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3話、自己紹介は紳士的に

「あ〜、どうしたもんかな〜。」


行李を背負った青年は街道でぼんやりとしていた。

青年の手には、小さな手が握られている。

その手は小さく、骨が浮いている。

薄汚れたボロを纏い、着ているボロ以上に汚れている表情は虚ろで、パサパサの白髪は複雑に絡まっている。

誰が見ても孤児か、物乞いと思ってしまう子の手を。

しかし、この辺の住人なら誰もが知っている子を。


そう、青年は勢いに任せて、さっきの牧場から“災禍の子”と呼ばれていた子どもを、連れ出してしまったのだ。



「いやいや、お前にも義侠心があったのか?」


面白そうに口を開いたのは、行李にとまっている、あの大鳥だ。


「いや〜、

 そんなものは無かったはずなんだけどなー。」


どうして、あの2人に割って入ってしまったのか?

強引に交渉を進めて、有無を言わさず連れ出してしまったのか?

今、考えれば普段の青年からは想像することもできないことだった。


大鳥は、そんな青年の困惑気な顔を「ふふっ」と嬉しそうに見ていたが、

じっと虚ろに固まっている子どもの様子に、


「まずは、自己紹介でもしたらどうだ?」


と、くいくいっと青年の赤銅色の髪を引っ張って促した。

「んっ?」と引っ張られたままに横を見れば、体を強張らせている子ども。


見ず知らずの人間にいきなり手を取られ、何の説明もされずに歩かされ、

おまけに街道の真ん中で唐突に立ち止まったと思ったら、鳥がしゃべりだして……



―明らかに、俺、チョ〜不審者なんじゃね?

 ってか、確実にやばい人だって思われるに決まってんじゃん!!


自分のかなりの不味さに思い至り、ヤバイ、ヤバイとあわあわしていると、


「レディを待たせるなぞ、失礼だぞ!」


と大鳥から叱責を受けた。

青年は、大鳥の口から出た予想外の言葉に「はぁ?」と目を点にした。


―レディ???

 こいつ、男じゃなくて、、、おんな、の、こ〜???



パサリと軽やかに少女?の傍に大鳥は降り立つ。


「私は、空を司る精霊であり“天空を駆ける孤高なる者”。

 人は“猛き天空”とも呼びますが、貴女は、リゼ、と私をお呼びください。」


子どもの眼を見つめて、リゼと名乗った精霊は、混乱中の青年を置き去りに自らを明らかにした。

それは、普段、人に対するアタリが、非っっ常〜〜に厳しいリゼからは、全くと言っていい程考えられない態度だった。


しかも、


―っっっ! 精霊としての「名」を告げるなんて!!!


精霊は自然界を司る様々な力を備えている。

内在する力はそれぞれだが、精霊は全体的に自由を尊び、勝手気ままで、プライドが高い。

内在する力が低い人間という種族に対して、高飛車な態度を取り、見下しているモノが多いのが常だ。特に、人間にも姿を見せることが可能な程、力を持っている精霊は、その傾向が強い。

リゼのように、質量を持って顕現できる精霊なら、山よりも高いプライドを持ち、海よりも深く人間を見下すというスタイルが当たり前というものだ。

それなのに、リゼは自分から進んで精霊としての名前、

「天空を駆ける孤高なる者」

という名を告げた。これは、まずありえないことだった。


―「精霊としての名は、精霊同士でも、自分より下位の精霊には名乗らないぐらい大切なものだ」とか言ってたくせに………


なんで〜〜。とあまりのことに目を白黒させていると、


「お前も、さっさと名前ぐらい言えっ!」


と、口をあんぐりをあけた間抜け面に、バチコンッとリゼの張り手ならぬ、張り翼?がクリーンヒットし、青年を5メートル程吹っ飛ばす。



「っっっ!!!」


あまりの痛さに声も出ない青年に更に、


「――早くしろっ!!」


威嚇するよにバサッと翼を広げるリゼ。

青年はあまりの理不尽さに、反射的に反論したい衝動に駆られたが、クワっと更なる威嚇行動に移行するリゼに、握り締めた拳をふるふるさせながら、

「ここは、ぐっと、ぐっっっと我慢だ俺!!」

と小声でなんとか押しとどめる。


その姿は、なんだか物凄く哀れな雰囲気を醸し出していた。



そして、怒りを鎮めるように小さく深呼吸をして、柔らかい笑顔で子どもに向きなおった。


「俺は、キールという。渡りの薬師だ。

 これから、君の保護者になったから、よろしく頼む。」


と、ハキハキと良く通る声で名乗った。


その態度は、一介の薬師としてはあまりに堂々とし過ぎていた。



それは、まるで……




―――人を従えることに慣れた者の態度だった。




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