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15 剣は剣ゆえに強いのです 後

 4対1でも侍女の余裕は崩れない。

 戦いの基本は、ためらわないこと。目的やお役目のために暴力をためらうのは愚か者です。そういうのがわりと嫌いなフェイラルド・テスタロッサです。ごきげんよう。

 戦いの場で剣を捨てるのは剣士としてあるまじき行為と怒られそうですが、これは、戦闘にもならないという挑発です。あと、私は剣士ではなく侍女なので、そのあたりにこだわりはありません。

「むかつく。泣かす。」

 挑発行為を前に、4人は防御の意識を捨てて力を練り始めました。その余波で揺らぐ空気を前にしても私の余裕が崩れません、ちらりと見ればマール姉様もレグナ様も当然といった顔をされています。そうそう、訓練ならこのくらい思い切りよくやらないと、魔法使いの役目は果たせませんよね。強敵を相手にするときは、仲間や戦略を信じて攻撃に集中する、そういう捨て身な戦い方も覚えないと。

「「「「らえ。」」」」

 掛け声とともに発動する魔法。風の刃が正面から飛んできて、水のムチが左右から挟み込むように迫る。よけようと足を動かせば背後の土が盛り上がって土砂の津波になって迫ってきます。

「そして、頭上からは火の玉、自分たちの速さを理解した上でよい連携です。」

 唯一の逃げ道である上空には無数の火の玉が雨のように降り注ぐ。先ほどの3属性の攻撃が迫りくる壁ならば、今度の攻撃は敵を捕らえる巨人の手といったところでしょうか。発動の兆候がそこそこ見えたのは、それを見てこちらが避けることを想定しての布陣だったのでしょう。

 魔法使いならば、自分の周囲を守るように魔法を発動すればいいでしょう。ですが、攻撃の威力は高く、属性も異なるため。まともに受ければすぐに流されてしまうでしょう。

 剣士ならば、どこかに活路を見出して切り抜ければいいでしょう。ですが、空いた穴を埋めるように更なる連携が用意されていることでしょう。むしろ、そこからの追撃が狙いかもしれません。

 そうやって、対応に迷っている間に、ほとんどの人はドツボにはまってしまうでしょう。それくらいには見事な速さと連携でございます。なるほど、マール姉様がこの場に連れ出す程度にはできるってことでしょう。昔はよくこの戦法で可愛がられました。

 私は落ちている剣を蹴り上げて・・・。

  

 土煙による視界不良を理由に、彼らは攻撃をやめて様子をみた。視界が悪い中で攻撃を続けることは戦術的に悪手であるし、魔法の全力行使という慣れない戦い方に、一呼吸を置きたいという思いもあった。それでも手ごたえはあった、攻撃の衝撃で土埃が起こる直前まで相手は動いていなかった。

「ははは、まさか避ける暇もなかったとは、狂犬のたいしたことないな?」

 リーダー格の赤髪は勝利を確信していた。聞いていた通り、相手は凄腕の剣士だった。1人では敵わないとすぐに悟るほど圧倒的だった。

 しかし、自分たちが連携して包囲殲滅を図るこの攻撃は必殺のフォーメーションだ。全方位から迫る攻撃は、回避することは叶わず、攻撃が終わるまで耐え抜くしかない。一面を突破しても、それぞれがカバーするように次のフォーメーションも習熟している。

 突破された相手を更に追い詰める。それこそがフォーメーションの真骨頂。飛び出した相手を狙い撃つために神経を研ぎ澄ませつつ、あっけなく倒せたたのではという楽観もあった。

 4属性による波状攻撃。そこまでする必要はあるのか?そんなことしなくても魔法は充分に強力ではないのか?

 魔法使いとして訓練を始めたときは、そんな疑問を持っていた。だが、自分たちが師事しているマル―ラ様は、実践をもってその有用性を示してくださった。

「魔法使いなら、これくらいできないと、魔境じゃ役に立たないよ。」

 ぼろ雑巾のようになった自分たちを見下ろしながら、笑顔でそう告げられたときは、魔法使いの道を諦めようと思った。

 だが、同時に彼女は、自分たちに道を示してくれた。厳しいが実践的かつ効率的な訓練で自分たちの能力は飛躍的にあがった。魔法を使った戦術へも理解が深まった。4人で属性を分担して戦う方法を見出したのも、その訓練の日々があったからこそだ。

「うーん、まあいいんじゃない。それはそれで大変だけど、やってみたら。」

 言葉通り、それは大変だった。4人の人間が連携して動く、それだけでも大変なことだった。得意と思っていた魔法も、違う属性の魔法はお互いに干渉して思ったような威力をだせなかった。

 それでも訓練を重ねた。なんども話し合い、魔法を工夫した。それこそ血のにじむような特訓のおかげで、自分たちは今の実力を得た自負がある。

 フェルグラント家の狂犬が相手でも自分たちは負けない。魔法使いを倒せるのは魔法使いだけだ。少なくとも、ノートン家出の訓練では負け知らずだった。

 この土煙が晴れたら倒れた相手がいるはず、そうじゃければ倒れるまで繰り返すだけだ。舐めきって距離を与えた狂犬の傲慢を自分たちはつく。

「こい。」

「いやですわ。」

 だが、そんな自信も研鑽も、まったく及ばない相手が世の中にはいることを、彼らは知らなかった。


 蹴り上げた剣を持ち、振るうだけ。ただそれだけのことであっても、レグナ様の侍女なれば一流の所作が求められます。お仕着せに傷をつけることはもちろんですし、土で汚れるなんてことも許されません。

 無駄なく効率的に、全身をフル稼働させて剣を切り上げて振り下ろす。そして、それを繰り返す。

 そうするとあら不思議、剣の軌道に沿って作られた結界によって、風の刃打ち消され、水の鞭と火の玉は飛び散り、土砂の津波はそこで止まってただの壁となり果てます。

「勇剣術の守式が一つ「百合」」

 高速で剣を振るうことで空間そのものを削り取り剣の間合いの結界を創り出す妙技でございます。これ、実戦で使える方は少ないからちょっとだけ自慢の技だったりするんですの。

「なっ、化け物か?」

 失礼な、ただの侍女ですわよ。

「さて、再開されますか?」

 そもそも、何で攻撃をやめたんでしょうか?

 まさかと思いますがあの程度の攻撃で無力化できたと思ったとか?

「おめでたいですねー。」

 様子見と言う名の臆病と認識不足。なるほどマール姉様の危惧していた話の違った一面ですわね。

 勇剣術のすべてを修めた最強の剣士であるお館様と並んで称される奥様は、すべての属性を操り古の魔法を復活させた賢者と言われいます。そして、そのご息女であるマール姉様は、奥様の才能を受け継ぎ当代一の魔法使いと呼ばれる御人です。

 奥方様が活躍される以前の魔法は、威力も効果もそこそこで戦場では補助役でしかありませんでした。戦いの主役は剣や槍に弓。鍛えた肉体こそが正義とも言われていたそうです。

 しかし、マール姉様という前例ができてしまいました。

 若い剣士たちがお館様に憧れて、他の流派を軽んじるように

 魔法使いたちは、極めた魔法こそ至高と剣士を見下しているのでしょう。


 訓練や工夫で魔法使いも戦闘の主役になれる。その向上心は素晴らしいですが、剣士を侮る、彼らのような存在も生まれていると。

「まったく、度し難い。」

 ○○だから強いなんてものは幻想です。結果を出したものが強い、それだけのこと。

「せめて、一つでも極めてから、吠えていただきたいものです。」 

 もういいですよね、なんか疲れてしまいました。終わらせてしまいましょう。

 剣を下段に構えて、倒れこむようにしゃがみ込む。顔が地面にぶつかりそうになる直前で足を踏み出しその勢いを利用して飛び上がるように剣を振り上げる。 

「えっ?」

 私の動作に対して、土影で防御をしたのはいいでしょう。他が呆然とする中、反応できた茶髪の子はなかなか見どころがありますね。

 だが、無意味です。

「「「「ぎゃあああ。」」」」

 渾身の一撃はその土影ごと四人を宙へと吹き飛ばしました。

「勇剣術の攻式が一つ「向日葵」」

 空の敵を切るために飛び上がり、より高い場所に剣を届かせるための剣術。極めた剣士が振るえばその剣圧は空を咲いて遠くの時を吹き飛ばす衝撃派を生み出します。

 加減が難しいので実戦で使う人は少ないですが、勇知剣の師範代クラスの人ならこのくらいは容易いでしょう。それこそ、宙に放り上げられた敵を追いうちして、切り捨てるぐらいはこなすでしょう。

「おつかれー。」

 と思っていたら、空気のクッションで彼らは抱き留められていました。

「うんうん、フェイの剣技も衰えていないようで何よりだわ。レグナもよく準備していたわね。」

「とばっちりはごめん。」

 ご満悦なマール姉様がレグナ様の頭をなでておられます。クッションで彼らを守ったのがレグナ様でしたか、これは気づきませんでした。

「うん、この子たちも身の程を知ったでしょ。満足満足。」

「まんぞーくー。」

 ポルテ様もご満悦な様子で何よりです。幼子にこのような訓練を見せていいのか?と心配になりますが、そこはマール姉様のご息女です、下手なおもちゃなぬいぐるみよりも、訓練を見ることを好まれます。

「私なら、余裕で防ぐ。」

 そして、レグナ様です。つぶやくな小さなお声ですが、拳を固く握ってやる気に溢れた様子は向上心の塊です、まだまだ未熟な4人の魔法使いさんでしたが、それなりに得るモノがあったということでしょう。さすがはお嬢様、常に高見を目指される姿勢は本当に素晴らしいですわ。

 いやー、魅せることを意識した立ち回りをしてよかった。

 訓練といってもやはり、お嬢様達の目を楽しませなくては、侍女失格ですからね。

 

 そうそう、この一件から心を入れ替えたのか、4人は一層訓練に励むようになり、体力づくりと研究のために勇知剣の道場の訓練にも顔をだすようになったとか。そんな彼らに負けないぞとばかりに剣士さん達も一層訓練に励んでおらるそうです。

 ノートン卿の報復がやばかっただけとか思ってませんよ。


フェイ「これも侍女のたしなみですわ。」

レグナ「この後は、私がぼこぼこにしました。」

 主従揃って、訓練では容赦というものを知らない2人。4人は心を入れ替えて、生意気を言わなくなりました、めでたしめでたし。

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