卵生
人間は卵だ。
生まれた時は新鮮な生卵だけど、時が経つにつれ火が入り固まっていく。
割れてしまえばそこで卵生、人生おしまい。割れずに気が付いた時には、立派な固ゆで卵だ。
半熟や生に戻りたくても、一度火が入ってしまえば戻れない。
そう、戻れないのだ―――
元彼に子供ができたらしい。
そんな噂を聞いたのは、彼と別れてから1年くらい経ったくらいだろうか。
共通の友達からの突然の報告、わざわざ写真まで送られてきた、幸せそうに笑う赤子と彼とよく知っている女。
友人だと思っていた女に彼を寝取られ、子供がいるの…と、できちゃった婚を見せつけられ、あれから1年、そりゃ子供も産まれるよね。元彼にそっくりな目元に女に似た癖毛が憎らしい。
私はと言うと代わり映えのない生活を送っていた、職場と家の往復の日々だ。
心なしかこの1年で思いっきり老けた気がする、張り合いのない毎日を送っているからだろうか。職場で新しい出会いがある訳でもなく、化粧も面倒なので適当に、スキンケアとか自分磨きなんてもっての外だ。
(あの女がいなければ、今頃、彼の隣には私が…)
居たのだろうか?
あの女がすべて悪かったのだろうか、私に魅力がなかったから隙を突かれた?
最近、彼との付き合いに対して胡坐をかいていた?
ネガティブな考えがもやもやと付き纏う、女は子供を産んだというのに写真では奇麗な顔をしているのに、私ときたら…
(このまま独り、年老いて死ぬのだろうか)
鏡に映る自分が憎らしい。
つやつやの卵肌だった頃の若々しい自分はもういない。
生卵だと思っていた自分は、どんどん火入れされて固くなっていく。
私は半熟位で殻を割りたい。
出来れば、トロっと中身が出るぐらいの半熟で