七話 可愛さの再確認
「誰かもわからない奴から、助けてくれって言われてもなぁ。それに、君の前を走っていた草壁 ゆきはどこへ行ったんだ? 」
彼女に似ているから血縁者なんだろうけど、わからないものはわからない。
「ごめんなさい。僕は草壁 ゆう。草壁 ゆきの双子の弟です。ゆきはここにいます。ゆきを君の家で匿って下さい。」
そう言って、自分の膝上の生き物を俺に見せてきた。
誰か冗談だと言ってくれ。だが、彼の必死な様子を見れば、冗談ではないと思わざるを得なかった。たったさっきまで人間だったのに、どうやったら、見たことも聞いたこともないような生き物になるんだよ。
よく見ると、可愛いくもある。元々、可愛いからだろうか?
ふと彼を見ると、なかなか答えない俺を不安げな様子で見上げていた。
「俄には信じられないが、それを信じたとして、その生き物が草壁 ゆきだという証拠はあるのか?」
「もう少しで元に戻るはずだけど……ここにある、ゆきの鞄は証拠にならないかな?」
確かに持ってはいた。まぁ、良いや。それでも女の子一人だけで男の家に入れるわけにはいかない。
「……わかった、匿ってやる。ただし、二人一緒だ。それと、俺は草野 凌だ。」
彼の表情が明るくなった。少ししか見ていないが彼女とは大違いだ。
「ありがとう! 後で追いかけるから、先に帰ってて良いよ。」
「いや、元に戻る証拠を見せてもらう。」
「あ、いや、それはちょっと……ゆきが戻ったら裸になるから。」
信じてもらえなかったことにショックを受けた後、狼狽えたかと思うと彼女の鞄と俺を交互に見ながらそう言った。鞄の下をよく見ると制服が畳んで置いてあった。
「……わかった、ゆっくり先に行くな。」
俺は今、絶対顔が真っ赤になっている。なんで制服に気付かなかったんだ。
「草野君、お待たせ。ごめんね、先に行ってもらって。」
びっくりした。急に声をかけられると驚くだろ。
「別に謝らなくても良いが。……行こうか。」
自宅に向かう。
それにしても、今、どこから現れた? まだ学校から真っ直ぐ進む道だから、わかりやすいところにはいたが、彼の気配を感じなかった。背丈の同じ彼女を抱えているにも関わらず、息も切らしていない。
気配が薄い…わけないよな。彼女は(多分彼も)可愛いんだから。