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第21話 業者を探そう

 巨大マンドラゴラとの戦いは終わりを迎えた。


 ジョバンニ達はギルドの受付にて報酬を受け取る。 報酬はもちろんお金だったが、副報酬として、「マンドラゴラの遺骸を利用する権利」も獲得した。


 というのも、マンドラゴラの表皮は硬く頑丈で、加工しやすく劣化しづらいため、自分で加工する冒険者も少なくないというのだ。


 もちろんその権利は使わなくてもよく、しばらく放っておけばマンドラゴラの遺骸は業者へ売られ、ちょっとした小金となってジョバンニ達に渡されるらしい。


 何はともあれ、3人は無事に帰宅できた。極度の疲労のため、3人ともすぐ寝入ってしまった。


 ゆっくりと眠り続け、3人が目覚めたのは昼少し前だった。


 起床し、3人は玄関ホールに集まる。挨拶を交わし、互いの無事を喜び、そして報酬の話になった。


「昨日は本当にご苦労だったな、アンジェラ。ルチアナ。今一度、俺たちが獲得した報酬を確認しようか」

「へへへ、報酬ってのは何回見てもいいもんっすからね」


 昨日も確認したが、ジョバンニにとっては初めての報酬だ。何度見たって嬉しいものだ。


 ずしりと重い皮袋をひっくり返すと、じゃらじゃらとたくさんの金貨があふれ出てきた。


「うおおおおおお、やっぱりすげーっす! 金があるっていいっすねぇ!!」

「こんなにたくさんの金貨、初めて見ました」


 3人も思わずその輝きに目を奪われる。


 ジョバンニ達は冒険者ギルドから割り増しで報酬を受け取ることができたのだ。戦いにおいて、3人が一番の功労者であると認められたためである。


 その額は、3人合わせて80万トラン。


 一晩で稼ぐ額としては破格である。だがギルドマスターが気前よく奮発してくれ、大金を受け取ることができたのだった。


「あぁ~、やっぱり良いっすねぇ。金が入るってのは幸せっすなぁぁ!」


 ルチアナがだらしない笑顔になる。テーブルの上に広げられた金貨たちはそれだけで圧巻だ。


「すごい枚数ですね……一気にお金持ちになってしまいました」

「さすがに金持ちってのは言い過ぎだが、確かに凄いな」


 ジョバンニはお金を的確に分けていく。自分の分、ルチアナの分、アンジェラの分、そして「家貯金」の分。


「家の貯金は、前と同じく報酬の3割でいいな?」

「いいっすよ」

「私もそれでいいです」


 家貯金も潤沢なものとなり、ジョバンニは嬉しさを覚える。この資金があればさらに家をリフォームできるだろう。


「壁と、屋根もリフォームできそうだな……これだけ予算があればいけるか……? とりあえず業者に相談してみてどれくらいの相場か聞かないといけないけど……」


 せっかくのお金を無駄にはできない。その思いからジョバンニは家貯金を革袋にしまいながら考え込む。


 その様子を見ていたアンジェラがぽつりと呟いた。


「なんだかジョバンニさん、大家さんみたいですね」

「え? 大家さん?」

「だってそうではありませんか。家のことを管理する人を大家さんと言うのでしょう? であればジョバンニさんはまごうことなき「大家さん」ですよ!」


 まったく実感が無かった。そもそも大家を目指したつもりが無い。


 だが、自分は確かに家の持ち主で、その家を良くするために行動している。そう考えると間違った言い方ではない。


「そうか……俺は、大家か。なんだか変な感じだな」

「うははは、いいじゃないっすか。冒険者で、風魔導士で、大家! なんか属性が多い気もするっすけど、面白いじゃないすか」

「これからも頼りにしますね! 大家さん!」

「……慣れないから、普通に名前で呼んでくれ」

「にしし、ごめんごめん。それじゃ報酬受け取るっす。どうもありがとうっすよ」

「ありがとうございます、ジョバンニさん」


 3人は自分の取り分を懐にしまい込む。


「……さて、それじゃ、早速行くか。屋根と壁のリフォームを頼めそうな業者を探しに行こうぜ」

「よっしゃ! 行こう行こう!」

「はい。いい業者さんが見つかるといいですね」


 ジョバンニ達は立ち上がる。資金は手に入った。後は、自分たちの快適な居場所を作るべく、なるべく良心的な業者を探すだけである。



◆◆◆



 大通りに出ると、相変わらずの賑わいだった。


 金貨の入った革袋は、ジョバンニの腰にくくりつけ、紐を厳重に巻き付けてある。


 家をリフォームできる業者を探し、大通りをあちこち歩いてはいるが、なかなかいい所を見つけられない。


「うーむ、なかなか見つからねぇな……」

「ないっすねぇ」


 大きな看板を引っ提げている不動産屋は、身なりのいい客がほとんどで、提示されている金額も景気がいいものばかりだ。


 ある店は、少し入口の近くに立っていただけで無理やり店に連れ込まれそうになり、ジョバンニが無理やり引きはがす……という場面すらあった。


 初めて大通りを歩いている時も思ったが、不動産屋というものは良い場所ばかりではないらしい。


「どっかにいい店はないもんか」


 せっかく手に入れたお金は、有意義に使いたい。それが3人の共通見解だった。


「ルチアナさん、いい不動産屋がどこかにないか、ご存じないのですか?」

「あったら最初から提案してるっすよ。リフォームしてくれる業者なんて、これまで全く必要になったことがなかったんすから、全然わかんないっすよ」

「まあそうだよな……」


 闇雲に探しても、見つかるとも思えない。いったん探し方を改めるべきかもしれない。


 そんな風に思いかけた時、横から声をかけられた。


「よう、あんたら! 奇遇だなこんなところで!」


 見ると、そこには見覚えのあるドワーフが立っている。


「あれ、あんたは……」


 それは。マンドラゴラ討伐を依頼してきたドワーフだった。


「いやあ、あん時は助かったよ。無事で何よりさ」

「あ、あの時の依頼人さんですね。こんにちわ」


 顎を撫でつつ、ドワーフは笑う。


「いやー、あんたらは命の恩人さ。空き地をあのまま放っておいたら、俺の家はそのうちデカいマンドラゴラに喰われてたかもしれないんだからな。礼を言うぜ」

「そっちも無事だったんですね。家の方は大丈夫ですか?」

「なに、カベがちょっと壊れただけだよ。大丈夫大丈夫」


 空き地の周囲の家も被害にあったはずだが、ドワーフは明るく笑っている。


「しかしこんなところでばったり会うなんて奇遇だな。買い物かい?」

「いや、買い物ってわけじゃなくて……実は家のリフォームをしようかと思っててね」

「ほぉ?」


 簡単にジョバンニが今の状況を話すと、ドワーフは眉間に皺を寄せて頷く。


「うぅむ、そうなんだよな。この大通りの不動産屋は、富裕層向けだからなァ。悪い連中じゃないんだが、どうも庶民には手が出せないんだ」

「じゃ、お金に余裕のない人は、家が壊れた時はどうしてるんだ?」

「自分でどうにか直すか、ほっとくか。まあどっちかだろう」

「なかなか厳しいのですね」


 アンジェラも渋い顔になる。すっかり諦めムードの3人だが、ドワーフは「まぁ待て」と言った。


「話は分かった。古い家を直したい、そういう話なんだな」

「ああ」

「なら、この俺に一つアテがある」

「……ほんとか?!」


 ドワーフはにこやかに答える。


「ドワーフってのは、家を建てたり、物を作ったりするのが上手なんだよ。俺の知り合いに大工をやってるドワーフたちがいる。リフォームでも工事でもなんでもござれさ。俺が話をつけてやるよ」

「おお、それは助かるっす!」

「実をいうとな、俺の家も、俺の知り合いのドワーフに頼んで修理してもらったんだ。自分でやってもよかったんだが、知り合いの方が大工仕事が上手い」


 苦笑しながら、男はそう言った。


「ただ、その、俺たちはそんなに大金持ちってわけじゃない。あまり高い料金だと、依頼するのも難しいかもしれない」


 ジョバンニが声をひそめてそう言うと、男はにやっと笑って快活に答えた。


「なーに、そう怖がるな。ドワーフの店は良心的価格でやらせてもらってる。派手に宣伝できねぇからみんな知らないだけだ。ちゃんと紹介してやる。何しろ命の恩人さんだからな!」

次話投稿は21時頃です。

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