外へ
「う、うわああああああああああああ!!!!!」
まおとにいなは身を潜め様子を伺う。
「どうやら上のフロアで誰か追いかけられてるみたいだね」
「本当は助けてあげられたら良かったんだけど……ごめん!名も知らぬ人!!」
そう言ってにいなは手を合わせながら高く掲げた。
「さっきは残ってるやつを囮に逃げるとか言ってなかったか?」
「やだなー。それは言葉の綾的なものさー。なむなむ」
「それで?どうやって逃げるつもりなんだ?」
「今ならモールの入口から正面突破で抜けられると思うけど」
「そんなことしたら捕まえて下さいって言ってるよーなものだよ〜。ただでさえ入口は見やすい場所にあるんだから」
「駐車場の方から抜ける」
「了解」
2人は3Fから隣に併設されている駐車場に向け走り出す。
「今残り時間はどれくらいだ?」
にいなはケータイを取り出し確認する。
「40分。ちょうど半分だねー。残り人数はーーーー38人。これは……みんな大分捕まっちゃったみたいだね、、、」
扉を開け駐車場に出る。駐車場の横には金属で出来た階段がついている。
「なーんか思ってたより呆気なかったね。後は階段を降りるだけかー」
「そういってあんまし油断するなよー。ってもまぁ……このモールにばっか鬼が集まって来てるってのもおかしな話だもんな……」
「上のおばちゃんさえかわせば大したことないか……」
駐車場から出ていく車を何台か避けながら階段に向かう途中、1台の車が目に入った。
「ねぇ……あれって……」
「見るな触れるな関わるな」
「絶対に気のせい、俺は何も見てない」
目の前に鬼の着ぐるみを着た人物が車を運転している。
そーっとそーっとこちらに気付かれないように階段に向かう。足音を殺し気配を殺し見た記憶すらも殺す勢いで。
「ねぇ?まお。見てよあれ」
「なに?ならべくみないで」
「あの手……でっかい猫の手だよ……」
「それが……なに……」まおは笑わないように俯く。
「あれ指ないタイプだよ……うちわみたいな……」
「ハンドルゥ……持てるのかなぁ……」
「プッ……クスクスクス……それは……頑張ってどうにかするんよ……鬼だし……」まおの肩が震え出す。
「鬼の着ぐるみもよくみたら所々ほつれてるし破けてるよ……」
「お金無かったのかなぁ……経費削減とか?」
にいなのあまりに純粋な言い方にまおは限界だった。
「あははははは!知るかよ!そんなこと!あははははは!!」
「はっ!」ムグッ
まおは手で口を抑える。鬼がこちらを見ている。
目と目が合いお互い固まるーー
にいながそっと手を振ってみる。鬼は猫の手を外し、チョキの形で手を振り返してきた。
猫の手を外した鬼の手の色は真っピンクで手のひらには『愛』の文字。
「いやダサすぎるだろ!!!」まおの大声と大笑いが響く。
しばらくの静寂が訪れた後、鬼の肩が震え出す。表情が見えない着ぐるみ越しにも分かる。
「もしかして……こだわりがあった……?怒ってるよね?」
「あぁ!もちろん怒っているとも!あいつぼくがパー出したと思ってチョキを出して来やがった!!暴力と言う名のグーをお見舞してやりたいね」
「いやお前のことじゃなくて!」
ウォン。ウォンウォンウォンウォン。
「な、なぁにいな」
「すごーくすごーくふかしはじめた気がするんだけど……気のせいかな……」
ウォンウォンウォンウォンウォンウォンウォンウォン。
「ねーぇーまおー、あの鬼酷いと思わない?どう思う?」
「ATじゃなくてMTなのかなって思う」
ウォン!鬼がアクセルを踏み急発進して来る。
しかしあまりの勢いと片手が猫の手だったせいで上手くハンドルのコントロールが効かず、そのままけたたましい音ともに壁に突っ込んだ。
「え」
「え」
「え?」
鬼は不思議そうに『え?』と呟いた後、車から降りてくることは無かった。
「……にいな行こっか」
「……おん」
にいなが降りてこない鬼にグーを1発返して、2人は階段を降りていくのだった。