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異世界で見つけるレゾンデートル〜死を希う少年は最強悪魔に拐かされる  作者: えすとっぺる
第2章〜The Start of Journey in the Another World
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8th.ギヴ・アス・マネー!

落差!

爽やかな朝。

太陽は燦然と輝き地平の彼方まで遍く全てを照らし、澄んだ青空を小鳥が歌いながら飛んでいく。

プリマムの街は既に活気に満ち溢れ、生命力に溢れた人々の声が響いている。


そんな街の一角、歴史を感じさせながらも小綺麗に保たれた宿屋『蝙蝠の寝床』の一室。

そこだけは街の活気から隔絶されたように重い空気が漂っている。


「お金がない!」


そんなルーシーの叫びから会議は始まった。

議長はもちろんルーシー。参加者はアマネ、リゼリア、エリンの三人だ。


皆沈鬱できまりの悪そうな顔をしながら下を向き、誰も他の人の顔を見ようとしない。

そんな中、ルーシーが頭を抱えながら口を開く。


「……いやさぁ、ボクもうっかりしてたけどさぁ……まさかリゼリアちゃんが文無しだったなんてッ……!」


「ご、ごめんなさいルーシー。お屋敷全部焼けちゃったから……そのお金とか宝石も持ち出せなくて、身につけてた装飾品とかを売ったり、日雇いでちょっと働いたりしてギリギリで生活してたから……」


リゼリアは申し訳なさそうに指をもじもじさせて下を向く。

昨日のルーシーやアマネに啖呵を切った毅然さは何処へやら、しおらしすぎる彼女にアマネは新鮮さを覚える。まあ、それどころの状況ではないが。


一方のルーシーはその綺麗な波打つ白い髪をぐしゃぐしゃと指で掻いてまた叫ぶ。


「くっそぅ、このネタでイビってやろうかと思ってたけどそんなこと言われたらできないじゃん! リゼリアちゃんの卑怯者ォ!」


既にイビリに勝るとも劣らない理不尽極まりない暴論をリゼリアにぶつける大人気ない悪魔の頭を、アマネは軽く叩いて静かにさせる。


昨晩リゼリアとエリンに出会ったアマネ達は彼女に同行し、彼女の戦いに力を貸すと約束した。自分の答えを見つけるために彼女と共に戦うことを決めた。


だが、見えていなかった問題があった。

お金がないのだ。

ルーシーはこの世界に来た時点で幾らかのお金を持っていたが、既に宿代と夕食代等である程度手持ちのお金を消費していた。

その上、ここにリゼリアとエリンの宿代・食費が加わりあっという間にお金が底をつきかけているのだ。


「というかネ。アタシに言わせれば大悪魔だとか見栄を切った癖にその程度の資産しかないっていうのがまず問題だと思うのよネェ」


「うるさいなぁ、ボクはその気になればしばらく食べなくても生きていけるし、魔法を使えば寝床だってどうにでもなってたんだよ! っていうか文無しが偉そうに言うな!」


ルーシーとエリンがお互いを視線をぶつけ合う。

昨晩のうちにリゼリアとルーシーの間柄は一時期よりはかなり良好になったようだが、未だにエリンとは折り合いが良くないらしい。

精霊と悪魔という立場ゆえだろうか?

それでも昨日の殺意や悪意をぶつけ合うようなものではなくなったのは進歩だと思う。


だが、そんなことにほのぼのしている場合ではない。

このままでは復讐を成し遂げる前に飢え死にだ。

あれだけリゼリアの過去に聞き入ったり、彼女の復讐を助けて戦い抜くと覚悟を決めた直後に飢え死にでゲームオーバーなど笑えない話だ。


何とかしてお金を手に入れなければいけないが、そのために強盗や詐欺だなんてする訳にもいかない。と、なればやるべきことは一つだけだ。


「お金、稼がないとかなぁ……」


ポツリとアマネが呟く。それを聞いたルーシーは顔を顰め、唇を尖らせて彼の発言に激しく抵抗する。


「稼ぐって何!?ボクに人と同じように働けって言うのかい? 冗談でしょ? ボク悪魔だからね!? 大悪魔だからね!?」


「大悪魔とか言いながら相当に惨めなざまよネ」


「そうだぞ。何クズみたいな発言してるのさ……高等遊民のつもりか?……というか、俺がどんな選択をしても味方でいるんじゃないのか?」


「ぐっはぁぁ!? ……うぅ、確かに言ったけど、ボクとしてはそれはもっと重たい選択を前提とした話でぇ……」


指でバンされた大阪人みたいな激しいリアクションをした後に、ルーシーは恨みがましく上目遣いでアマネを見ながら指をもじもじさせる。


正直あの言葉をここで持ち出すのはアマネもずるいとは思うが背に腹はかえられない。ルーシーにも働いてもらわねば。

心を鬼にして、いじけるルーシーに追撃をお見舞いする。


「泣き言言わない! 悪魔に二言は無いだろ? それとも大悪魔サマは約束を簡単に破る誇りも何もないヤツなのかな?」


「酷い!?アマネの鬼!悪魔!」


「悪魔に言われたかねぇですよ!?」


泣き喚いて胴体に縋り付くルーシーを引き剥がそうと奮闘するアマネ。

年の頃18歳の少年に見た目年齢20代半ば、精神年齢測定不能な女性が抱きつき喚くという阿鼻叫喚の地獄絵図はリゼリアの提案によって終結を見る。


「普通に働くのが嫌なら冒険者ギルドに行ってみない?」



※ ※ ※



宿屋から冒険者ギルドへの道中、リゼリアが冒険者ギルドが何なのか説明してくれた。


彼女によれば、冒険者ギルドとは「冒険者」と呼ばれる雇われの腕に自身のある人々による互助組織らしい。


元々、西方大陸とやらにある商業国家・フラクシヌス共和国を本拠地とする世界的な商業組織、クリストフ商会が主宰する複数の業種に及ぶ互助組織群の一つらしい。他にも金融ギルドや職人ギルドもあるとのこと。


冒険者ギルドに関して言えば、個人や集落や組織、果ては国家機関からの冒険者に対する依頼をギルドが集約して、ギルドとして冒険者に依頼するという形をとっている。


ギルドはクリストフ商会の影響力が及ぶところなら世界各地の主要な街に設置されているらしく、冒険者はどこかのギルドの窓口で冒険者として登録すれば、依頼を受けられるようになり、登録証さえあればどの街、どの国でも依頼が受けられるようになるそうだ。


「そんなものが出来てたなんてねぇ」


「ルーシーはここ50年くらいの事情に疎いんでしょ?

クリストフ商会が台頭したのは50年前くらいだしギルドが出来たのは30年くらい前だから知らないのも無理ないわ」


ルーシーは自分にフォローを入れてくれるリゼリアの頭を、睨みつけてくるエリンの視線を頑として無視して撫でる。

本当に随分間が縮まったものだとアマネはしみじみと思う。


そうこうしながら道を歩いていると、広場のような所に出る。見渡すと複数の道が広場につながっているようだ。

そしてアマネ達の正面には大きな屋敷が見える。高い柵の向こうに見える広い庭と多くの壮麗な建物たちが陽の光を受け燦然と輝いて見える。


「あれがこの辺りの辺境伯、マルトス領辺境伯の屋敷よ。

辺境伯領の行政機関の中心で辺境伯の私邸でもあるわ。

そして広場の右手に見えるあの煉瓦造りの建物がこの街のギルド事務所。

冒険者ギルドはあの建物の一階よ」


リゼリアが指を指しながらアマネとルーシーに教える。

ギルドの建物は赤黒い煉瓦で作られた大きな建物で、その壁面には青々とした蔦が這い、何処か歴史を感じさせる。


「元々はマルトス辺境伯お抱えの騎士団の屯所だったのだけど、辺境伯が屋敷内に屯所を移した後にクリストフ商会が買い取ってギルドの建物にしたそうよ」


「詳しいね、リゼリア」


「そりゃあ最高の王を目指してこの国に留まって居たのだもの、色々見聞きして学ぶのは当然でしょ?」


「それにリゼリアは聡明でネ、アバーフォース翁の雇った家庭教師達はそろって褒めそやす優秀な生徒だったのヨ。ま、算学なんかはあまり芳しくなかったケド」


「ちょっとエリン?!」


エリンの言葉に途中まで自慢げな表情を浮かべていたリゼリアだったが、最後の一言で一気に頬を紅潮させて足を止め、エリンに非難の視線を投げかける。


エリンはクスクスと笑いながらリゼリアの頭の上に座ってなだめるように撫でる。そんなエリンに頬を膨らませながらもリゼリアは小さくため息をついて表情を元に戻し再び歩き始める。


「じゃれ合いは終わったかい? ならさっさと冒険者登録なりなんなりして金を稼ごうじゃないか。どうせなら一発で大金が稼げるのがいいね」


「そんなのそう易々と見つかるわけないだろ……」


ルーシーがあっけらかんと口にした戯言に呆れ気味に突っ込むアマネ。そして四人はギルドの門を潜るのだった。



※ ※ ※



手早く冒険者登録を済ませたアマネ、ルーシー、リゼリアの四人は、依頼が張り出されるというギルドの掲示板の前に立っていた。

掲示板はアマネが通っていた高校の黒板の優に2倍はあるサイズなのだが、その全面に隙間なく依頼の書かれた紙が所狭しと乱雑に張られていた。


「なんかめっちゃ依頼あるな。想像以上に」


「まぁマルトス辺境伯領って広いし未だに魔物とかもうろちょろしてるからねぇ。商人とかからの護衛の依頼とか雑魚討伐とか依頼は絶えないよ」


「え、この世界魔物とかも居るのか?」


「あれ? ボク言ってなかったっけ?」


「聞いてないんですけど……」


「まぁ是非もないよね」


割と重大な話を軽く笑って流すルーシー。

簡単に流してはいるが割と笑えない。もしルーシーの言う魔物というのがアマネの想像するようなRPGに出てくるような存在ならば、それはもう思いっきり人類の天敵になり得るのではないか?


「そこんとこどうなのさルーシー。勝手に連れてきたお前にはせめて説明の義務があると思うんですけど?」


「えぇ、そこそんなに気になる?

ならまずはさ、昨日言ったこの世界の知性体、いやもっと範囲を広げて生命体の霊的、魔術的な位階って奴を思い出してくれたまえ」


ルーシー曰く、この世界の生命体は霊的な位階によって7段階にカテゴライズされるらしい。


一番最上位に当たるのは神、これは存在がそもそも疑問視されている節もある存在らしいが、敢えてカテゴライズするならば最高位に位置する存在。


第2位が悪魔や精霊、ルーシーやエリンが位置する位階だ。精霊にも様々な種類があり、善良なるものや悪しき邪精霊と呼ばれるものも存在するらしい。実際確認される存在としては最高位のものだ。


第3位妖精、超自然の存在の一つで精霊よりも位階が低いが精霊とよく似た性質をもつ。精霊と違うのは人に力を貸して契約を結ぶことがないという点だ。人に好意的なものも無関心なものも、敵対するものも千差万別だ。長い年月を経た動物などが神獣化するとこの位階に分類される。


第4位は魔物。太古の昔から存在する人類の敵対者。精霊、悪魔、妖精のどれにも分類されない邪悪なものがカテゴライズされるらしい。

例としては吸血鬼やゴブリンなどが当たるらしい。邪妖精や邪精霊との差別化がまだ微妙らしいがそのあたりは力量によって区別しているとのこと。現在は上位種はかなり数を減らし、辺境の森などに隠れ住んだりしているものが多い。下位種で動物に近いものは魔獣と呼ばれ、これは割合多く存在しているらしい。


第5位は人間、しかし亜人種なども含めると霊的位階においては多様な幅を持つためそもそも人間を位階に加えるかは議論があるとのこと。


第7位は動植物、これはアマネの元いた世界の物とほとんど同じような存在だそうだ。


尤もこれらの分類は未だに曖昧な点が多いらしく、邪妖精・邪精霊と魔物の区別などはかなり曖昧らしい。またこの世界には統一された学会のようなものはないので国や地域ごとで差異のあるものらしい。


そして目下冒険者たちの敵となっているのは凶暴な動物や魔獣というわけだ。だが、マルトス辺境伯領はクレマティス王国の東の端。そういった辺境の地にはよく上位の魔物と呼ばれるものも存在するらしい。


「理解できたかな、アマネ?」


「情報量が多すぎて処理に苦心してるけど、まぁほどほどに」


ルーシーは満足げに頷きながら再び掲示板へと視線を向ける。

右から左、上から下へと素早く目を走らせる中、何かを見つけたようにその視線が一点に留まる。


「アマネ、さっき君、自分がなんて言ったか覚えてるかい?」


「え、さっきって何時さ?」


「ボクに言っただろ? 一発でがっぽり稼げる仕事なんてそう易々と見つかるわけがないって……これを見たまえ!」


そう言ってルーシーはドヤ顔でアマネの目の前に紙切れを突き出す。


「ちょ、近い近い。……なになに?『マルトス辺境伯領ロアトの森にて不審な人影が目撃される。魔物、悪魔である可能性もあるため高位の冒険者に調査依頼。報酬は5万ギルス。依頼人:マルトス辺境伯保安部』……5万ギルスってどのくらいよ?」


「1ギルスはちょうど日本の円と同じくらいだよ。言語と同じで通貨もこの世界では万国共通。偶に領地独自の貨幣を用意している貴族とかもいるけどね。日本で言うところの藩札みたいなものさ」


「通貨まで統一って、何か出来すぎてないか? 御都合主義丸出し過ぎるというか……」


「そうだねぇ。そろそろ説明しとくか。この世界では世間一般の常識だしね、あまりに知らないのも不自然だ」


そう言ってルーシーは軽く咳払いをする。


「この世界はね元々一つの国だったんだよ。

強大な支配者が統治するね。それが分解して各地に国もどきが乱立して、長い時を経て今の形に落ち着いたのさ」


「元々一つの国って……世界を丸々統一してたってことか⁈」


本当だとすれば恐ろしいことだ。

アマネのいた世界でさえ、原始から現代に至るまで丸々統一されたことなど無い。


確かにアマネの世界でも、アレキサンダー大王やシャルルマーニュ、モンゴルのチンギスハンやフビライハンのように大陸の大部分を征服したような強烈な支配者たちは存在したし、彼らによって超大国が作られもした。


しかし、世界の全てを丸々手中に収めるような存在がいたことなどない。それが、この世界では太古の昔に成し遂げられていたというのか。

驚くアマネを見ながら小さく頷いてルーシーは話を続ける。


「そう、そんな化け物じみたヤツがこの世界にいたのさ。

2000年くらい前、世界にまだ小さな国のようなものが点々とあるだけだった頃、西方大陸の北の小国で一人の男が産まれた。

その名はギルゲイムス。

世界に愛された彼は多くの加護をその身に宿し自らも鍛錬を怠らず、世界を旅して人類を脅かす魔獣や魔物、邪妖精や邪精霊を征討し、最後は魔王と名乗っていた神すら手を焼く大悪魔をも倒し、その後自らの国を作った。

そして散り散りに存在した小国を全てまとめ上げ、世界丸ごと一つの国家に仕立てたのさ。

それが統一国家アラク。

彼は王として100年以上在位して、死後にはその偉業故に創造神によって神の座に招かれたと言われている」


「とんでもない破茶滅茶な英雄譚だな。というか100年以上在位とかもはや人間じゃないだろ」


まあ、アマネの世界でも日本神話では神武天皇などは100年以上在位したし、魔法などがあるこの世界ではもしかしたら可能なのかもしれない。

ルーシーはアマネの言葉にくすりと笑いながら続ける。


「そうだね、人間の域を超えた存在だったのは間違いない。でもねアマネ、彼の英雄譚はまだ終わりじゃないのさ」


「まだあるの⁈」


もうお腹いっぱいだ。

これ以上どこまで行くんだギルゲイムス氏は。


「あぁ、彼は神の座に招かれた後も目覚ましい活躍をして最後は主神たる創造神が彼に禅譲してギルゲイムスは最高神となったとされている。

そして付いた名前が『英雄神王ギルゲイムス』。

そんな彼を崇拝しているのが、この世界最大の宗教、『アラク教』だ。ここに来るまでの道で教会があっただろう?」


そういえばそうだ。

キリスト教みたいな十字架が掲げられているわけでは無かったからそうは思わなかったが、確かに宿屋からギルドまでの道のりには確かにそれらしい建物があった。


老若男女、種族、職業、様々な人々が出入りする厳かな雰囲気の建物が確かにあった。あれが教会だったのか。


「んで、ギルゲイムスの統治の際にバラバラだった言語・貨幣は統一され、彼の死後アラクが解体されても各地の交流や通商の便からそれらは変わることなく今につながっているのさ。

さっき言った貨幣単位の『ギルス』もギルゲイムスから取られてるのさ」


「とんでもないな。俺たちの世界とはえらい違いだ」


神話の時代のことなど元の世界では眉唾物もいいところだが、この世界においては言語や貨幣単位の統一という最も身近なところで英雄とその偉業の証拠を見られると言うわけだ。

感嘆とも驚愕とも取れるようなアマネの言葉にルーシーはクスリと笑う。


「ま、この世界と君たちの世界の差があるとすれば、奇跡というものが公に存在していて、なおかつそれによって絶対的強者ってものが存在してたのがでかいだろうね。

君たちの世界ではどんなに強いヤツがいても100万の軍隊に囲まれて個人で生き残れるヤツなんか存在しないだろう? でも、この世界ではそれすらありえるのさ」


「ねえ二人とも? お喋りしてるところ悪いんだけど真面目に依頼探してくれないかしら?」


突然挟まれた声の方へ二人して向き直ると、そこには喜色など微塵も感じられない威圧感と怒りだけを練りこんだような笑顔を浮かべるリゼリアがいた。


「え、いや、ちょ! リゼリア、違うんだって! 別にサボってたわけじゃ……」


「ふーん……」


「わぉ、全く信じてない目だチクショウ!」


「アマネ、貴方状況が分かってないのかしら?

確かに私たちが合流したことで起きたことだからずうずうしく言いたくは無いけど、私たちを金銭面を憂慮することもなく受け入れたのは貴方たちだからこういうところで対等に努力し合うことを求めるのは何も間違っていないと思わないかしら?

そもそもーーーー」


長くなること請け合いのリゼリアの説教タイムがアマネに弁解の暇も与えずに襲いかかってくる。


助けを求めるようにルーシーを振り返ると、彼女はリゼリアに詰め寄られるアマネを見てニヤニヤと笑っている。そうだ、こいつはこういうヤツだった。

アマネは今更ながらに目の前の白いのは子供っぽいポンコツお姉さんではなく悪魔であったことをおもいだす。


5分前後リゼリアにお説教されたところでようやくルーシーはリゼリアの前に先ほど見つけた紙を差し出す。


「え? あ! も、もう見つけてたのね。それならそうと言ってくれればいいのに。とっても人が悪くないかしらルーシー?」


「大きな声じゃ言えないけど悪魔だからね。それよりリゼリアちゃーん?君、勘違いでボクのご主人さまを随分困らせてくれたみたいじゃないか。何か言うことは?」


すごく楽しそうな笑顔でルーシーはアマネをしゃがませ、彼の頭の上に顎を乗せながらリゼリアを責め立てる。リゼリアはルーシーの言葉の所為で必要以上に責任を感じ涙目になる。


「う、うぅ……ごめんなさい、アマネ」


「うんうん、リゼリアちゃんよく出来ました♡」


「ルーシー、お前時々本当に性格悪いな」


「悪魔だからね」


結局のところ、彼女にしてみれば困っているアマネも見物できるし、勘違いでアマネを責めたことを恥じるリゼリアを弄ることもできる二度美味しいシチュエーションだったわけだ。

全くあの一瞬で随分と嫌な方向に頭の回ることだ。

一方主人を弄られたエリンは怒るかと思いきや、肩を竦めて苦笑いを浮かべている。


「あれ? エリンはボクがリゼリアちゃんを弄ったこと怒らないの? なんかすごく意外だなぁ」


「おふざけとそれ以外の分別はつける主義なのヨ。

それに今回は確認不足のリズの落ち度だからネ。お前にからかわれても今回は致し方ないことというワケ」


「むー。つまんないなぁ」


以外にリゼリアにも手厳しい。ただ甘やかすだけじゃない、しっかり者のお姉さんみたいな雰囲気だ。

しかし、一方のルーシーは膨れっ面。あわよくば一緒にエリンまでからかおうとしてたのだろう。


「そんなことよりさっさと依頼書を見せてくれないかしらン。お金不足が火急の事態なのはお前が一番よく分かってるはずだと思うんだケド」


「はいはい、分かりましたよぉ」


そう言ってルーシーはリゼリアの目の前にあった依頼書を持ち上げエリンの視点に合わせる。


「ふむふむ、随分気前のいい話ネ。

だけど、キナ臭くはないかしらン? この謎の人影ってサ」


「ま、なんでもいいじゃない。ボクがいれば魔物だろうと魔獣だろうと悪魔だろうと楽勝だしね。

他の大悪魔が相手だとちょっと手こずるかもだけど……まあ、勝てないわけじゃないし、そもそもそんな連中は下界をホイホイうろついたりしないもの」


現在進行形で人の社会、しかも大都市の真ん中で職探しをしている大悪魔に言われても説得力が無いが。


とはいえ、ルーシーの自信は相当のものだ。

確かに昨日の門兵の件と言い、リゼリアへの刺客の撃破と言い彼女の実力は未知数なところがある。


だが、人間がこなすことを想定した依頼において彼女が力不足ということは到底無いだろう。むしろ役不足に陥りそうなくらいだ。


「ふーん。まぁそこまで言うんなら別に構わないケド。アタシだって大精霊の端くれだもの、リズと組めば大抵のことはなんとでもなるワ」


「……なら、俺たちと会う前から冒険者として金を稼いでれば良かったのでは?」


リゼリアとエリンで戦力が整っているなら、日雇いで働いたり装飾品を売るよりその方が良いはずだ。

そんな疑問の目を向けたアマネに対するエリンの答えは酷く簡単だった。


「……肉の壁、って知ってるかしらン?」


何か深い理由がある、一瞬でもそう考えた自分をアマネはつくづく愚かに思った。


可愛らしい顔でとんでも無いことをさらさら口に出す御主人様至上主義精霊にチベットスナギツネのような視線を送りながら、これ以上恐ろしい言葉が彼女の口から出てくるのを拒むようにアマネは話を切り上げる。


それを見届けたようにリゼリアはパンと手を叩いてアマネ達の視線を集める。


「じゃ、それで決まりね。調査依頼で5万なんてなかなかの高額収入ね。逃す理由は無いもの! 久々にご馳走だって食べれるわ!」


目を輝かせながらそう熱のこもった宣言をするリゼリアに一同は少し冷めた視線を送る。

なんと言うか、すごく守銭奴な香りがする。アマネはふとそう思った。

どうやらそう思っているのはアマネだけでは無いようで、


「……前から思ってたけど、リゼリアちゃんて何かすごく庶民的だよね。お嬢様なのに」


「……元は箱入り娘らしい感じだったんだけどネェ……半年間の逃亡生活で色々あって、微妙にがめつくなっちゃったのヨ……まぁ、王となるなら金銭感覚は大事でショ」


と、他二人も残念なものを見るような目でリゼリアを見ながら、ため息まじりにそう言った。

リゼリアが辿ってきた苦難の道のりを考えれば同情すべきことではあるし、貴族令嬢から半年で庶民的な感性へと順応できたことは素直に驚嘆すべきことだとは思う。だがーー


「え、え、え? なんで三人とも私のこと生暖かい目で見てるの? 私なんかしちゃった?」


「いや、別に……」


「じゃあ何で目を合わせてくれないのよアマネ?!」


「さーて、じゃあ依頼受けに行こうかぁ。うん行こう、すぐに行こう」


「ルーシーもあからさまに話逸らさないでよぉ!」


「さーて、アタシも魔法のキレが落ちてないか確かめないとネ」


「エリンまで!?」


獲得した属性が守銭奴属性なのは、何とも残念さを漂わせるものだ。アマネはこの時、人の心とはままならないものなのだと改めて実感することになったのだった。


ちょっとばかり世界観の説明なども挟みましたのでくどくなり過ぎた感があるかも……

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