第2-53話 暗夜の開戦
「『シャドー……イフリート……』」
真っ暗闇にたたずむ真っ黒の悪魔。ギラりと睨む眼光に背筋が凍る。黒い霧は範囲を広げ、ついには私の内側に忍び込む。
幸運なのか不運なのか、メルフィナへの影響はない。ないだけは嬉しいが、それどころではないのも嘘偽りない現実。
私は一度着陸態勢に入り、バレンを安全な場所に隠す。横目で見た先には、先陣を切って交戦するロム。
彼の実力を見るからに、動きは目を覆いたくなるほどぎこちなく、攻撃も消極的で危なっかしい。ロムの場合はサポート向きかもしれない。
「ロムさん下がってください‼ 私の援護に‼」
「わかりました‼ 明理さん‼ あとはよろしくお願いします」
「任せてください‼」
助走無しでの高速移動。現実と仮想の壁を越えているからか、皮膚の痛みに加えキーンと耳鳴りがする。
そんなもの気にしていても、何も変わらない。考える前に動く。私は右手で柄を握り、急接近した。
向かい風の壁を壊す勢いで抜刀される長剣。重力に逆らった柄はずっしりとして、身体全体が持っていかれる。
その重みを反映させつつ、悪魔に向けて繰り出した斜め斬り。吸い込まれるように左脚を切り裂く。
このまま停止すると硬直状態になるので、余った遠心力で切り上げ回転斬りに繋げる。
そして利き手の左へ持ち替えて、真空蹴りからのバク転で数メートル下がる。
「もしかして、明理さん両利きだったりして……」
「まあね。一つ聞きたんだけど、ロムさんの動きに私が合わせるから、武器の能力借りてもいいかな?」
「武器のって。〈フォトン・グングニール〉のですか?」
「そう。あとメルフィナさんも、短剣持っていますよね? 属性付きの」
「な、なんでわかるのよ? た、たしかに〈アクア・デュランダル〉持ってるけど……。表に出した覚えなんて一度も……」
「勘かな? 大抵のことはそれだけでわかるから」
私の勘にも使い道が違う。一つは相手の手持ち。二つ目は相手の戦闘能力解析と、敵モーション解析。三つ目はサブマッピング。
これらを駆使して状況判断する。特に二つ目は、危険回避を即座に割り出したり、仲間の行動に適応させるためのもの。
チームワーク必須のこの状況で、とても重要になってくる。
けれども、バレンにだけは反応してくれないようで……。ロムも彼の考えがわからないらしい。
「思えばバレンさん……」
『……』
「寝ているみたいね。明理ちゃん。敵は?」
「今拘束魔法で押さえ込んでいます。と言っても、そろそろ切れるけどね」
「詠唱していないですよね?」
(無言詠唱だからね……。相当短縮しているし。その分時間が短いけど……。
まずこれが切れたタイミングで、ロムに武器の能力を使ってもらう。
予想では打ち上げてくれるだろうから、原因の正体を確認。確認後に特異点魔法を使用して凍結デバフを付与。
熱で瞬間爆発を発生させて横転したら、メルフィナの属性魔法で冷却。原因の大玉が見つかった場合、それを破壊させる)
ここまでで消費した時間は5秒。拘束解除まで残り25秒。延長も可能だが、それだけの余裕がない。
密かに接続していた通信魔法で二人に説明し、私はシャドーイフリートの前に立つ。解除まで残り15秒。
後ろには槍を構えるロム。柄の中心を持ちその時が来るのを待っている。彼の武器属性は風。武器の状態は万全ではなさそうだ。
「こっちも位置に着いたわ。本当にここで大丈夫なのよね?」
「はい‼」
メルフィナの立ち位置は私の正面。安全性を考えて、30メートル離れている。被害も少ない上に行動も楽なはず。
(拘束解除まで残り5秒……。ロムさん……‼)
――神器起動 ハリケーン‼
後方で高速回転を始めたロム。専用詠唱なのだろう、発動された途端ふわりと身体が宙に浮く。
飛行魔法とは勝手が異なるため、体勢は不安定。飛んでいると言うよりは、浮遊しているが正解だろう。
さらにもう一つ異なる点では、無音。飛行魔法も無音ではあるけど、横移動での微風で音がする。
対して、ロムの固有技は元々が風なので、横移動しても無音のまま。
自らを溶け込ませるように上手く使えば、中断後でも有効利用できるかもしれない。
「ってことは、これを私の方で固定して……」
――マジックバインド……。
小声で発した術式で風の一部を切り取る。風圧の変化は微々たるものだが、体重移動での推進力は問題なさそうだ。
ロムに解除してもらい、バレンの近くまで避難させる。動けない人――実際は寝ているが――を護るために……。
(だけど、この距離感で特異点魔法を使えば、巻き込む可能性も出てくるかな? やるだけやって済ませればいいよね。うん)
――Z+魔法 ジャッジメント・フローズン・ラビリンス‼
一瞬にして氷漬けになるシャドーイフリート。フローズンは暴風雪に紐付けた短縮術式で、撹乱や凍結に使う。
『メルフィナさんあれって……』
『バレンが話していた古代魔法よね? 間違いないわ。氷結の神域精霊シヴァの能力に近いもの』
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第1部分は、宮鳥亜蓮が主人公のVRゲームジャンルなので、よろしくお願いします。
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