墨付きをもらえば、家族も納得するとでも思ったんでしょうね、あのゴミは。そもそも、婚約期間中の不貞行為に、一方的な離縁宣言、自分のしていることを理解しているのやら。」

「それはひどいわね。貴族としても、男としても。」

 やめてください、メイナ様の口から男なんて言葉を聞きたくありませんわ。

 なお、貴族同士の許嫁や婚約というのは個人でどうこうできるものではありません。というのは、昔の話。きちんとした話し合いを行えば、意外と簡単に解消できます。むしろ、家同士の結びつきを強める目的の政略結婚は最近では敬遠されがちです。マール姉様をはじめ、自由恋愛による幸せな結婚は、女子や若者たちの間で憧れとされ、穏便な話し合いの果てに婚約が流れるなんて話はめずらしいものではありません。もちろん、お互いの親たちはいい顔をしませんが、自由を求めて駆け落ちなんて話になれば、恥にしかなりませんからね。

 つまり、何が言いたいかと言えば。

「なんで、この場でやったんだ?」

 の一言に尽きるのです。

「わ、私達は真実の愛を貫こうとしただけで、それをもって国への忠誠を。」

「それを俺の前でする意味があるか?」

「で、ですから。」

 うん、これはバカですわね。

「ピスタさん、もしかして、事前に聞かされてました?」

「はい、メイナ様、お恥ずかしい限りです。離縁を言い渡されであろうことは、教えられていたんです、ですが、まさかこのような愚行になるとは、本当に申し訳ございません。」

「いえいえ、予想できるものではありませんわ。これは。」

 皆、ピスタさんに同情的です。しかし、控えてみていた私達にはどこか違和感を感じるものがありました。無論この場に口をはさむ気はありませんが。

「おそらくですが、先にお義父様、プロドゥア伯爵に離縁とあの女との婚約を話したのでしょう。ですが、あの愚か者は、自分の立場が私あってのことだということを認められなかったようです。」

 お茶を飲んで気持ちを落ち着けながら、ピスタさんは、ゆっくりと語りました。

「影に日向にあの愚か者の愚行をフォローし、一部の成果を共同研究という形で学園で発表することで成績を維持させ、なんなら、プロドゥア領の管理の仕事も私がしていたんですよ。」

「ぶっちゃけた。」「ぶっちゃけましたね。」

「今更です、それこそ、離縁宣言をされたんです、今更義理立てする気もありません。連座にされるなら、少しでも愚痴を言っておきたいじゃないですか。」

 うんうん、ため込むのはよろしくないですわ。思いっきりぶちまけましょう。

「ちょっと待て、共同研究というのは、もうすぐ採用予定の累進課税制度とか、パートナーシップ貿易のことか?あれを考えたのが、ピスタ嬢ということでいいのか。」

「ああ、はい、お恥ずかしながら、草案を考えさせていただきました。でも、細部を改善して実用レベルに仕上げたのは他の人ですし。」

「そんなことはない。あれは革新的な試みだ。我々商人としても興味深いものだ。そうだよな、ステラ。」

「は、はい。うちのように帳簿をしっかりつけている商会としては、税金が減って助かってます。」

 なんだか、リフターさんたちが盛り上がりだしまたが、さすがに最新の法律は心得ていません。

「累進課税制度は、収益や売り上げに応じて商会や貴族に対する税の割合を変えること。その際に必要な経費、例えば災害や防衛などの必要経費を加味してくれるから、真面目な貴族や商会は仕事が増えるけど、納める税金を節約できる制度でしたね?」

「はい、素晴らしい理解です。」

 なるほど、難しいですか、真面目な人が得をするということですか?

「パートナーシップ貿易は、十年以上の単位で商品の値段を決めて、価格変動に問わず取引を行うことですよね。それによって、豊作で値崩れすることや、凶作の場合の高騰をある程度抑制できるものですよね?」

 さすが、メイナ様、政治にも明るいとは侍女として鼻が高いですわ。

「商人の立場から言わせてもらうと、手間が増えても、儲けが安定するのはありがたい。価格の変動で大儲けを企む商人からは生まれない素晴らしい発想だと思う。特に主食であるコメや麦に関しては、生産者からしてもありがたい話だ。」

「そうなんですか、詳しく。」

「ああ、そうだな。例えば・・・。」

 小難しい話になってきてしまいました。メイナ様も一緒になって商売の話で盛り上がってしまい、私としては楽しそうで何よりとしか・・・

「そ、そんな。それはあまりも。」

「自分の立場を親から教えてもらってなかったのか?」

 手持ち無沙汰に殿下たちの方を見れば、なにやらクライマックスのようです。

「私が、側近へと打診していたのは、レヴァンテ家、ピスタ・レヴァンテ嬢に対してだ。学園での活躍や普段の振る舞いから彼女が優秀なのは周知の事実だったからな。」

「そ、そんな彼女は女ですよ。」

「だからなんだ?」

 気づいていなかった。いや認められなかったのは、ルークス・プロドゥアだけだったようですね。


 そのまま、ルークスさんとその許嫁を自称する女性たちは、衛兵に連れていかれました。あとは殿下がいい感じに処分されることでしょう。

「この度は、本当に、本当に申し訳ございませんでした。」

「いい、気にしていない。事情は、プロドゥア伯爵から聞いている。ピスタ嬢も災難だったな。愚かな親と婚約者をもって。」

「殿下・・・ありがとうございます。その言葉だけで報われます。」

 なにか色々とやっていたようですが、ぶっちゃけどうでもいいですわね。

 

 結果、リフターさんもピスタさんもその能力は充分であり、メイナ様との相性も良いことがわかり、ドーフィンさん、ウラカンさんと共に、正式に側近に選ばれることになりました。

 その記録名が、ピスタ・プロドゥアとなっておられましたが、彼女は未だに独身であります。


 小説やドラマのような恋愛劇は起こりえない。愚か者は舞台に上がることすら許されないのが、この世界です。

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