3匹目
「さてと、無事にモールから脱出出来たことだし、どっちに逃げようか?右に行く?それとも左?」
にいなはるんるんでスキップを踏んでいる。
「ねーってばー!どっちがいいと思うー?」
「にいな、思ったんだけど」
「なになに?」
「これってタクシーとかで逃げちゃダメなのかな?メールには何も書かれてなかったし」
「ふっふっふっ。そこに気付くとはやるねまお。さすがはぼくが見込んだだけのことはある」
「実はぼくもタクシーを使おうかなって、丁度20分後位に思い付く予定だったのさ!」
「つまり今は思い付いて無かったってことじゃんか。何が丁度だよ」
まおは呆れたようにため息をついた。
「それじゃあタクシーを拾いに行くぞ。駅の方に近づいて行けばその内拾えるだろ」
2人は駅の方に向かって歩き始める。
「タクシーを使っちゃダメとか、あれこれしたらダメってメールに書いてないってことはさ」
「鍵のかかった部屋に立てこもったりしてる人もいるのかな?」
「いるんじゃないか?さっきのモールみたいな所だったらトイレの中とか」
「あ〜!鍵かけちゃったら入って来れないもんね〜」
「でもあの鬼なら入って来そうな気がするけどな……」
〜〜〜隠れた人がいたとして、鬼が追いかけて来るところを想像する〜〜〜
「いつまでも閉じこもってるんじゃないよおおおおお!!!!!!!!」
「ひ、ひいいいいいいいいい!!!こ、こここ、ここ男子トイレの中ですよ?!」
「ガタガタうるさいさね!!!さっさと出てきなぁ!!!!!」バキバキバキ
「そ、そんな素手で扉を……む、無茶苦茶だあああああああああああああああ」
あの3人組の様な誰かが犠牲になる所は意図も容易く想像出来た。なむなむ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
丁度前方からタクシーが走って来る。
「あ、いたねータクシー」
にいなはタクシーに向かって手を挙げる。
「このイベント終わったらモールで一緒に買い物行かない?」
「は?なんで?」
「祝賀会だよ。祝賀会〜。さっきはイベント始まっちゃったせいでちゃんと買い物出来なかったしー」
「俺はいい。行かない」
「えぇ〜付き合い悪いなー」
「一緒に行こうよー」
「いいですねぇ。それ。本当にいい。私も混ぜてもらえませんか?」
「は?」
そこには疲れ顔のスーツ姿の男がいた。いや、疲れ顔所ではない。本当に疲れている。
かけているメガネすらどこか疲れてしまっているようだ。
「急になに??」
「はい。油断した」
「しまっ」男はまおの肩に手を置く。
まおは男に触れられながらも素早く振り返り、にいなをタクシーに押し込む。
「行け!!」
「でもまおが……」
「いいから早く!!!」
「貴方の事ももちろん逃がしませんよー」
「にいなのことは捕まえさせない!」
まおはタクシーの扉を足で強く蹴り、男を掴んでタクシーから引き離す。
その隙にタクシーは猛スピードで走り出す。
「貴方の事は……既に捕まえたはずですが……」
「『捕まった後に鬼の妨害をしてはいけない』なんてルール、メールには書いてなかったと思うけど?」
「はぁ〜〜〜〜〜」男は大きくため息をついた。
「まぁ、もうあと20分もない……。今からタクシーを追いかけるのも骨が折れる……」
男は項垂れながら俯いた。
「正直油断した。今話しかけてくるなんて少し考えるまでもなく鬼って分かることなのに」
「あまりに普通の格好だったからさ。前の2人の印象に惑わされてしまったよ」
「あの色物2人ですか……。いや……あの2人だけでなく、もう2人の方もじゅうううぶん色物か」
男はそう言ってまたため息をつく。男の弱々しいのに力強い口調からは、普段の苦労が滲み出ているようだ。
「あの2人に、もう2人ってことは鬼は全部で5人ってこと?」
「えぇそうです……。鬼は全部で5人。」
「100人に対して5人なんて随分と余裕があるんだな。」
「別に捕まえるだけなら苦労はありませんよ。捕まえるだけならね。」
男は小声で、あの色物共と関わることさえなければどんなに楽なことか……。とボソッと呟いた。
「それにね。今捕まえに回ってるのは正確には5人ではないのですよ」
「1人は最初からめんどくさがって不参加。1人は開始10分で30人を捕まえた後サボって帰りましたし」
「あの鬼役はどうせ暴れ回っているのでしょうし……もう1人は何をしている事やら……」
はぁとまたため息をついたあと男は立ち上がる。
「さて……私もそろそろ失礼致しますよ。いつまでもサボっていると、またネチネチ言われますからね……」
「待て!まだ聞きたいことがある!魔女は……魔女は今回のイベントに参加していないのか?」
「えぇまぁ……このイベントに出現の予定は今のところありませんね」
「はぁ……。それもまためんどくさい……」
「俺は……魔女に……!」
何かを話そうとするまおの口をさえぎるように男は喋り出す。
「あまり魔女のことは私の口からは何とも言えませんね」
「では」
そう言って男は背筋をピンッと伸ばし、お尻をキュッと閉める。
キュルキュルキュルという音ともに、革靴から小さなタイヤが出てくる。
真面目な顔付きから似合わない、まるで子供のおもちゃの様なローラーシューズだ。
そのまま股間をもっこりとさせ、キリストの磔の様な体勢で走り出して行った。
遠くの方から「キャー」という悲鳴と「変態ー!!!」という声が聞こえてくる。
「なんだよ……お前も十分色物じゃねーか……」
まおは顔を引き攣りドン引きしているのだった。