前座の祝賀会
「祝賀会しよ!!」
「は???」
「あんなすごい鬼達から逃げ切ったんだよ!!お祝いしなきゃ!」
「祝賀会は買い物に行くんじゃなかったのか?」
「ふふっ。きみは一緒に買い物には行ってくれないんじゃなかったのかな?」
「そうだねー……じゃあ、祝賀会じゃなくて祝賀会の前座!」
「それならいいでしょ?」
何が変わって何がいいのか全く分からないが……。にいなの中では最早決定事項らしい。
にいなに手を引かれ、まおは夜の街に消えていくのだった。
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「んー!美味しいー♡」
目の前でハンバーガーを頬張るにいな。連れてこられた場所はハンバーガーショップだった。
ここに来る前、「さっきタクシー代も払えなかったくせに持ち合わせなんてあるの?」と尋ねると、「そういえばそうだった……」と言ったっきり目でこちらに何かを訴えかけてくる。コイツ……お金もないくせに誘ったのか?っていうか元々モールにいたんだよな?買い物は?何してたの?
だが実の所俺もそんなに持ち合わせはない。誰かさんが3万円も使ってくれたせいだ。
そんな時、ふとここに来る前食べていたハンバーガーを買った時、クーポンを貰っていたことを思い出した。
そうしてクーポンの話をするなり、「それだー!」と勢い良く叫んだにいなに連れてこられたのだった。
「もう日付けは変わっているし、この時間にそんなに食べていいのか?太るぞ?」
「いいんだよ。どーせ明日には消化されてるんだし。明日には無くなっている物の事なんて考えるだけ無駄だよ」
「なんだその分かるような分からないような理論は。っていうか消化されるから太るんだろ?」
「まおってさ、優しいよね」
「なんだかんだ言いながらもこうして付いてきてくれるし。鬼からだって逃がしてくれたりさ」
「……別に。なんとなくしてるだけ」
「ふーーん。本当はこんな夜遅くに1人で帰すのが心配だったからとか?」
「だから文句を言いながらも付いてきてくれてるのだとしたら……お姉ちゃんは感激で泣いてしまうよ」
「嘘泣きはやめろ。それにお姉ちゃんって。多分同い年だろ」
「まおは何歳なの?」
「17」
「あらあら。あらあらあらあら。ぼくは一笑千金の18歳。まおよりお姉ちゃんだね♡」
「今の持ち金はない癖にな」
「いいんだよーPT稼げたんだしー」
なら払えよ……と呟くまおを無視してにいなはメールを読み返す。
「他の逃げ切れた人達は22人かー。どんな人達なんだろーね?」
「22人じゃないよ。ちゃんと逃げ切った人達は」
「鬼ごっこに参加して、実力で逃げ切った人達は10人にも満たないと思う」
「ん?なんで?」
「急にイベントが始まったんだ。そもそも気付かないで終えた人、体調が悪くて参加しなかった人、もう寝ちゃってる人ーーーー」
「色んな理由で数には入ってるけど、逃亡自体はしていないって人もいると思う。」
「確かに……強制的に参加させたりしない限りはそうなるのかな……?」
「まぁそういうとこ緩いのはありがたいけどね。風邪ひいてる時にデスゲームしろ。とか言われたら最悪でしょ」
「体調悪い中あの鬼達とやり合うとか……。まおじゃなきゃ死んじゃいそうだね……」
「えーでもなんかズルいなー。だって何もしないでPT手に入れた人達もいるわけでしょー?」
「気持ちは分かるけど、それも魔女のイベントのプレイスタイルの1つだよ。それに……」
まおは先程までとは違い、真剣な顔で話し出す。
「それに……そんなやり方でPTを手に入れても魔女には届かない」
「……まおってイベントガチ勢なんだなって事が見てると伝わって来るよ」
「連絡先交換しようよ。次のイベントの時もぼくはきみに協力しよう」
「SNSやってない」
「薄々は思ってたけど……まおってスマホ持ってないの?」
「持ってない」
「今時の若者とは思えない発言だね……。じゃあ電話番号かメールアドレスを……」
「そろそろ帰る」そう言ってまおは席を立つ。
「えぇー?!なんで?!どうして?!」
「俺はソロでやりたいの」
「はぁ……この後に及んでまだそれを言うのか……全くきみは変な所が頑固というか……」
頭に手を置くにいなを無視してまおは歩き出す。
「って、本当に帰ろうとしてる?!」
「ちょ、ちょっと待ってて!ねぇまおー!」
歩き出したまおの後ろをにいなは追いかけた。
まおは歩き始めたばかりだった為すぐに追い付く事が出来るのだった。