(正当に)拾っただけさ
ピロンピロンピロン
まおの携帯が鳴り出す。
『Caught you』
そこには短い文章で書かれたメールが届いていた。
「はいはい。分かってる」
「ってゆーかこういうのって捕まった後に何かあるんじゃないの?」
「時間一杯まで牢屋に連れてかれるとか、何かペナルティがあるとか……」
そう言ってまおは念の為ケータイを開く。
「ま、ないならないでいいけども。自由にさせてもらうだけだし」
「残り時間は……12分。残り人数は32人……か」
「20人位ってとこか?」
まだなんとなく家に帰る気になれなかったまおは、タクシーを拾えたとはいえ元々向かっていた駅の方へ歩き出す。
「用事なんてないけど……。まだもう少し歩いていたい気分なんだよな……」
「そういえばイベント始まる前も用事なんてなかったけど、なんとなく外に出たんだっけ……」
「そんで折角のイベントだったのに、あんなやつ庇って……」
「なーんかバカなことしたかな……」
「あーーーーー!!!いーーーたーーーーー!!」
そんな感傷に浸り始めたまおの気分をぶち壊すように後ろから大声がした。
「え?」キキィ!!!
物凄いスピードのタクシーがドリフトをしながら突っ込んで来る。
「は?!殺す気か?!!」まおはスレスレの所でタクシーをかわしながら叫ぶ。
「全くなんでさっきの場所にいないのかな?おかげであちこち探し回ったよ」
窓から身を乗り出し話しかけてくるにいなに全く悪びれるような様子はない。
「お前なぁ……俺のこと轢き殺すつもりか?」
「いいんだよ、こっちはまおのこと散々探し回ったんだから。それでおあいこ」
「勝手に決めるなよ……それに運転手。お前もまともじゃねぇ……」
「エー?なんのことかワカラナイネー」
「何その独特なイントネーションと喋り方」
「ふっふっふっ。驚いたかい?運転手のドラちゃんとはさっきとっても仲良くなってね。それで『急いでまおのこと探してください』って頼んだんだよ!」
「ソウヨー!なかなかのナカヨシィー!」
「イッショウケンメイ↑イシキフメイ↓でサガシタネー⤴︎︎︎」
「意識不明じゃダメだろ……」
「てゆーか?なんでにいなは降りないの?」
先程までの騒がしさが嘘のように静寂が訪れる。
「…………」
「…………」
無言で見つめ合う2人。
「あの……その……お金……ない……」
「さてそろそろ帰るとするかな」
消えてしまいそうな声で呟いたにいなを無視する。
「まって!まお!後でちゃんと払うから!ね!きみとぼくの仲じゃないか!1回落ち着いて話し合おう!ね!!」
「ドラちゃんとやらと仲良くなったんだろ。立て替えてもらえよ」
「いえ。お代はキチンとお支払い頂かないと困ります」
「ほら……ドラちゃんもこう言ってるし……ね?まお?」
「おい。さっきまでのキャラはどうした」
にいなはまおの顔を覗き込む。
「もしかしてまお……怒ってる……?」
「あぁ怒っているとも。さっき轢き殺されかけたばかりだからね」
「ううん。そうじゃなくて、なにか別の……」「帰る」
「あーまってまって!そもそもまおを探してた理由の1つはこれを渡すためだったんだ!」
そういってにいなが渡してきたのは番号の書かれたカードだった。
「なにこれ……?復活権って書かれてるけど」
「さっき駐車場で鬼とジャンケンをしてグーを出した時にね偶然見つけたんだ」
「あのグーはグーパンのグーだったよね」
「と!も!か!く!細かいことは置いておいて、復活権って書かれてるんだよ?!きっと今のまおに役立つと思って」
「その番号打ち込んでみようよ?だから!ほら!あの……その……タクシーの方は……」
「はぁ……」まおはため息をつき財布をにいなに渡し、番号を携帯に打ち込むのだった。