鬼ごっこの終わり
「ありがとネー!またヨロシクねー!」
そんな笑顔溢れる運転手の声を聞いたまおは思う。
なんだあいつ……お金払った途端元のキャラに戻りやがって。そして颯爽と去っていく。短い出番だった割に無駄に濃いキャラしやがって。物凄い爪痕残していきやがったな。ってゆーか
「この短時間でタクシー代3万って……」
「あいつがヤバい運転をしたんだなっていうのが見ないでも伝わってくるんだけど……」
「えへへへ……さすがに高過ぎたね……」
「ま、いいよ。復活権もくれた事だし許す」
にいなは目を大きく開けて驚く。
「え?!もっと怒られるかと思ってた…。お前ら頭おかしいんじゃないのかー(裏声)とか!」
「俺のことなんだと思ってるんだよ」
にいなの下手くそな自分の真似も。タクシー代が凄くかかったことも。今のまおには怒る気にならなかった。それどころかむしろ、何故かは分からないがさっきとは違って気分がいい。先程までのなんとなく塞ぎ込んでしまうような、歩いていたいなんて気分はもう無くなっていた。
「そろそろ時間だね」
「あぁ……長かったような短かったような鬼ごっこだった」
何事もなく時間が経てば、鬼ごっこはこれでもう終わりだ。そう……何事もなければ。
「がははははははは!!!!!!!やっと見つけたさね!!!!!!!」
「絶対に逃がしゃしないよぉ!!!!!!!」
まずい!!目の前に例のあの鬼が現れた!!猛スピードでこちらに走って来る。このままじゃ捕まる!それににいな。にいなの事も何とか逃がしてやりたいけど、さっきとは違って今はタクシーも何もない!!
不意をついた鬼はまお達に物凄い勢いで迫る。最初に狙われているのが自分だろうが関係ない。まおはにいなのことを庇うようにして立つ。
「クソ……」鬼の手がまおに触れようとしたその時ーーーー
ピロンピロンピロンピローン
一斉に携帯が鳴った。
「……ふん!どうやら時間みたいだね」
「このあたしから逃げ切るとは中々やるじゃないかい!がははははははは!!!」
「偶然だよ……」
ドクンドクン。心臓の鼓動が鳴り止まない。鬼は逃げ切ったなんて言ってくれているが、本当に偶然でしか無かった……。さっき出た言葉は紛れもなく俺の本心だ。ははっまた汗止まんねぇや……この鬼には汗欠かされっぱなしだな……。
「そいじゃあ!あたしは行くさね!!」
「次会った時は捕まえてやるから覚悟しな!」
「あんたとの鬼ごっこはもうゴメンだね……」
そう言って鬼は物凄いスピードでいなくなった。おいおい速すぎだろ……。本当にあんなのから俺たちは逃げ切ったのかよ。
「は、はっやー。凄いな……ぼくたち。本当にあんな鬼から逃げ切ったんだ……」
「ぷっ。クスクス。あっははははは!!」
「ちょっとー!なんで笑うのかな?」
「んーん。別に。ただ同じこと考えてたんだな……ってさ」
「ありがとう。にいな。一緒に逃げてくれて」
「え?!い、いや……こちらの方こそ……」
なんだよその顔。タクシーから降りる前では想像も出来ないような、からかいがいのある顔。
こっちのことからかってばかり来るやつだと思ってたけど、意外とそうじゃないのか?
……ってか段々冷静になってきたら恥ずかしくなってきた……。何素直にお礼なんか言ってんだ俺……。やば、さっきの鬼から逃げられた安心感で気が緩んじゃったかも……。あ、やっぱり可愛い顔してるよなコイツ……いやいやいやいや冷静になれ。
お互い見つめ合った後、沈黙が流れる。
まるで2人の周りから一切の音が全て消失してしまったかのようだ。
「あ!そ、そういえばさっき届いたメールはなんだったのかな!!」
「た、確かに!!確認しないとな!!」
2人はあたふたしながら携帯を開く。
届いていたメールを同時に読み出す。
『まずは逃走成功おめでとう。無事に逃げ切った君たちに賞賛を。
さて、今回のイベントについてだが、手短に結果だけを記す。
逃走成功人数22名。報酬は30PT。
PTはいつも通り君たちの自由に活用してくれ。以上だ。
次のイベントでの君たちの活躍もとても楽しみにしているよ』
「30PTか〜。僕はもっとPTが欲しいよ〜」
「それには同意だね」
「ねえ、まお?」
「ん?なに?」
「あのさ……」
そういってにいなはまた、あのからかいがいのある顔をするのだった。