第86話 リアルと現在
「ごめんくださ~い、オーナーさんはどこっすか?」
「目の前だよ。待ちくたびれたんだけど、例のやつ」
無事にオーナーを見つけ、麦を納品。俺達は酒作りを見学することになった。
通路になっている大樽の道。発酵させているのかは知らないけど、未成年の俺は高確率で酔っぱらう。
そういえば、彼女の声が聞こえない。通信が切れたのだろうか……。
けれども、酒造場が気になってしまい、一瞬で忘れていた。
◇◇◇十分前 現実世界では◇◇◇
「舞彩、聞こえてますか?」
『聞こえてるよ‼ あと、今はプレイヤーネーム♡』
「ハイハイ、マリネ」
『もう、パパったら。マロネだってばぁ…………』
「そういうマロネも、普段の口調になってる。そうだ、ゲーム内のルグア……。いや、明理の様子は?」
ここは大学病院の研究室。デスクの前に座るのは、樋上或斗院長だ。
映し出されているのは、第五十層にいる或斗の娘と、カプセルの中で眠るプレイヤーの二人。
『変化はあまりないよ。あとは本人次第。だけど、1回の量に希望があったなんて……。従姉妹同士なのに……』
「たしかにそうだよね。まさか彼女のお父さんと僕の奥さんが兄妹とは。知った時は驚いたよ」
『うんうん。えーと、まずはここをこうして……』
マルチビューになり、ルグアの音声が聞こえるように設定。
現実は、別室のベッドでゲーム機を着けたまま寝ている。それを囲うのは五つの点滴器具。すでにチューブが繋がった状態だ。
「明理さん。聞こえますか?」
『はい。えーと、普段の話し方の方がいいのかな? そっちも準備はできてますか?』
「もちろんですとも。予定通り30グラム分……」
『私は大丈夫なので一種を3回』
「ってことは120の五種だから……。500グラム……」
『それでお願いします』
その言葉で或斗が席を立つと、明理がいる別室へ向かう。ゆっくりと迫る悪魔の研究。なぜ彼女が立候補をしたのか。それは…………。
◇◇◇現在 第十七層◇◇◇
『アレン、聞こえてますか? ウェンドラです』
「突然なんすか? 通信魔法で」
『ルグアに、一言を……。と思いまして』
「どういうことっすか?」
『あってもなくてもいいのですが……』
いきなりすぎるウェンドラの言葉。研究が始まるということなのだろうか……。そう考えた途端に、彼女を失うのではと怯えてしまう。
「その……。ルグアが死んだりした……」
『ご安心を。その点に関しては問題ないですよ』
「だ、だけどウェンドラさん‼」
『なぜなら彼女は、一生○○○○ができない身体なので……』
俺は言葉を全て聞き取れなかった。聞き取るのをやめてしまったのか、受け入れたくなかったのか……。
自分だけではわからない。たとえ遠回りだったとしても、早くルグアに会って顔を見たい。
気持ちは先走るだけで、歯車が軋む。次は第十八層。道のりは長く、とても遠い場所にある。
わかっているけど、彼女のことが一番だと感じた。




