職業? 悪役令嬢です♪
「あらぁ。地味すぎて気がつきませんでしたわ、マリア様」
転ばせた男爵令嬢を見下ろしながら、スカーレットは悪し様に罵る。
耳を塞ぎたくなるような罵詈雑言の嵐に、周囲はドン引きだ。
彼女の名はスカーレット・ガルタニス。宰相を勤める侯爵家の御令嬢である。
見事な金髪碧眼にスラリとした身体。手足が長くて細い印象があるが、出るとこは出たナイスボディ。
ドン引きしながらも紳士諸君の視線は、たわわな膨らみを持つ彼女の胸元に集まっていた。
スカーレットは腕を組み、男爵令嬢の前に立つ。
「だいたい、貴女のお家は男爵でしょう? 幼馴染みか知らないけど、伯爵家令息であらせられるロビン様に慣れなれし過ぎじゃありません事? やだわ、自分を知らない娘って。ロビン様も呆れておられますわ。御迷惑よ」
口元を軽く指で抑え、あからさまに嘆息しながら、スカーレットの眼は愉悦に弧を描く。
男爵令嬢は今にも泣き出しそうだ。
そこへ一人の令息が飛び込んできた。
「いい加減にしろっ、スカーレット嬢っ!」
やって来たのは件の伯爵令息。彼は男爵令嬢マリアがスカーレットに絡まれていると聞き、急ぎ駆けつけたのだ。
「大丈夫か? マリア」
「ロビン...様」
「ロビンで良い、君が恥じる事は何もない」
そういうと、ロビンは辛辣な眼差しでスカーレットを睨め上げる。
「金輪際、マリアに近寄らないでくれっ! マリアは....僕の大切な女性だっ!!」
「ロビン?!」
驚く男爵令嬢にスカーレットは汚物でも見るような蔑みを浮かべ、軽く頭を振る。
「有り得ませんことよ、ロビン様。そんな婢に」
「彼女は男爵令嬢だ、婢などではないっ!」
「男爵なんて下級も良い所じゃないですか。婢同然ですわよ」
「貴女という人は....つ、話にならないっ、失礼するっ!!」
令息はマリアを連れて、足早にそこから立ち去っていった。
それを見送りながら、スカーレットは蠱惑的な笑みを浮かべる。
何かを含むようなその笑みは妖しく扇情的で、周囲の令息達の胸を鷲掴みにしていた。
翌日、スカーレットは学園裏庭の東屋で読書を嗜む。侍女に用意させたお茶と茶菓子を摘まみつつ、静かにページを捲っていた。
「スカーレット様っ!!」
呼ばれて振り返ると、そこには昨日の御令嬢、マリアが小走りに駆けてきている。
息急ききってやって来たマリアは、極上の笑みを輝かせて、スカーレットを見つめた。
「ありがとうございましたっ、ロビンも、やっと覚悟を決めてくれたみたいですっ、わたくしと....婚約したいとっ」
顔を真っ赤にして、マリアは小さな袋を差し出す。
それを受け取り、スカーレットは満面の笑みで応えた。
「よろしかった事。お幸せにね」
「はいっ!」
マリアは深々と頭を下げると東屋をあとにする。
「ほんと。手のかかる殿方が多いのね」
数日前、スカーレットはマリアから相談を受けた。
身分差を気にして幼馴染みが婚約に踏み切ってくれないと。
御互いに想い合っているのは薄々察しているのだが、気の弱い令息は、とても父親である伯爵に楯突くことは出来ない。
そんな彼を思いきらせるために、男爵令嬢がイジメの被害者である事実を作り上げたのだ。
もし、令息が本気なら見過ごすことはしないだろう。
身分を吹っ切る切っ掛けになるやもしれない。
愛は強し。
幻想かと思っておりましたが、有りますのねぇ。まだまだ貴族の世界も捨てた物ではないのかもしれませんわ。
そしてテーブルに置かれた小さな袋を持ち上げる。
ちゃりっと小さな音をたてる袋に、スカーレットはにんまりと口角を上げた。
袋の中身は金貨。
恋愛成就は金貨五枚。婚約破棄は金貨七枚。他にも高位貴族の演出や茶番が必要な依頼に、彼女は値段をつけて協力していた。
知る人ぞ知る、悪役令嬢スカーレット。
お金が大好きな彼女は、今日も誰かの企みに寄り添う。
読んで頂き、ありがとうございます。
不思議物語中心に執筆中のワニでございます。
既読マークに星1個。気に入っていただけたら、もっと下さい。
電子の海にたゆとうワニでした♪
↓こちらがワニの子供らです。よろしかったら、これらとも遊んでやって下さい。
完結作品
悪役令嬢やめますっ!!
続、悪役令嬢やめますっ!!
時の蛇
連載作品
ドラゴンとオカン