表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

一期一会のすれ違い

作者:

303号室、ここだ。

扉の先のベッド。そこにあいつはいた。

あいつは白衣を着て、仰々しい管付きマスクを着けて、点滴をしていた。

俺が家を出たのは何年前だったか。

顔を見るのは本当に久しぶりだったけれど、あいつだとすぐに分かった。

細く閉じている目を見ると、ただ寝ているようにも見えた。

だけどそんなことはないと知っている。

ガンだかなんだかの末期で、もう長くないんだと聞いた。

そんな状態でも穏やかに寝ているように見えるのは医療の発達ってやつの成果なんだろうな。

ふと、どんな顔をしているのか気になった。

そういえば、短時間ならマスクを外して顔を見てもいいと言われていた。

そっと顔に手をやり、ゆっくりと外した。

怒っている印象ばかりのあの頃では考えられない、穏やかな顔をしていた。

こんな状態だけど、こいつは今が一番幸せなのかもしれない。

いや、いくらなんでも安直すぎた。

俺のことを分からなかった奴だけど、俺だってこいつのことは分からない。

なんだか居辛くなって、休憩所を探した。

ミネラルウォーターを買って、ベンチに座って、意識しながら息を吐く。

頭の中がごちゃごちゃだ。

急に病院から電話が来て、何年も会っていないあいつが危篤だと聞いて。

仮にも親だし仕方ないと思いつつ、一応急いで来たんだから当たり前か。

正直会いたくなかった。

でも最後の機会かもしれないと思うと、やっぱり会っておく方がいい気がして。

結局、会いに来てよかったのかは分からない。

でももう一度くらい会ってから帰るか。

しかしなんだか、病室の方が慌ただしい。

行ってみると、赤いランプが点いて病室が閉まっていた。

医者が来て、あいつの容体が急変したと言って、入って行ってしまった。

そういえば、あの時俺はあの仰々しい管付きマスクを付け直しただろうか。

あいつに俺の食事を忘れられてしまったことを思い出す。

あの時はあいつが何を考えているのか本当に分からなかったが。

強い方のミスで、弱い方は簡単に死んでしまう。

あいつの方が強かった今までと、立場が逆になってしまった。

近くのナースにあいつのマスクが外れていなかったかと聞く。


「マスクは外れていませんでしたよ」


そうか。

良かった。

いや、そうでもないのか。

そうか。

もう会えないか。

もう一度、ベンチに戻る。

そこにはミネラルウォーターが置かれていた。


なに寝惚けてやがる


あいつの口癖を思い出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ