六話 異変
「少し話をしないか。」
放課後、彼女に声をかけた。それまで、誰も彼女に声をかけるどころか、声すらも発さないでいた。今は、元リーダーならと期待の目で俺を見ている。
「話すことはもうない。」
周りの残念そうな顔。
「なら、話したいから少し時間をくれ。」
「言ったはず。私に関わろうとしないで。」
拒まれた。帰ろうとする彼女の腕をとっさに掴んでしまった。
……細い。
なんてことを考えていると、腕を離されてしまった。走って帰っていく。速すぎる。というより、向かっている方向が、違わないか? そっちは玄関じゃなくて、屋上しかないはず。とりあえず、追いかける。すると、彼女に似た男子生徒も追いかけ始めた。こっちもこっちで、速すぎるだろ。風が起こっていそうだ。それくらい速いんだ。実際は、風は少しも起こっていないのだが。
追いかけたその先には屋上しかない。だから進むべき方向はわかるのだが、もう俺の視界には二人共いない。
屋上の扉の前に着いた。きついな。一息ついて、扉を開ける。見回すが誰もいない。そんなはずない。確かに屋上へ向かっていたんだ。
まさか、上?
屋上の扉の上に上ってみる。彼女に似た男子生徒が一人で座っていた。……いや、植物を身に纏った尻尾が蔓の猫という、見たことも聞いたこともないような生き物が苦しそうに横たわっている。それを彼が不安そうに、労るように膝上で抱えている。
彼女はどこにいったんだ? そう考えていると、彼がこちらを向いた。
「ゆきを助けて下さい。」
このときから、俺の人生は大きく変わるのだが、状況が全くわからない俺は、それに気付くこともなかった。