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狂犬いえいえ、忠犬ですよ。  作者: sirosugi


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13 マール姉様が来たー 後

 姉であり家族で貴族である。でも侍女とお嬢様の家族なのだ。

 疲れるお茶会が終わったと思ったら、もっとやばい人が来たので、今すぐにも逃げたしたいフェイラルド・テスタロッサですわ。

 というか、なぜ私まで座らせられているんでしょうか?

「さて、本題の前に先日の一件と、今日の一件。ワーグナー卿の暴走については大変申し訳ありませんでした。ノートン家の監督不行き届きです。」

「いやいやーマル―ラ・ノートン嬢。先の件ではノートン家が責任を感じることはないぞ。」

「いえ、ワーグナー家の現当主は、ノートンの門に所属していた身、門下の者の不始末は我々の責任です。」

 丁寧に頭を下げるマール姉様に、スバル殿下が殿下として対応し、レグナ様は首をかしげました。

「お嬢様、ワーグナー家は勇知剣の門下生なのですわ。」

「ああ、なるほど。」

 小声で補足させていただくとレグナ様はすぐに納得されました。

 お館様が扱っている勇剣術。かつての勇者が扱っていた剣術は最強と言われるものですが、個人が全てを修めるにはあまりに困難で、非効率なな一面があります。そのため、長い歴史の中で、いくつかの流派が生まれ、一般的な剣士はそのどれかを極めることを生涯の目標とされています。

 基礎と堅実な立ち回りの勇知剣

 敵を倒す圧倒的な攻撃の勇剛剣

 圧倒的な速さで相手を圧倒する勇速剣

 ほかにも数々の流派が存在しますが大きくはこの三つ。貴族男性は、嗜みとしてなんらかの剣術を学びます。より格式と実力のある流派で修業をすることは、貴族男性にとっては大きなステータスとなるのです。その中でも

「ノートン家の勇知剣は、貴族の作法。」

「その通りです、さすが、レグナ様。」

  堅実で基礎的な勇知剣は、兵士の訓練にも取り入れられているもの。数ある流派でも最高の流派なのです。

「ワーグナーの当主は破門。御子息は基礎修行からやり直しとなります。」

 マール姉様が嫁がれたノートン伯爵家といえば、そんな勇知剣の本家本流、門下生には貴族の子弟も多いです。そこを破門になったとなれば、ワーグナー家の評判と信用は更に落ちてしまうでしょう。

「それは、また。ワーグナーは詰んだな。」

「当然の処置ですわ。スバル殿下。本来ならば先頭に立って対策すべき山賊を放置した愚か者などに、勇知剣の名を名乗らせるわけにはいきません。そのうえ、周り回って、妹たちにまで迷惑をかけたんですから。旦那様をはじめ高弟たちも殺気だってます。」

 うわー、私情が駄々洩れですわ。

 私がお掃除したことは内緒のはず、それに先ほどのお茶会のことも耳にはいているとは、マル姉様の耳がいいのか、拡散されているか悩ましいところです。

「はは、頼もしい限りだ。」

 うん、陛下、ここでその言葉を出せるのはポイントが高いですわ。表情が硬いのもこの場合は致し方ありません。今のマール姉様は魔物より怖いですし。 

 まあ、そのあたりはレグナ様には関係ない事。勝手にしてください。

「マル―ラ嬢。本題はどのような話なんだ。」

 先ほどからレグナ様と私が話していないのは、スバル殿下が一番高い身分だからですわ。マル姉様が伯爵家の人間、貴族としてお願いに来たのなら、水を向けられるまでは黙っているのも貴族のたしなみですわ。

「ええ、此度の1件、いや2件になりますが、原因の一端は、勇知剣の権威が侮られいるからではないかと、義父はお考えになられています。」

「ああ、なるほど。ノートン卿も苦労しているようだな。」

 これはこれは。

 勇知剣は基礎的で堅実な流派です。その実力も確かですが、他の流派と比べると地味。いや、これはなんちゃって全部使いのお館様の所為ですわ。強過ぎる上に派手過ぎる。物語の勇者を思わせるお館様の戦いを目にしてしまうと、他のどの剣術もかすんで見えてしまいますもの。そんな分かりやすい強さを見たり聞いたりすると、「一番はなにか。」とか「一番ではない。」という考えが浮かんでしまうわけです。

 一度でも剣術を習ったものならば、そんな世迷言は言いません。しかし残念なことに「一番ではない」というだけで、自分よりも格下なものとと勝手に勘違いする愚か者がでてきしまうのもので。

「ワーグナーは氷山の一角だと?」

「畏れながら、他の流派でも似たような考えの門下生には頭を悩ませているようでして。」

「ゴルド卿の実力も立場を考えれば、わかりそうなものだがな。」

 まあ、未だに勘違いしてお館様に弟子入りを願うおバカさんもいますからね。そんな方は兵士さん達の基礎訓練で逃げ出してますけど。

「幼児並の見識があれば、父が規格外なこともわかるのでしょうけど。若者に夢を見るなと言わないわけにはいきません。」

 いやいや、マール姉様も充分若いですわよ。

「うん、フェイはわかってるわね。」

 ニコリと笑うマール姉様。あらら、私としたことが油断して考えが読まれてしまいましたわ。

「レグナやフェイはどう思う、この一件。」

 そして、ついに水を向けられてしまいました。ここからは私たちにも話し合いに参加しなくてはいけません。レグナ様は落ち着い殿下を見て、発現の許可を取ります。冷静過ぎて怖いぐらいですわ、お嬢様。

「一番手っ取り早いのは、ノートン卿と父が御全試合をすることでではないでしょうか。」

「「「それはだめ。」」」

 さすがお嬢様、真っ先に最適解を出されましたわ。ですが、それはまずい、非情にまずいのですわ。

「さすがは、レグナここに来て最適解をだしてくるなんて、流石は私の妹。ねえ、フェイ。」

「はい、素晴らしい着眼点です。ですが・・・。」

 あのバーサーカー達に口実を与えてはいけません。

「ええっとな、レグナ。それはもっとも効率的な方法かもしれないが、ゴルド卿やノートン卿が試合をして、御前試合の域に収まると思うか?」

「・・・なるほど、今のは忘れてください。」

 実戦訓練もはじまったレグナ様なら、殿下の言葉の意味を正しく理解できるでしょう。

 お館様は当代最強の剣士と言われる実力者です。ですが、それは辺境伯領での魔物の討伐の成果に由来するものです。対人戦に置いてはその立ち位置は明確でありません。というか、各流派の師範級の人達は お館様に負けず劣らずの実力者たちです。

「あの人達がまともにぶつかり合ったら、王城が更地になりかねないな。」

 ははは、笑えないですわと陛下、その冗談。なるほど、なぜマル姉様がこの場にやってきたのか、わかってしまいましたわ。

「もしかして、ノートン様は乗り気なんですか?マール姉様。」

「そうなの。ここで何か対策しないと、御前試合も仕方ないなーって嬉々して剣の手入れをされていたわ。猶予はあんまりないわ。」

「ああ、あの人、そういうところありますよね。」

 ノートン家の現当主様はマール姉様のお義父上であり、勇知剣の最高師範でもあります。アル兄様や私も一時期は剣を習ったことのありますが、あのクラスになると実力の底が見えません。一度でもあの人と対峙したら、先ほどのおバカさんのような考えなど吹き飛びそうなものですけど。

「それも辺境伯(父上)が悪いわ。あの人が他流試合を控えているから、どこの師範たちも自粛しているのよ。私たちとしてはありがたい話だけど、そのせいでみんな、その実力を知らないの。」

「・・・八方ふさがり。」

 その通りですレグナ様。うかつに手出しができないレベルの危険物ですわ。

 そもそもお館様もノートン卿を含めた人間相手だと強すぎる化け物たちは、国を支えるための様々なお役目で日々御多忙でございます。それが試合をするとなれば調整はすさまじく大変です。

「・・・そうなの?」

「そこはフェルグラント家が特殊なのですわ。」

「それわかるわー、嫁入りしてから、実家のすごさを感じることばかりだもん。」

「それも、フェルグラント家のお役目ゆえですわ。」

 というわけで、他の師範様達はおいそれと領地を離れられない人ばかり。でも彼らだって人間です、一度御全試合が許可されれば、自分もという人は必ずでてくるでしょう。

 そうなれば、もう大騒ぎです。留守を預かる周囲の人達の負担もさることですが、彼らが戦う場所を用意する人達はきっと過労死しますわね。

 やるとなったら、加減なんて言葉をすぐに忘れる人達ですし・・・。

「でしょー、それに御全試合をしたところで広まるのは人外の強さであって、流派の強さのアピールにはならないじゃない。」

「そうだな。正直、見てみたいという思いがないわけではないが。」

「失うものが多すぎる。」

 それでいて、うっかり国王陛下に話がいけば、やりかねない魅力がありますわ。これは確かに、殿下たちがなんとかしないといけない案件です。色々とお悩みになって、自ら動かれているのでしょう、大変立派です。

 あのお転婆だったマール姉様が、こんな気配りをされるようになるなんて。

「フェイ?」

「なんでもありませんわ、マール姉様。」

 おかしいです。先ほどから、すぐに考えを読まれてしまいます。まるで奥様じゃないですか。迂闊に思考もできません。

「マール姉様。それで、どういう考えをお持ちなんですか?」

 動けない私に代わってレグナ様が、マール姉様に訪ねてくれました。

「あら、レグナはこんな時も落ち着いていて偉いわね。フェイも少しは見習って落ち着くことをおぼえなさい。侍女ならば主人以上にうろたえることがあっても面に出してはいけないわよ。」

「ぐぬ。ご指摘は今後に生かさせていただきます。」

 貴族としての挨拶はどこへいったのか、気づけばいつものマール姉様です。侍女である私のことを妹よして扱い、レグナ様やマル兄様と同様に家族として接してくれる優しさは結婚されても変わらない。

 それだけ厄介だし、私たちの扱いが雑なところもあるんですけど。

「ふふふ、フェイ、レグナ、今日は2人にお願いがあるの。」

「「はい。」」

「私の教え子たちと手合わせをしてくれない?」

 こんな突飛な事を言うのは、マール姉様ぐらいですわ。


 強すぎるので、周りが止めるレベルの実力者たち。

 貴族なお話ーからの次回は戦闘回です。

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