九話 接吻
「…帰らないと。」
目が覚めてすぐ、今自分がいる場所を察したらしい彼女は、そう言ってドアに向かおうとする。
「……いやいやいや。ちょっと待て。」
彼女の腕を掴もうとする…が、俺の方がドアに近かったこともあり、掴んだところとか、振り向き方とか、色々悪かった。彼女を下敷きにする形で転けた。女の子を下敷きにするとかあり得ない。そう思って咄嗟に態勢を変えたから、下敷きにはしなかったが。俺が下敷きになって、彼女を抱き締めていた。そして、一瞬、口に柔らかい何かが当たった。
………キス。
それがわかった瞬間、俺の顔は茹でダコのように真っ赤になった。彼女の瞳にそんな俺が写っている。慌てて彼女から手を放す。
対して、彼女は相変わらずな様子で起き上がる。
「キスって何? 」
………!?
「…唇が相手に触れることだよ。本当は好きな人同士がする…。」
俺も起き上がりながら言って、恥ずかしさに耐えられなくなった。多分、さらに顔が赤くなっている。顔を隠したい。
「そう……ところで、さっきから頭の中に、あなたの…草野君の声が響いて、うるさいんだけど。」
恥ずかしがる様子もなく、話を変えられた。何で相変わらずの無表情なんだよ。この温度差、悲しくなってきた。
彼女の言葉、俺、そんなに何か言った??? それに頭の中って何!?