第75話 廃墟
◇◇◇第十六層◇◇◇
――ゾワゾワ……。
下水道にいた取り巻きのような水の音は、聞こえない。
――ゾゾゾォォー……。
ただ、もののけが出てもおかしくないような、茂みの葉が擦れる音。おどろおどろしい不穏な空気。悪寒がするのは俺だけなのか?
先を行く七人は、警戒することなく突き進む。対して先陣に立つべきアレンは、へっぴり腰の忍び足。
このフロアのモチーフは廃墟。ホラーでお馴染みの、墓で囲まれた無人住宅街。なので……。
「ねぇ、アレン早く来なさいよ‼ 今度はカタツムリって呼ぶわよ?」
「か、カタツムリ⁈」
一つ目に犬。二つ目がキリギリス。今度はカタツムリかよ……。猫も言われた気がするし。ゾンビは怖いから嫌い。
震えながら歩を進めると、メンバー全員を囲むように地面が盛り上がる。乳白色の骨。スケルトン? だけど、なんかイメージと違う。
「この子達、可愛いですね。丸っこくって小さくて、子供みたい。これならアレンも大丈夫じゃないかしら?」
「……は、はい……。多分。わかんないけど……。チェリスが一緒なら」
「ビビりなイケメンは嫌われるわよ?」
たしかに、そうかもしれない。ほんとに俺って要領悪すぎ。遊泳はゲームでできても、リアルで泳げるかわからないし。
バトルもソロ向きじゃないし。女性を助けることもできないし。情けないし。頼りないし。好きなことだけ没頭して、できないことは手もつけない。
「要領悪すぎ……。俺って……」
「いつも弱気ね。助けられてばかりのプリンスは誰かしら? できないなら聞けばいいのに……」
「ですよね……」
「『ですよね』じゃないわよ。この無能ナマケモノ・ヘタレ・イケメン馬鹿‼」
詰め込みすぎ感半端ない……。というより、相当下に見られているんだけど‼ そこまで地位低いん? リーダー未満じゃん‼
「リーダー未満なら、少しでもリーダーらしくしないダメっすよね……」
いつの間にか握っていた、愛剣の柄。ジリジリと寄ってくる、スケルトン軍団。脈打つ恐怖。克服しないと意味がない。
勢いよく振り抜くが、まぶたを閉じてしまい上手く命中せず空振り。冷や汗と悪寒が止まらない。早く脱したくて、逃げたくて。当たることのない刃が空を斬る。
「焦っても無駄よ? アレン」
挑発にも聞こえるチェリスの言葉。どんどん気分が悪くなる。剣の力が強くなる。もしかすると、所有者の感情を読み取っているのかもしれない。
「暴走すれば、早く済む。たしか前にも……」
「なんでもかんでも、怖くなったら暴走。ふふ、あんたらしいわ。犬行きなさい」
その言葉で、剣の効果を増幅。でも、暴走状態までにはいかなかった。得たのは恐怖への抵抗。逆にとても嬉しくなる。
ホラー全開の十六層。暗闇に建つ廃墟には、色鮮やかなバラが咲き、楽園に変化していた。




