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19 恋愛はお嬢様にはまだ早いです。後

 王子サイドの人材の話。

 恋愛事情どこいった?

 従僕とは、主の影となり、盾となり、その人生に寄り添う者。主役は主であり、その影に徹することこそ、本懐であります。だから、私のことなんて覚えなくてもいいのです。はい、ドーフィン・ルノーと申します、はじめまして。

 我が主、スバル・ フィアット殿下は、この国の王太子様、次代の国王様であります。幼少より、その才能を発露し、まだ学生でありながら、武芸の腕は一般兵以上で、その思慮深さは下手な貴族など足元にも及ばないほどであられます。

 周囲からそう評される殿下でありますが、その実、努力の人であります。

 大人でも逃げ出したいと思うほど隙間なく詰め込まれた授業や訓練の予定に文句一つ言わず、その一つずつに熱心に取り組み、課題を見つけては出来るまではなんども反復をする。子どものようにご両親や大人に甘えることはなく、物心ついてから、日々大量の書物に囲まれて過ごされていました。

 次代の王としては、素晴らしい。ですが、子どもとして、人間としてはいささか危うい。そんなことを私を含めた周囲の人間は感じておりました。

 そんな殿下に変化が訪れたのは5年前、7歳のとき、婚約者であるメイナ・フェルグラント様とお会いした時でした。

 貴族、王族の婚姻は重要であり、生まれた瞬間、いや母親の腹の中にいたときに将来の相手が決まっていることもあります。家柄と関係性、年の近さからメイナ様、あるいは、姉であるマル―ラ様との婚姻は決まっておられました。

 まあ、マル―ラ様に至っては、相性があれでしたので。

「ドーフィン、あれは妖精なの?」

 初めてお会いしたとき、真顔でそういったスバル様に、初めて子供らしさを感じたのをよく覚えています。一目惚れというのはああいうのをいうのでしょう。

 当時5歳、その時点で、メイナ様の美しさは、別次元の者でした。人形に整った顔に美しい肌、どこか儚げでありながら、口を開けば5歳とは思えないほどの知性。何より、偏見なくスバル様を見る目の輝きの美しさは、居合わせた私達もトリコにしてしまいました。


「なるほど、フェルグラント家の姫というのは。」

「これならば、スバル様ともつり合いが。」

 そんな不躾なことを言った愚か者たちもいましたが、彼らは殿下の側から姿を消しました。


 一目惚れというのは間違いないでしょうが、スバル様はメイナ様と言葉を交わすうちに、その内面にも轢かれていきました。5歳でありながら貴族としての義務を理解し、領民や部下の将来を案じるメイナ様はスバル様と同等、いやそれ以上の才覚をお持ちだったのでしょう。それ以上に彼女は、日々を楽しむ余裕がありました。

「これは、先日、庭で咲いていた花です。庭師のものが私が生まれた年に植えたものがやっと芽吹いたんですって。」

 嬉しそうにテーブルに飾られた花を話すメイナ様。同じ境遇のようでありながら、彼女には花や食べ物など、季節の変化を楽しむ余裕がありました。

「そうなのか、きれいだな。」

 花への知識はあれど、花をゆっくりと観察するという経験はなかったと、スバル様はその時のことを幾度となく、話されます。

「スバル様は花が好きではないのですか?」

「あっいえ。」

「すみません、不思議そうな顔をされていたので、すみません。自分でもあれかなと思ったのですが、せっかくお迎えにするなら、この花かと思ったのですが。」

 不思議そうに花を見ていたスバル様に、メイナ様はどこか残念そうな顔でそう伝えました。確かに、貴人を迎える席でこの花はいささか、趣が違うものではありました。しかし、自分の好きな花を飾って歓迎するというメイナ様の微笑ましい心遣いは、スバル様にとってはうれしいものだったのでしょう。あまりのショックで言葉を無くされていました。

「お嬢様、殿方とはそういうものですよ。アル兄様と同類なんですから。今になって、メイナ様のお心遣いに気づいて思考が追い付いていないだけですわ。」

 そう、私がフェイラルドさんの声を聞いたのはその言葉でした。

 メイナ様のお世話として、脇に控えていた彼女。年ごろは10歳ぐらい、あまりに堂々と給仕をしていたので気づきませんでしたが、王族や客人を迎える席を任せるには、あまりにも若い少女でした。

 いや、まあ当時の自分も13歳でしたから、若いもの同士の交流という形もあったのでしょうが。彼女の言葉は、あまりに的確で、鋭かったですねー。殿下が顔を真っ赤にしてましたし。

「フェイ?」

「大丈夫ですわ、メイナ様のお心遣いは伝わっております。仮にこの程度の気遣いも分からないような方ならば、男として失格ですもの。」

「・・・失格。」

 いや、めっちゃえぐってました。初見で相手のメンタルをバキバキにしようとしてました。今も昔もフェイラルドさんは、メイナ様ファースト。相手が王族であっても変わらないのでしょう。

 しかし、それは我々かて同じこと。殿下のプライドを傷つけることになるとしても、傍に控えるものとして、フェイラルドさんの態度は許されたものではなかったでしょう。

「貴様、殿下に対してなんたる無礼か、メイド風情が。」

 そう噛みついたのは、私と一緒に殿下の側仕えをしていた、ウラカン・ダッジでした。勇剣術の流派が一つ勇剛剣の門下生でもある彼は、やや直情的なところがありますが、殿下を守るいう点では、フットワークが軽いのです。

 剣を構えることはなかったですが、腰に差した剣を示しながら、フェイラルドさんに向かってそう抗議しました。男性でそれなりに大柄な彼がそう言えば、なかなかの威圧感なのですが。

「かちゃかちゃ、うるさいですわね。護衛なら剣を持っていることを悟らせないくないの立ち回りをしてくださいませ。」

 フェイラルドさんは、怯むどころか、優雅に反論されました。

「なっ。」

「そもそも貴女がぶち壊しなんですよ。見合いの席ということで、こちらが気を使ってあげてさしあげているのに、帯剣した上に、常に警戒してピリピリしている。常在戦場の精神はご立派ですが、時と場を弁えてそれを隠すぐらいのことが出来ずに何が護衛ですか。」

「うっ。」

 その言葉に心当たりがあるのか、ウラガンはわかりやすく動揺していました。当時の彼はスバル様のお付き兼護衛として役目を授かったばかりで、常に緊張していました。見合いのためにフェルグラント家を訪れるまでに魔物の襲撃にあったこともあり、見合いの席でありながら剣を預けることを固辞し、今このときまで油断なく周囲を伺っていたのです。

「だ、だが、万が一。」

「万が一のために常に気を張って周囲に気を使わせている時点でダメなのです。」

 言うや、フェイラルドさんはどこかかともなく取り出した剣を手に、ウラガンに肉薄していました。あまりの速さに、彼女が消えたのかと思うほどの神業でした。

「護衛ならばこのくらいこなせなくては。フェルグラントなら一般兵士もこなせることですよ。」

 後になって知ることになるが、これは嘘である。フェルグラントの兵士は王都の兵士に負けず劣らず勇猛だが、彼女ほどの技量の持ち主はいない。

「なっ、いつの間に。」

「そして、この反応遅さ。私が不埒ものならば、殿下の命はなかったですよ。」

 その言葉は、ウラガン以外、私たちにも向けられたものでした。一応の護衛も控えてはいましたが、全員が、フェイラルドさんの動きに驚き反応ができていませんでした。

「フェイ、そのくらいにしなさい。」

「はい。」

 ただ一人、メイナ様だけが冷静に、彼女の行動を窘め、その言葉にフェイラルドさんは剣をしまって最初に控えていた場所に戻りました。

「申し訳ありません、スバル様。フェイは信頼できる人間なのですが、いささか役目に忠実すぎるというか、盲目的でして。」

 申し訳なさそうに釈明されるメイナ様ですが、その言葉も対応も5歳とは思えないほど立派なものでした。しかし、その場にいる全員が、フェイラルドさんに圧倒されてしまい、メイナ様の異常な優秀さに気づくには至りませんでした。

「い、いや、こちらこそすまない。このように、心のこもったおもてなしは初めてでな。そこの彼女の言う通り、言葉を失ってしまった。それで不安にさせたなら申し訳ない。正直、こんなに嬉しいと思ったのは初めてなんだ。ありがとう。」

 殿下、グッジョブ。

 当事者以外の人間がそう思いました。なんだかんだある中でフェイラルドさんではなく、メイナ様の言動に目がいったのは、惚れた弱みなんでしょうけど、あの場であの返しができたのは、流石の一言です。

「それにしても、メイナ嬢はすごいな。僕は花というものがよくわからなくてな。」

「植物は好きです。フェイラルド領はいろいろな植物があるので、勉強していて楽しんです。」

「そうなのか、僕は植物図鑑でばかりだったけど・・・。思い出したこの花は確か、木に咲く花だったな。鮮やかな赤い花で、種は油になるんだった。」

「はい、ツバキの種は潰すと油になるんです。その香りが好きで。」

 そして、花をきっかけに会話が盛り上がり、その様子にほっこりとした気分になりました。

「むー。」

 フェイラルドさんが、少しだけ不満そうでしたけどね。


 そんなこんなでスバル様とメイナ様が日々、仲睦まじく過ごされて5年。来年にはメイナ様も学園へ入学となります。ややメイナ様に推され気味ではありますが、スバル様は日々の勉学にやる気を見出しすごされています。

「次の茶会の時には、側近候補たちとメイナを会わせようと思う。」

 いささか、前のめりになっているのは心配になりますが、メイナ様を妃に迎え、国王となるべくスバル様は日々邁進されております。


 そして、私はと言えば。

「今日も、殿下が失礼しました。」

「いえいえ、毎回ご丁寧にありがとうございます。あっ、こちら例の件の調査報告書ですわ。」

「なるほど、それとなく対応するように誘導させていただきます。」

「しかし、もう側近を選定されるとは。」

「将来の憂いを少しでも早く絶ちたいのでしょう。それに。」

「それに?」

「万が一にもメイナ様をご不快にさせるような輩を選ぶわけにはまいりませんから。」

「なるほど、殿下も過保護ですが、あなたも大概ですね。」

「それはお互い様でしょう。」

 主を守るという共通の目的のもと、なんだかんだ仲良くさせていただいております。


フェイ  「いつもご苦労様です。」

ドーフィン「そちらも。」

ウラガン「こいつら、めんどくせー。」

 なんだかんだ、主大好きという点では仲良くしている部下たち。

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