第85話 酒造場、道中にて……
「う〜む……。もう少しで目的地のはずなのじゃが……」
「もしかして、道を間違えたんすか?」
「妾は知らぬぞ? 言い出しっぺの恥でも良かろう。クリム」
「こりゃいかんな、レヌス」
「ほんと仲の良い夫婦なんすね……」
みんなと別れた俺とレヌスは、クリムの案内で酒造場に向かっていた。さっきから、うっすらとした麦酒の匂いが、鼻をくすぐっているけれど、酒造場は見えてこない。
一体どこにあるのやら。道中感じた、微かなアルコールに混じる鉄サビ。多分、このアルコール成分が、廃工場の鉄筋をサビつかせているのだろう。
歩けば歩くほど、双方の匂いがキツくなる。というより、酒の匂いが強すぎて、だんだん頭がクラクラしてきた。
きっとこれが、件の〈レイベル酒〉なのでは? 俺は一人妄想を始めてしまう。そして酒に弱いらしい。
「……で、酒造場はまだなんすか?」
「アレン殿。そのことなのじゃが……。我も……」
「?」
「ようわからん」
なるほど。って。
「わからんのかーい‼」
「クリム、アレン、茶番はやめてくれんかね。うっとうしいわ……。妾にそこまでしばかれたいか?」
――シューン……。
急に空間が寒くなった。しょうもない、ボケ――クリムはそのはずではないと思うけど――とツッコミ。どうしてこうなった。
俺の仲間は変わり者が多いのか。それとも俺の捉え方が悪いのか。加えて、口調にクセがある人も多い感じもする。
特にフィレンは、上手く発音できないからか『さん』が『しゃん』になってるし、語尾『りょん』でめちゃくちゃ可愛い。
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――「レノンしゃんアイドルりょん?」
――『うん、そうだよ。名前は……』
――「フィレンなんだりょん。現在アイドル育成中なんだりょん‼ 優秀でおすすめなのは、チェリスりょんね。キレッキレですごいりょん‼」
――「ちょっと、フィレンったら何人材派遣してるのよ? アタシは却下するわ」
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別行動をする前に聞いた会話。どう考えても、アイドルオタクに見えてしまう。実際は、もっとアイドルに詳しいかもしれない。ダンスも詳しいだろうし。
もう一人を挙げると、やっぱり俺の彼女のルグア。彼女はほんと変わっている。周波数上げたりして追い込んで、生死の境界線を壊しすぎだ。
それに俺を助けて……。
『おーい、アレン聞こえてるか? 酒造場向かっているんだよな?』
「ルグアさん‼ 何で突然通信魔法を?」
『んなこと聞く前に、酒造場のオーナーが怒ってるぞ‼ 通話だから先導できないが、私ができる範囲で案内してやる‼』
「いいんですか? なら、あざっす‼ 団長ぉ‼」
タイミングバッチリの助け舟。俺はルグアの案内で、スムーズに目的地へ辿り着く。酒の匂いが漂う工場の、酒造場のオーナーを探すところから開始。
それと同時に、更生剤研究のカウントダウンが始まっていたとは……。この時は彼女しかわからなかった。




