フジツな逢瀬
クズ。
蘇芳功 30歳
・高校教師
・既婚者
・あざかとは不倫関係
宮前あざか 20歳
・大学生
・功とは不倫関係
功:蘇芳功。高校教師
あざか:宮前あざか。大学生。
0:本編
0:功の家(ベランダ)
功:「(たばこに火をつける)――」
あざか:「せーんせっ、タバコは体に毒だよ?」
功:「あぁ、そうだな」
あざか:「やめないの?」
功:「やめられるんならとっくにやめてる」
あざか:「それもそっか。――ね、あたしにも一本ちょうだい」
功:「やだ」
あざか:「えー、なんで?」
功:「お前に渡すと一本無駄になる」
あざか:「いいじゃん、一本くらい」
功:「よくない。タバコは年々高くなってんだ。ガキにくれてやる余裕はねぇの。ってか、ちゃんと吸うんならまだしも、お前まともに吸えないだろ」
あざか:「だって苦いし臭いし息詰まるんだもん」
功:「だから渡さねーの」
あざか:「……ねぇ、ちょっと待って」
功:「あん? なんだよ」
あざか:「さっきガキって言った?」
功:「あぁ。言ったな」
あざか:「もうガキじゃないんですけど」
功:「ガキだろ」
あざか:「ちがいますー、もう立派な大人ですー」
功:「大人はそんな言い方しないんですー」
あざか:「せんせーだってしてるじゃん!」
功:「これはお前の真似だ。――ふぅ(たばこを吹きかける)」
あざか:「うわっ、さいてー! 副流煙反対!」
功:「じゃああっちいっとけ」
あざか:「やだ」
功:「はぁ?」
あざか:「だってたばこ吸ってるせんせー、かっこいいから」
功:「……そういうところがガキだっつってるんだよ」
あざか:「でも、オンナとしては抱けるんでしょ? っていうか、せんせーってロリコン?」
功:「バカいえ。俺は年上好きだ」
あざか:「えー、説得力ないよ?」
功:「あるだろ。嫁さん年上だし」
あざか:「いやいや。年下の、それも教え子に手出してる時点で説得力皆無だから」
功:「元教え子な」
あざか:「教え子の時点で手出してたじゃん」
功:「そうだったか?」
あざか:「うわ、ほんとさいてーだね、せんせー」
功:「へいへい、知ってますよ」
あざか:「ねぇ、開き直りってずるいよ」
功:「ずるくて悪かったな。これが大人なんだ」
あざか:「なにそれ」
功:「で、最近はどうなんだ、大学。いい男は見つかったか?」
あざか:「なにその雑な話題転換。――いい男なんていないよ。みんなバカばっかり。ねぇ、せんせー、責任とってよ。せんせーのせいで、あたし周りの男がバカに見えちゃうんだけど」
功:「そりゃ仕方ないな。俺の方が頭いいし、大人だから」
あざか:「そ。だから責任とってよ」
功:「どうやって?」
あざか:「結婚して」
功:「残念、俺にはもう嫁さんがいる」
あざか:「じゃあ別れて」
功:「その予定はない」
あざか:「じゃあ訴えちゃう」
功:「それは困るからやめてくれ」
あざか:「なにそれ、都合良すぎ」
功:「あぁ。これが大人だからな」
あざか:「意味わかんない。ほんとーの大人から怒られればいいのに」
功:「じゃあ訴えればいい。世間という名の大人たちに怒られるさ」
あざか:「しないと思ってふざけてるでしょ?」
功:「しないのか?」
あざか:「するメリットがないもん」
功:「俺から損害賠償をふんだくれるぞ」
あざか:「その倍以上の賠償請求が奥さんからあたしに来るよ、きっと」
功:「そこは俺に無理やりとかでかわせよ」
あざか:「やだよ」
功:「はぁ?」
あざか:「だって――それはあたしの気持ちまで否定しちゃうから」
功:「…………」
あざか:「ちょっと、急に黙らないでよ」
功:「なんつーか、やっぱガキだな、お前」
あざか:「ちがいますー、ピュアとガキはちがうんですー」
功:「いや、不倫してるやつがピュア名乗るなよ」
あざか:「そこは別物だから」
功:「その理屈は無理だろ」
あざか:「あーあ、せんせーのせいであたし、ピュアじゃなくなっちゃったのかぁ」
功:「元からお前、そこまでピュアじゃないだろ」
あざか:「失礼な。めちゃくちゃピュアでしたー。赤ちゃんはコウノトリが運んでくるって信じてましたー」
功:「いつまで?」
あざか:「小三」
功:「マセガキだろ」
あざか:「マセガキってある意味ピュアじゃない?」
功:「ものはいいようだな」
あざか:「せんせーならわかってくれると思ってた!」
功:「ポジティブ過ぎんだろ……」
あざか:「ねぇ、そろそろ部屋もどろーよ。寒い」
功:「先戻ってろよ。俺は二本目吸うから」
あざか:「肺真っ黒になるよ?」
功:「もうなってるの」
あざか:「うわぁ、寿命縮んじゃうね」
功:「もう縮んでる」
あざか:「何歳で死ぬの?」
功:「さあなぁ、五十くらいでくたばるんじゃないか?」
あざか:「じゃああと二十年かぁ。あたしなんてもう四十路だよ、その頃」
功:「だから?」
あざか:「知ってる? それくらいの年頃が、女性って一番性欲が強いらしいよ」
功:「残念、俺が枯れてるな。何ならもう死の直前だ」
あざか:「いや、だから今のうちにやめとこーよ。そうすれば楽しめるよ」
功:「なに、お前は俺とそういうのができればいいの?」
あざか:「え。それ以外にこの関係性って何があるの?」
功:「……清々しいな」
あざか:「さすがに奥さんにとって代わろうとかないって。というか少なくとも今は、この立場を楽しんでるっていうか。いやぁ、ほんとこの先の人生、真っ当な道を歩める気はしないよね」
功:「誰かさんのせいでな」
あざか:「ほんと、誰かさんのせいでね」
功:「じゃあ、その誰かさんはせめてもの贖罪として、たばこを吸い続けて早死にしようじゃないか。あぁ、悲しいなぁ、もっと長生きしたかったなぁ」
あざか:「うーわ、超棒読みじゃん。ってか贖罪ってなに」
功:「あん? 贖罪ってのはな――」
あざか:「いやいや、言葉の意味じゃないから。ただ好きでたばこ吸ってるんだから贖罪じゃないでしょ」
功:「ばれたか」
あざか:「ばればれ」
功:「まあそれは冗談としてだな。実際、贖罪として出来ることなんてあんのかね」
あざか:「さあ? 奥さんにでも聞けば?」
功:「それ本気で言ってる?」
あざか:「いーや?」
功:「よかった。俺とお前が殺されるところだった」
あざか:「え、なに、奥さんそんなに過激な人なの」
功:「いや、でもそれくらいの覚悟は必要だろ」
あざか:「うわー、まじか。ないわ、そんな覚悟」
功:「俺もねーわ」
あざか:「……なんか、ほんとさいてーだね、せんせー」
功:「今更知ったのか? 俺は最低だぞ?」
あざか:「開き直んないでよ」
功:「そういえばお前、いつまで俺をせんせーって呼ぶ気なんだ? もう俺はお前のせんせーじゃないぞ」
あざか:「いや、卒業した後もせんせーはせんせーじゃん。呼ばない?」
功:「呼ぶけどさ、せっかく付き合ってるんだからもう名前で呼んでくれてもよくない?」
あざか:「つっくん?」
功:「うわぁ、妻と同じ呼び方。心にくるなぁ」
あざか:「つっくん、ご飯できたよ」
功:「うわぁ、割と似てる。思ったよりダメージでかいな」
あざか:「あたしに手を出したこと、後悔した?」
功:「いや、よくやったと思ってる」
あざか:「……なんか、とことん人間のクズだね、せんせー」
功:「そんな褒めてくれるな」
あざか:「褒めてねーし」
功:「――あざか」
あざか:「なに、急に改まって」
功:「本当に後悔してないのか? この関係になったこと」
あざか:「手出したのはせんせーなのに?」
功:「茶化すな。継続を選んだのはお前でもあるだろ」
あざか:「……後悔してないよ。そりゃあ、せんせーと真面目できれいなお付き合いができてたらどれだけよかっただろうと思ったことはあるけどさ。でも、それとこれとは別っていうか。こういうのも悪くないかなーって。だから、まあ、あたしもクズなわけですよ」
功:「……そうか」
あざか:「そ。だからせんせー、ちゃんと責任とってよ?」
功:「結婚は無理だぞ」
あざか:「わかってるよ。そうじゃなくて、あたしと別れないで。それを決めるのは、あたしだけにしたい」
功:「わがままだな」
あざか:「真っ当な権利だと思うけど」
功:「ほざけ」
あざか:「ひどー」
功:「……ま、いいさ。妻にバレないうちは、付き合い続けてやるよ。お前が飽きるまでな」
あざか:「うん。それでいーよ」
功:「……さすがに冷えてきたな」
あざか:「ほら、部屋戻ろ。っていうか、わざわざベランダに出て吸わなくていいのに」
功:「一応お前の健康を考えてあげてるんだよ。大人の気遣いを受け取っとけ」
あざか:「じゃあ吸わなきゃいいのに」
功:「そこは妥協させろ」
あざか:「仕方ない。妥協させてあげる」
功:「ん。――あざか」
あざか:「だから何よ、改まって――」
功:「――(キスをする)」
あざか:「ん……」
:
あざか:「――っはぁ……うぇ、たばこくさい」
功:「そりゃ今さっきまで吸ってたからな」
あざか:「もー、ほんとさいてー」
功:「きらいになったか?」
あざか:「ねぇ、それはずるい」
功:「ずるくて結構、これが――」
あざか:「大人――だもんね。はいはい、わかってますよーだ」
功:「ならいい。ほら、風呂入ってこいよ。体冷えただろ」
あざか:「っていう建前?」
功:「バカいえ。そこまで性欲には溺れてねえよ」
あざか:「えー、どうかなー」
功:「いいからさっさと入ってこい。その間に飯作っといてやる」
あざか:「はーい。あ、のぞいたらだめだよ?」
功:「のぞかねーよ」
あざか:「あ、ちがった、のぞいてもいいよ?」
功:「いいから入ってこい」
あざか:「はーい。――ね、せんせー」
功:「あん?」
あざか:「だいすき」
功:「……あぁ。知ってる」
あざか:「せんせーはあたしのこと、好き?」
功:「もちろん。大好きだ」
あざか:「奥さんのことも?」
功:「あぁ、二人とも平等に愛してる」
あざか:「ふふ。やっぱりせんせー、さいてーだね」
功:「知ってるよ」
あざか:「……うん。そういうところも、あたし大好き」
功:「お前もなかなかやばいな」
あざか:「そうだよ? でもあたしのこういうところ、せんせー好きでしょ?」
功:「きらいじゃない」
あざか:「いじわるな言い方」
功:「……いつか、飽きると思うか?」
あざか:「さあ、どうだろ。でも、いつかの話なんて、あたししたくないよ」
功:「……ま、それもそうか」
あざか:「うん。――さっ、それじゃあお風呂借りるね」
功:「待った」
あざか:「うん?」
功:「俺も入る」
あざか:「……襲ったらだめだよ?」
功:「そこまで猿じゃねーよ」
あざか:「そ? まあ、いいんだけどさ。あ、じゃあ、背中流してあげる」
功:「娘みたいだな」
あざか:「養子になろうか?」
功:「バカいえ」
あざか:「ふふ、冗談」