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狂犬いえいえ、忠犬ですよ。  作者: sirosugi


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20/21

20 お家騒動は余所でお願いしたいです。前

 引き続き、殿下とのお茶会です。

 引き続き、殿下とメイナ様のお茶会を見守っています。今日はいつもの5割増しおしゃれなフェイラルド・テスタロッサです。ごきげんよう。

「もしよければ、すぐにでも呼びたい。」

「私は、いつでも。フェイも大人しく出来るよね?」

「状況に寄りますわ。」

 スバル様に笑顔で答えつつ、私にまで心を向けてくださるメイナ様にキュンとしますが、その言い方だと私が抑えの効かない子供のようではありませんか。

 そういうのは、初対面の女性に声を荒げる殿下の護衛にこそ言うべきですわ。

「ああ。うん、先に断っておくが、一部怪しいのがいるけど、何かあったらこっちで対処するからな。」

「ほら、思った傍から。」

「フェイ!」

「わかっております。メイナ様に害がない限りは大人しくしております。」

 影に控える同僚たちも同意しているようですし。


 そんなこんなで、お茶会の参加者が4人ほど増えました。

「リフター・ランチアと言います。名高きフェルグラント家の人とお会いできて光栄です。」

 まず最初に挨拶されたのは、身長の高い緑の瞳をした人でした。濃紺の髪をオールバックでがっちりと固め、ややいかつい印象ですが、言葉遣いは丁寧です。

「ランチア家、確か輸入業を営むランチア商会でしたね。当家でも度々お世話になっています。メイナ・フェルグラントです。」

 軽く頭を下げる挨拶をするリフターさんに対し、メイナ様も立ち上がって淑女の礼。年齢差を考えればこのくらいが妥当なのであります。私も付き添って礼をし、そのまま待機します。

「丁寧なあいさつ、ありがとうございます。そして、此方は私の妻である、ステラです。」

「まあ、御結婚なされているんですね、おめでとうございます。ステラ様」

「ステラで結構です、先月入籍したばかりで、もともとは平民でありまして、このような場所は本来。」

 さらっと紹介されたのは、奥様のステラ様。リフターさんは今年で18歳、結婚されていてもおかしくない年齢ですが、商会でも優秀な事務員さんと恋愛結婚をされたらしいです。貴族には珍しいタイプ?いや、なんだかんだ恋愛されてますからねー皆様。

「リフターには、その経験を生かして、外交担当を担ってもらいたいと思っている。やや年は離れているが、彼の父は私の教師でもあるし、机を並べて共に学んだこともある兄弟子なんだ。」

 なるほど、確かに、ランチア商会といえば国内でも有数の大店です。世界を股にかけて商売をしている人脈は外交面でもおおいに役に立つだろう。

「父としては弟を推したいらしいのですが、いかんせんまだ5歳でしてな。さすがに。」

「貴重な長男を譲ってもらったというわけだ。」

 自慢げに言っているスバル様ですが、これはなかなかの強気です。長男が家を継ぐのが貴族の慣例、その貴族、しかも優秀な人材を側近に求めるということは、相手の家に負担をかけるだけでなく、家ごと信頼しているという意味にも捉えられます。しかもリフターさんは18歳。12歳である殿下とはいささか年が離れているという意見もありそうですね。

「既婚者というのが気に入った。側近に選ばれたとなれば色々と面倒な縁談も増えるからな。」

 ああ、なるほど、万が一にもメイナ様に色目を使いそうにないことも選考基準にあるんですね。そういう一途なところはポイント高いですわ。

「外交には、ステラの力も借りたいと思っています。こう見て、彼女は各国の言語や文化に関しては俺よりも詳しい。メイナ様のお力にもなれると愚行しています。」

「ちょっ、リフター。」」

 ここで、リフターさんの妻プッシュ。されたステラ様は顔を真っ赤にして、リフターさんを見ています。いささかマナー違反ではありますが、そのやり取りは微笑ましいです。

「@@@@@(初めまして、ステラ)@@@@@(ツライド語は話せますか?)」

「¥¥¥¥¥(すごい、完璧な発音。」232232(現地の人かと思いました。)」

「====(あなたもですよ、ステラ。)¥¥¥¥(すごい上手)。」

「・¥¥¥^^(はい、商会の仕事で各国を回っていましたので、自然と。)」

「ーーーー(そうなんですか、いずれ各国のことを教えてください。)」

「¥¥¥¥(よろこんで。)」

 緊張する中、急に話込んだのはメイナ様。ここでツライド語を選ぶ当たりが流石です。

 ツライドは、我が国へ多くの商品を輸出する工業国家であり、優秀な魔道具や工具などはツライド製です。一方でツライド語は独特のイントネーションであるため、読むのはともかく会話をするのは困難と言われ、多くの場合は隣国で翻訳されたものが王国へと輸入されています。

 そんな難解な言語で会話する2人の有能さは言うまでもないでしょう。嘆くべきは、それを完璧に理解できている人がこの場に3人しかいないことでしょうか?

「^^^^(すばらしい、その年で、ツライド語も話されるとは。)」

「¥¥¥¥(ステラ嬢の発音も完璧だ。まるでツライド人間だぞ。)」

 とツライド語で話すのは、スバル様とリフター様。外交担当なら話せないとまずいですわね。

「^^^(みなさん、その辺で)」

 やや怪しい発音ですが、ドーフィン様がそう言って、全員が我に返りました。この方もなんだかんだ、万能ですわ。

 えっ、私ですか?リスニングは可能ですが、発音は人に聞かせるほどではありません。

 すっかりツライド語で盛り上がってしまった皆様は残るお二人が手持ち無沙汰になっていたことにきづいておられませんでした。

「ああ、そろそろ、私も紹介させていただいてよろしいでしょうか?」

 だからといって、自分から催促するのは、マナーがいいとは言えませんね。

 おそらくはこの人が問題児なんでしょう。

「ああ、すまない、ルークス。レヴァンテ嬢も待たせてしまったな。」

 スバル様が苦笑して、残る二人に水を向けると、催促した男は皮肉気に肩をすくめ、それをみた、連れの女性は顔を青くしました。

「いえいえ、そんなことはありませんわ。殿下、皆様のツライドがあまりに見事で聞きほれていました。私は簡単な挨拶しかできないので、憧れます。」

 と、慌てて言葉を紡ぐが、そんな彼女を男が睨みました。

「ピスタ、殿下たちの前でぐちぐちと言い訳を言うな。」

 ぴしゃり、そんな表現はあいそうなほどまともな指摘ですが、先ほどのご自身の態度を忘れてませんか?

「改めまして、メイナ様。ルークス・プロドゥアと申します。こちらは許嫁のピスタ・レヴァンテ、殿下たってのお誘いで連れてきたのですが、このような場には慣れておらず、無作法をお許しください。」

「は、はあ。気にしていませんわ。」

 なんとも印象が悪い。メイナ様も若干引いていますわ。

「寛大なお心、感謝したします。本来ならば、家のことに集中し、社交では微笑んでいればいいのに、このように思ったことがすぐに口でる女でしてな。まだまだ修行中なんですよ。」

 私とちがってね。

 言外にそう言ってにやりと笑う。ルークス氏のその態度に、皆さんはおやっ?と首をかしげました。

「プロドゥアと言えば、宰相閣下の御親戚ですね。優秀なかたが多いと聞きますわ。」

「はい、プロドゥアは代々多産でしてね、各分野に親族がいるのですよ。そんな中でも私は随一の優秀さと誇っております。」

 おおう、お二人を前に結構な風呂敷を広げられました。 

 実際、ルークス氏は学園でも上位の成績を出しており、卒業後は、司法官への就職が内定しているとか。司法官とか裁判や法整備を行う役職で本来ならば、役所などで経験を経て国家試験を受けてからの就任となるもの。学園卒業後の就任というのは、かなり優秀な人なんでしょう。

「そして、そちらが、ピスタ様ですね。学園で一番の成績を取られたとか。」 

 話しだすと長くなりそうなルークス氏ではなく、隣で大人しくしようとしているピスタ様に水を向けるメイナ様はわかっていらっしゃる。

「い、いえ、今回はたまたまです。」

 そうは言っても彼女の成績は、入学以来5位以下になったことがなく、非情に優秀なかたらしいです。先ほどあげた、3人は、スバル様とリフター様、そして彼女。状況を理解できていなかったリフター様と比べるのはいささか、人が悪いですかね?

「ふん、たまたまだ。ケアレスミスがなければ私が主席だったというのに。」

 そしてこの態度。よくありませんね。

「ピスタは頭がいい。だが女性です。女性に求められるのは夫を支えて家を守ること。だというのに、こいつには可愛げというのがない。相手を立てたり、空気を読んだりすることができずに、いつだってでしゃばる。先ほどもそうですが、黙って相手の話を聞くということができないのですよ。」

「も、申し訳ありません。」

 ルークス氏も大概です。とくに空気を読めてないのがやばいですわ。

「ルークス、いささか騒がしいぞ。この集まりが何のためかわかっているのか?」

「おっと、これは失礼しました。今日はメイナ様に私の有能さを理解していただくのでしたな。」

 いや、これアウトでは?

 思わず背後に控えていたドルフィンさん達を見ましたが、首を横に振っておられました。

「お前だけじゃないがな。まあ、あれだ座ってくれ、ステラ嬢とピスタ嬢も一緒に交流を深めようじゃないか。」

「そうですね、では。失礼して、ステラ。」

「は、はい。」

 殿下に促され、リフター様は、まだ緊張が抜けきらないステラ嬢を席へとエスコート。見た目に反してなかなか紳士的なお方です。ステラ様も緊張こそされていますが、その所作は洗練されています。庶民とおっしゃられていましたが、若くして、色々な経験をされているのでしょう。

 もう、お気づきかと思いますが、殿下は、側近の最終決定をパートナーへの扱いで決めようとされています。これは、事前にドーフィンさんから伝わっており、私が大人しくしているのはそのためです。

 メイナ様を溺愛されているスバル様らしい。いや、メイナ様の優秀さを知るスバル様だからこそ、パートナーの能力や、その関係も含めて側近を選ばれたいのでしょう。

 あっ、内定しているドーフィンさんとウラカンさんは独身です。側近が決まり次第、大量の縁談が舞い降りることでしょう。

 つまり、この時点でルークス氏のポイントは暴落一歩手前。それでもこの茶会で、スバル様の意図に気づいて、ピスタ様への態度を改めればワンチャン挽回が可能でした。


 しかし、人間というのはときに、どこまでも愚かになるのです。

「殿下、席に着く前に、一つご報告とお願いがあります。」

 リフター夫妻やメイナ様、そしてスバル様が席についたタイミングで、ルークス氏は、また急に話をぶち込んできました。

「・・・いいだろう。内容によるがまずは聞こう。」

 うん、普段ならこの時点で、追い出されてますからね。偉いです、殿下。

「はい、実は、今日はピスタにも話がある。」

「え、私ですか?」

 ルークス氏のこのパフォーマンスは独断によるものらしく。ピスタ様は先ほどから大変お困りの様子でした。これはひどい、柄にもなく彼女に同情してしまいます。

「ああ、今日この場で、お前に伝えることがある。殿下たちにはその証人となっていただきたい。」

 完全な公私混同。さすがの殿下もほほが引きつっています。


「ピスタ・レヴァンテ。今日、この場をもって、お前との婚約は破棄させてもらう。」


 のちに、プロドゥアの恥と言われる男の勘違い劇場。

 それはこの言葉からはじまりました。



メイナ「馬鹿なの?」

スバル「ここまで馬鹿とは?」

リフター夫妻「「なんだ、この馬鹿?」」

 もう馬鹿にしか見えないリフター氏の顛末は、後編で。

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