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14 剣は剣ゆえに強いのです。前

 模擬戦、バトル、侍女の見せ場です。

 お子様というのは、それだけに愛くるしく、ほほが緩みそうになります。可愛いお子様はいるだけで、癒しだと思うフェイラルド・テスタロッサです、ごきげんよう。 

「ふぇーいちゃーん。」

 やや舌足らずの掛け声とともに駆け込み、全力でダイブする身体を慌てて受け止め、そのままくるくると振り回しまして差し上げる。この方と出会ったときは必ず要求されるのですが、

「きゃー。」

 両手をバタバタとさせて喜ぶお子様が見れるなご褒美です。此方を信頼して身を任せてくださるのは愛くるしいですわ。

「れぐちゃんもこんにちわ!」

「こんにちは、ポルテ。ちゃんと挨拶できてえらいわね。」

「うん、れぐちゃん、ぽるてえらいこ。」

 私の腕の中で誇らしげにそう言うお子様は、ポルテ・ノートン様。今年で3歳になるマール姉様のご息女であります。

「ふふふ。」

 最近はレグナ様も淑女となられてしまったので、このように抱っこさせてくれないんですよね。それでもポルテ様ぐらいの御年のころは、私や奥様によく抱っこをせがまれていましたね。

「でも、ポルテ、いきなり飛びつくのは危ないから、フェイやお母さま以外にしてはだめよ。」

「ええ、とうちしゃまは?」

「それは別の意味で危ないからやめた方がよろしいかと。」

 才能があるとか言って、幼女相手に修行のメニューとかを考えだしそうです。

 なにせ、マル姉様の伴侶となられるかたですから、人材育成大好きですから。まあそれはいずれかの機会に語らせていただきましょう。

 ポルテ様を追うように、マール姉様が来たので、戯れは終わりとなってしまいました。

「あら、ポルテ、お姉ちゃんたちに挨拶出来て、えらいわね。」

「あい、かあしゃま。」

 あらあらといった様子で現れたマール姉様にポルテ様を預けながら、私はその背後の若者さん達を一瞥し、首をかしげてみせました。

「この方たちが?」

「そうよ、うちの新人たち。それなりにはやるわよ。」

「・・・そうですか、ずいぶんとお若いのですね。」

 正直期待外れですわ。言外の挑発を隠さずに告げるとマール姉様がニヤリと笑いました。

「そうでもないよ。ねーみんな。」

「「「「任せてください。」」」」

 声をそろえて元気のよい返事。教育はしっかりされているようですが・・・。

「な、なんだ。その目は。これでも年上だからな。」

「いえ、なにも。」

 真っ先に噛みついてきたのは、赤い髪の青年でした。見た目の年齢はアル兄さよりも少し上。新人の兵士さんと言われれば納得のお年頃です。

 彼を含めた4人は、動きやすい運動着を着ていますが、お世辞にも鍛えているとは思えない普通の体系の方々、なんなら残りの3人は女性です。男女差別をする気はありませんが、剣を振るう身体ではありません。持っているのも剣ではなく長い棒のようなもの、その持ち方も槍ではなく杖のような持ち方です。

「うん、この子たちは剣士じゃなくて、私の弟子?みたいな?」

「なるほど、魔術師の方でしたか。」

 魔術師であるならば、このくらいでしょう。最低限に動いて、威力は魔法に頼る。身体を鍛えることよりも魔術の腕を磨き、知識を蓄える関係上、剣士のようにはいきません。そう言う意味では、普通? 

「今日は、彼らと戦ってちょうだい。」

「まあ、ここにきて彼らが見学だとは思いませんが。」

 てっきり勇知剣の新人さんか、師範代の人でも来るのかと思っていましたが。

「いやいや、違うわよ。今日の相手はこの子たち。」

「見習いさんの訓練ですか・・・。」

「不満?」

「いえいえ、滅相もありません。」

 勇知剣の使い手と手合わせができるとか、ビビらせるために容赦なく剣が振れるなーとか期待してなかったですし、魔法使いが相手というのも、うん。

「ふん、剣をふるうだけしかできないくせに、俺たちに叶うと思うなよ。」

 あらあら、これはこれは。大変やる気に溢れていらっしゃいますわ。


 訓練場で距離を取って対峙する4人と私。お互いの距離は10メートルといったところでしょうか。一流の魔術師なら接近されるまでに2,3発は攻撃できる距離です。

「ほんとに4人同時で構わないのですか。」

「そうだよ、それこそ本気にならないと秒殺だから、がんばってねー。」

 しっかりと距離をとるマール姉様とレグナ様。ほかにもちらほらと見学者の方がいらっしゃりますが、4対1の構図に疑問を持っているのは当人たちだけの御様子で。私やフェルグラント家の人間の実力というのは、それだけ評価されているのですが。

「おい、せめて構えろ。人数有利な状況で不意打ちみたいなことできるか。」

「はあ。」

 まったくもって度し難い。己の力におぼれる者に未来はないというのに。

 ちらりとマール姉様を見れば、うんうんとうなづかれました。これはやちゃってもいいってことですよね?むしろやっちゃいまいな的な丸投げですわ。

「いいから、準備なさい。そちらの準備が終わるまで待ってあげますから。」

 腰につけていた剣を鞘ごと取り出し、だらんと構える。ほとんど力をいれていないので剣先は地面にくっつき、とてもじゃないけど剣を振るう構えには見えないでしょう。

 だって構えてないですから。

「このー。」

 頭に血が上ったのか赤髪の彼が構えをとって意識を集中させ、

「おっと。」

 そちらに意識が集中したと思ったら風の刃が首筋近く通っていきました。首を傾けなければ傷ついていたかもしれません、思い切りはなかなかいいですねー。

「あんまりなめいでくださいね。」

 発したのは今まで沈黙していた女性陣の1人でした。赤い髪に釣り目気味の瞳を細めそのまま風の刃を飛ばしてきます。どうやら赤髪の彼は囮で、本命は彼女たちだったのでしょう。

 まあ、バレバレでしたけど。

 風の刃は不可視で速い。だからこそ奇襲に向いていますが、攻撃の起こりが見えれば躱すのは容易いです。しかも狙いは大雑把なもの。おそらくは人を攻撃した経験が少ないのでしょう。

「こっちだって。」「あわせて。」

 余裕をもって観察していたら、赤い髪の青年ともう1人、青い髪の女性も攻撃に加わりました。見た目の暑苦しさを体現したかのような炎の塊と鞭のようにしなる水の鞭。属性も形も異なる攻撃はお互いを邪魔するわけでもなく、むしろお互いの隙間を埋めるように展開され、壁のごとく私に迫ってまいりました。

「なるほど、確かにこれは、優秀ですね。」

 威力ばかりを意識するとき、魔術師という生き物は連携を忘れがちなものです。前衛や敵の位置を把握して適切な範囲を攻撃できて初めて一人前と言われる世界ですが、その一人前にも届いていない人は多い中、彼らの連携はなかなかどうして、よくできていました。

「それ。」

 避けるだけというの失礼なので、攻撃の一部を迎撃させていただきましょう。

 風の刃はふるった剣で切り捨てて、水の鞭はまっすぐに立てた剣で受け流す。

「勇剣術の守式が一つ、「菊」、それから「ヒイラギ」ですわ。」

 菊は文字通り相手の攻撃を打ち払う迎撃の剣。ヒイラギは足を止めて剣にそって相手の攻撃を受け流す構え。どちらも勇剣術の7つある防御の型となります。魔物の中には触れるだけ、近づくだけで害がある個体もいます。効率化した動きで武器を傷めずに迎撃する、これができて、型の習得となります。

「優れた剣士は木の枝でも同じことができますわよ。」

「なっ。」

 まさか剣一本で防がれると思っていなかったのか、動揺されていましたが、攻撃の手を緩めなったのは評価できます。戦闘で手を止める愚かさはわかっているようですわね。

「それ。」

 ご褒美に、今度は火の玉を剣の腹で捕らえて、撃ち返してみせましょう。

「え、ありえねー。斬るんじゃなくて打ち返した?」

 魔法の多くは自然現象そのもの、火の玉も燃える火と変わりありませんが、その存在をとらえればこのくらいは造作もないですわ。

「うわ。」 

 思わぬ反撃に顔をかばってしまう青年、これは悪手ですね。自分の魔法なのですから消すなり躱すなり対処しないと。

「あら?」

 ですが、火の玉がたどり着く前に目の前の地面が盛り上がって盾となり、青年の身を守りました。どうやら最後の1人が万が一の防御役として待機していたようです。

「なるほど、基本と役割を分担しているんですね。」

「むう。ばれた。」

 火の玉を撃ち返したことで、今度こそ攻撃が止まると、最後の1人、茶色の髪の女性が不満そうに口をとがらせておりました。

「風、火、水、土。それぞれの属性を状況に応じて使い分けるのが魔術師の戦い方と思っていましたが、役割を分担することで、洗練させたというわけですか。さすがマール姉様。」

 よく鍛えられています。

 魔法使いも剣士も人間である以上、その知覚と思考には限界があります。それを乗り越えるために訓練により視野や勘を鍛えたりと個の力を伸ばすこともあれば、戦術やチームワークなどを駆使して連携することでお互いの死角や苦手をかばい合うのも立派な戦術です。

「なるほど、少しはできそうですが、勘違いされていませんか?」

 やれやれと肩をすくめながら私は4人、特に土壁で味方を守っていた茶色の髪の女性を挑発しました。

「まだ、自分たちが私と対等だと思っていますか?まさか、剣士として戦ってもらえるとでも?攻防一体が戦術だとでも思っていますか?」

 勘違いも甚だしいです。確かに魔法は見事ですが、あくまで一般的な魔法使いレベル。戦闘レベルとは言えません。まともな剣士が2人いれば余裕で制圧できるレベル。

「4人掛かりで、死ぬ気で攻めてきなさい、守るなんて考えを持っている魔法使いが、剣士を止められると思うな。」

 そこまで挑発しても、4人が動く気配はありません。仕方ないので私は剣を地面に放り捨てました。

「これなら、安心ですか。」

 両手を広げて無手をアピール。そこにきて、やっと4人は何かを思い出しかのように顔を見合わせ、、数秒後には、決意と怒りのこもった。なかなかいい表情になりましたわ。

「ケガしても知らないからなー。」

 はいはい、待ってあげますから、準備ができたら教えてくださいねー。

 

フェイ「剣ですべてを打ち払い、切り払うの勇剣術ですわ。」

レグナ「それができるのは、父様か、フェイぐらいよ。」

マール姉様「アルもできるわよ。」

 

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