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10話、おいしい朝から始めよう!

作中に出てくる名称等は、創作したものですのでお気になさらずにお読みください。

少女と出会って4日目の朝。

キールはスッキリとした気分で目が覚めた。


―リゼが叱咤激励してくれたおかげかな?


キールは気分よく鼻歌を歌いながら、昨夜のことを思う。

世話好きなリゼのおかけで、気分は軽くなったし、今後の方針も見えてきた。

後は、前進あるのみだ!

とキールは張り切って朝食の準備を始めるのだった。


旅の朝食は乾燥物ばかりの侘しいもの。というのが通常だが、キールが準備し始めたものは違った。

そもそも、今のキールは無一文に近く、食糧が底をついて餓えていたぐらいだっだので、旅人の必需品の乾物すら無かった。

だからこそ、今は街道横の森の中をゆっくりと進んでいる。これも(ひとえ)に餓えないだめだ。

何せ、森の恵みは豊かで、誰にも文句を言われないのだから。


そんなこんなで、森に入ってからは食糧に困ることはほとんどない。

ただ、これまでは少女のことで落ち込み過ぎて、食事が簡素になり過ぎていたとキールは反省していた。

これまで、一人旅のようなもので、食事を作るということも気分がのっている時にしかしなかったから、すっかり温かいモノや美味しいモノを食べさせてあげるという考えに至らなかったのだ。それに気づくと、つくづく自分が情けないとキールは思わずにはいられなかった。

だから、今日からは少女の為に、まずは美味しいモノを食べてもらおう!

ということを決意したのだった。そんな決意は、リゼから言わせれば、少女への点数稼ぎのようなものとしか映らなかったが…


新たな方針の一つ、「美味しい食事計画」を実行すべく、キールはいつも背負っている行李から幾つかの品を取り出す。

手にしたのは真っ赤に熟れたリリの実という甘酸っぱい果実に、木の実を砕いた粉と、木のボウル。


どうするかと思えば、ボウルに粉を入れて、その中にリリの実を入れて捏ねていた。

こうすると、リリの実の果汁が粉と混ざって、一つの塊になるのだ。それを6つぐらいの塊に分けて、そこらにある木の棒に巻きつけて、まだ火を保っている焚き火の近くに差す。

その間に、水筒の水を鍋にかけ、腰に下げている革袋から乾燥した葉を取り出した。

仄かに葉から香るのは、柔らかく香ばしい匂いだ。

それを躊躇いなく鍋に放る。

そして、鍋から木の茶椀に葉が入らないように入れると、腰に下げているさっきとは別の革袋をゆっくりと傾けた。そこから茶碗にトロリとした蜜が注がれる。


そうこうして出来上がったのは、キール特製の朝食。

果実の薄焼きパンに、香葉の茶だ。


食事としてみると、パンとお茶ではなんとも少なく感じてしまうが、普通の旅だったなら十分贅沢に過ぎるものだ。

朝から火を使った料理であるだけでなく、パンには新鮮な果実が使われているし、薫り高い香葉のお茶は体を温める作用があり、滋養の高い蜜まで注がれているのだ。

もし、通りがかりの旅人がいれば、垂涎の的となってに違いない食事だった。


「おはよう!

 どうぞ召し上がれ。」


朝食の準備中に起きだし、今まで微動だにせず立ち尽くしていた少女に、キールは笑って言った。


「うん。いい匂いだな。今日は美味そうだ。

 ほら、しっかりと食べるといい。」


少女が起きる前から少女の側に控えていたリゼが促すと、少女は声に従って一歩動こうとする。

が、そこで動きが止まった。

リゼの言うことには従おうとするが、従えないといった風に。

その不自然さにリゼは「ああ」と納得の声を発した。

そして、


「おい、ちょっと離れてろ。」


とキールに翼で、しっしと後ろに下がっているように指示する。

キールも昨日までのように落ち込まずに、さっさと下がった。

それで、やっと少女は焚火のそばまで歩いてくることができた。


「その木の棒に巻きついてるのも、お椀に入っているのも熱いから気をつけてお食べ。」


リゼが優しく語りかけると、少女は慎重に手を動かして朝食を手に取った。


その食べ方は、とてもぎこちなかったが、キールは満足だった。


―食べてくれた。


今は、少女が無表情ながら、キールが作ったものを残さず食べてくれたことが何より嬉しかった。

そして思うのだ。


―これから、どんどん美味しいモノを食べさせて、健康にしてあげよう!


そして、いつかはまた声を聞かせてくれるようになるまで、頑張るより他にない!と心に刻みつけていた。





〜〜 ちょっこと解説 雑学編 〜〜

リリの実……

真っ赤に熟れると食べごろになる甘みが強い果実。リリの木は背が高く、実が木の頂上付近に()るため取りにくい。


薄焼きのパン……

これに関しては、キールの匠の技ということで…(ご理解頂けると助かります。。。)


香茶……

いわゆる紅茶。

ただし、この作中ではより薫り高く、薬草としても使える香草を乾燥させて飲みやすくさせたモノ。

体温調節や体調を整えるための飲み物であり、一種の嗜好品。


〜〜 終 〜〜


今回は作中に出てきた、勝手に創作モノを紹介させていただきました。

ご意見・ご感想等ございましたら、よろしくお願いします。。。

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