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確かな何かと羨望の変奏曲  作者: 櫻井 島弥
3/3

拾ったカードと羨望の序章

次終わり、と言っておきながら2ヶ月ほど経ってしまったことを深くお詫び申し上げます。言い訳ですが、10月から今まで、たいへん忙しく、書くことの出来ない状況にありました。人に見せれるようなものでは無いのですが、良ければどうぞ読んでください。

人は、夢というものを持つ、言い方は様々だが、希望、欲望、願望、そのどれもに望と言う字が当てられている。こうなりたいと思い、こうであって欲しいと願い、そうあることを押し付ける。


憧れ。これだけ聞けばなんだが素敵な言葉に聞こえなくもない。人は時たま、自分より優れている人物に対して、憧れを抱く。言い方を変えれば、羨望の眼差し、だ。


でも、羨望っていうのは、一人称視点での結論に基づいている。実に不確かだ、彼、または彼女は、こうであると自分勝手に仮定して、そしてそれを勝手に羨む。


「まぁそんなことを言い出したら、そもそも人間の価値など誰が決めるのか、自分がそう思うからなのか、周囲の客観的思想により与えられるのかなんて議論する必要が出てくるんだがな」


「分かってるのならなんでそんなことを考えるんだ。勘違いでもなんでも、尊敬されることもすることもいいことだろうに。凄いって言われたなら、素直に受け取っておけばいいんだよ。」


谷口がわざわざ俺のクラスまで来てから一緒に昼飯を食べる、なんてのは、ついこの間始まったばかりの学生生活において、既に習慣となってしまっている。


「じゃあ聞こう、例えばだ。お前は数学のテストを受けている。しかし最終問題、教師の絶対的100点防衛策である鬼畜問題がどうしても解けない。お前は結局、最後までそれが解けず、苦し紛れに問題文中の適当な数字を足してみた。」


「それで正解になったってか?運が良かったじゃねぇか。そもそも、それで正解したら普通に凄いだろ」

谷口はやれやれと言わんばかりの表情で俺の話にまったをかける。


「黙れ、最後まで聞け。その問題を正答したものは2人だけだった。それがお前ともう1人、仮にAとする。お前は周りから凄い、天才、頭いいなぁなんてチヤホヤされる。だがしかし、2人正答した事実はお前しか知らず、Aは内向的な人間で、テストの点なんかも人に話さない。」


少々キレ口調のように聞こてるが、俺達は喧嘩をしているわけじゃない。もとより俺はこのような話し方で、俺達はこの1年間なんども議論し合っているのだ。いや、そこまで高度なものじゃないか。


「さぁどうする?お前は有難くお褒めの言葉を受け取るか?」

「あぁ受け取るさ。素直に偶然なんだと言ってから、それで正解するなんてすごいよなって笑い話に変更する。それでも十分すごいだろ。第一、そこで拒絶しちまったら、周りのヤツらに失礼だろ」


「そうか?失礼か?でも、そこで受け取ってしまうのは、真に才能がある者に、本当に努力をした者に対しての冒涜ではないのか。テストの点数は確かに人間を比較する材料になり得る。だが、大学受験はその1度のテストでは決まらない。それなら、俺はいっその事、点を下げてもらうべきだと思うがな」


谷口は東京のスクランブル交差点で交尾する2匹のツチノコを見つけたような表情をしたあとに

「なるほど、そういう考えか、わかった。分かったが、自分から点を下げてもらうやつがあるか」


「俺は自分の作ったルールに対してストイックなんだよ」




* * * * * * * * *



「そうですか、では雨宮さん、好きな食べ物はなんですか」


「オムライス」


「では得意な教科は」


放課後、俺は偶然であってしまった十文字 律(じゅうもんじ りつ)に質問攻めにされながら歩いていた。


何故?なんで、そんな質問するの?そのまま会話に発展することは無く、一発屋芸人のごとく現れては消えていく質問達。出会ったばかりの相手には質問するけど、ここまでは無いだろう、それしかしてないし。


「生物を除けばだいたい全部得意だ」


好きな食べ物、得意な教科、好きな星座、行きたい国、好きな作家に幼稚園の時の将来の夢、好きな餡子なんて聞いたところでなんになるんだよ。


「では、尊敬する人はいますか?」


「尊敬する人ねぇ、いたかな、少し思い出してみる」


尊敬する人は誰ですかと聞かれたら、みんなはなんと答えるだろうか。歴史上の偉人や、現代におけるスーパーアスリートあたりが無難だろう。


俺は、まぁ南方熊楠(みなかたくまぐす)さんとか伊奈忠順(いなただのぶ)とか、結局偉人だな。


でも、1番は、いる。あったことも見たことも無い歴史上の偉人なんざ思い込みよりも前にそこにいた真実さえ信用し難い。だから、あったことのある人間の方が尊敬に値する。


小学校4年生の頃だったと思う。俺は親父の卒業した大学の文化祭に連れていかれたことがあった。


当時自分以外の人間を信用しないふてぶてしい少年だったであろう俺、雨宮 勇輔(あまみや ゆうすけ)だが、悪いのはそうした社会だ。


親父はなにか用事があったようなので、俺は小学生1人で大学内をうろちょろしていた。


そんな時に出会ったのが尊敬する人だ。もうどんな学部の人で何をしている最中でどんな顔で声をしていたのかも覚えていない。


けど言ってたことは覚えている。

「ただ目で見たことだけが真実じゃない。自分が見抜くことが出来なかった事実も、知らなかっただけの情報も存在する。普通のやつはそんなこと考えないかもしれないけど、俺はちゃんと考えるよ。じゃなきゃ可哀想なことに、凄いヤツらって理解されないんだよ」


なんでそんなことを言われたのかなんて、しっかりした記憶はないけど、多分俺がふてぶてしく生意気なことを言ったんだろう。その後に俺が、大学には天才がいるのか?って聞いたら


「天才なんてそう簡単には出会えないよ、そこら辺にいたんじゃ天才じゃない。でもまぁ俺の周りには居るかな」と笑顔で答えられた。


あの人に会う前もあったあとも変わらず俺の夢は学者になって歴史に名を残すような発見、あるいは発明をすることだ。


でもまぁ、出会ったことで、世の中にはまともな人間もいるって知ることが出来た。


「名無しの権兵衛、あるいは山田太郎だ」


「はい?」

十文字はきょとんとした顔で頭の上にハテナマークを浮かべてこちらを見てくる。


「名前を知らないんだ、Googleで調べても出てこない。」


「それは何をした人なんですか?」

「そうだなぁ、1人の少年の未来を変えた人かな」

俺がそう言うと、十文字は優しく微笑んだ。

「それはすごい人ですね」




* * * * * * *


そして、まぁ十文字の笑顔を見てから6分後。

「これ、なんでしょうか?」

「どうした十文字」

十文字が突然立ち止まって、落ちていた紙を拾い上げた。紙切れや紙くずではなく、しっかりとした1枚の紙だった。


「これは!」

綺麗に折り曲げてあった紙を開いた十文字は目を見開いていた。

「なんだ」

「見てください」


じっくりと見た、一体、何が書かれてあるのか。何をそこまてま驚いたのか、これはなんなのか、情報を取り入れた。


そこには、1人の少年と一人の女性を中心に5人の人間が描かれていた。そしてこう書かれていた。

「6月20日

おばあちゃん、お誕生日おめでとう」


なるほど、だいたい分かった。

「バースデイカードじゃないか」


「そうなんです!!」

なんでそんなに驚いてんだよ

「これは一大事です。」

ちょっとよく分からないなぁ、の顔をした。

すると、劇場版で仲間のピンチを前にした砂利少年のような勢いと表情で

「誰かがバースデイカードを落として困っています!!日付は今日で、もう夕方です。早くしないと!」

と、十文字。

足をパタパタさせながら俺の周囲5メートル以内を右往左往している。


「まずは君が落ち着け」

と、俺は十文字に阿蘇の天然水を与えた。もうちょいカッコつけれる機会がいつか訪れることを信じよう。俺も泉修一みたいにやってみたい。


ちょうど目の前にあった公園のベンチに2人腰掛けた。


「何もわからないのを慌てふためいても意味が無い。困っているなら探しているはずだ、そういう人間がここを訪れる可能性もある、まずは落ち着いて考えよう。」


カードごとき、簡単に作り直せる、なんて、思わねぇよ流石に。そこまで人間悪くない、人が丹精込めて作ったものは何よりも価値が高いんだ。だから、面倒臭いとは言えないか、が、どうしたことかな。

見たところ、いや、普通に考えてバースデイカードに住所が書いているわけがないか。


「雨宮さん、私見ただけでわかります、持ち主の感情が伝わってきます。」

「それは相当なSPECで」


誰だっけなぁ、えっと、名前が思い出せない。ほら、あの、妹さん、って、そんなことはどうでもいい。


「私、持ち主の方にこれを届けてあげたいんです、雨宮さん、手伝ってください。」


「いや、うん、そうだな・・・」

やめなさい、上目遣いで、目をJRから見る朝の有明海の如くキラキラさせるんじゃありません。


「雨宮さん!」

「いや、分かりましたから、俺も持ち主を探すの手伝うから」



「ではまず、現場100回。と言っても目の前の道だし、他には何も無いな。」


せめて他になにか一緒に落としておいてくれれば


「じゃあ、唯一の推理材料であるそのバースデイカードを見てみよう。」

「あ、そうです、これからなにか手がかりが掴めるかもしれません」


再びバースデイカードを開いた十文字は、早くもなにか見つけたようだ。

「見てください雨宮さん、りょうたくんです」

名前だった。おそらく差出人の名前か、出来れば住所がよかった、そんなわけないけれど。だが、名前は貴重な情報だ。


「きゃっ」

突然十文字が黄色い悲鳴をあげた。なんだ、火サスとかじゃないはずだが・・・


「どうした!」

「す、すみません。蟻がいて。その、私虫は苦手で」

なるほど

「そうか、よかった、血痕でもあったのかとびっくりした。」

大丈夫だ、俺も無視は苦手だ。


さて、と、十文字がほおり投げたバースデイカードを拾い上げて、念の為はたいてから十文字に渡す。


「さて、他には何もなさそうだなぁ、どうするか。いよいよ困ってきたぞ、名前だけか。」


「ですね、これは、困りましたね」

深刻な面持ちの十文字

「あぁ、困った、もう面倒な解決法しかない」


「解決出来るんですか!」

ぱっと花咲いたように明るく期待のこもった目をした十文字

「無理とは言ってないだろ、少し面倒なだけだ、どうにでもなるさ」


喜怒哀楽がはっきりとしているやつだな。


「そこで遊んでいる子供たちに聞いてみよう。」

なんとでもなるとは言ったが、今この状態からいきなり解決などできない。名前を頼るしかない。


可能性はゼロじゃない。たまたま目の前の小学生がりょうたくんと同じ学年で友達かもしれないじゃないか。


するとちょうど、サッカーボールがこっちに飛んできた。そのボールに引っ張られるかのように一人のメガネが来た。


俺はボールを拾い上げて、メガネに渡しながら

「なぁ済まない、友達に、りょうたくんっているか?」


「え、あ、すみません、その、不審者ですか?」

えー、ド直球すぎるだろその質問。


「い、いや、落し物の主を探しててさ、そこのお姉さんも一緒だから。それに、俺達は高校生だから、制服で悪いことなんて出来ないよ。」

小学生を納得させられたか。


なんだろう、メガネは、俺を怪しげな表情で見つめたあと、後ろの十文字を見てから納得したように顔が緩まった。

「そうですか、でも、すみません、僕は交友関係があまり広くないので、その、りょうたくんは知りません。」


なんだこいつ!今どきの小学生はこんな話し方をするのか。何故だか、今日ははてなマークとビックリマークを使えそうな状況ばかりだ。


「ですが、だいきなら知っているかもしれません。あそこにいる人です。聞いてきます。」


「いやいいよ、俺が聞くから。ありがとな」

何だかすごい子供だな。そのすぐそこにいるだいきくんとやらも変わったヤツなのか。


「なぁすまない、不審者じゃないから教えて欲しいんだけど、なんならあそこのお姉さんを見てくれ」

どうだ、、


「なんだお前ら付き合ってんのか?やーいカップルカップル」


よかった普通の小学生だ。って良くないわ。やめなさい。


「いや、やめろ。その、友達だから」

つまらなそうに黙った。なんなんだよ。


「あのさ、りょうたくんって知ってる?」


「ん?知ってるぜ」

マジか、やったぞ。思わず感極まる。

「うちの学校に6人くらいいる。」

マジかぁ、多すぎだろりょうたくん。いやまぁ珍しい名前でもないしな。一学年あたり一人なら、いやそれでも多いよな。


どうしたものか。

特徴なんてわからないし、そもそも他になんの情報もない、苗字すら分からないんじゃ、どうしようもないな。


手がかり、手がかり、バースデイカードだけかぁ。せめて他になにか落としといてくれればなぁ、なんで道の真ん中にバースデイカードだけ落としていくんだよ。


ん?んんまてよ、そいや、なんでバースデイカードなんて落ちてるんだ。そんなもの家の中で書いて家の中で渡すんだから道の真ん中に落ちてるなんて不自然だ。


しかし、渡す相手はおばぁちゃん、おばあちゃん家に行く、なんて状況なら有り得る話か。


だがまぁ、十文字の気持ちもわかる、きっと困っているだろう、きっと大事なものだろう。では、そんなに大事なものなら、なぜ落とすのか。手に持っているなら落とせば気づくし、なにか入れ物に入れているなら謝って落ちたなんて考え難い。紙くずじゃないんだ、バースデイカードだぞ。


ないないと言っていた手がかりが見つかった気がする。考えろ、考えるしか道はない。


「雨宮さん!!」

「ワッッッット、驚いた、どうした」


きっと、何回も名前を呼ばれていたことだろう。

「何かわかりましたか?」

ツッコミはない、どうやらこの状況に慣れてきた用だ。


「まだ何も、ただ、何かはわかりそうだ」


「本当ですか」

何度見ても飽きない、キラキラと輝きに満ちた目で見つめられる。


「あぁ、少し考える」

俺はそう言って、視覚聴覚その他全感覚より得られる全ての情報をシャットアウトした。


なぜ落とした、まずそこが腑に落ちない、どういう状況で落とせる。


思い出そう、十文字が最初に見つけた時どのような状況だったのか・・・だめだ、わからない。


そもそもよく見ていない。見つけたのは十文字だ。


で、えっと・・・何も無い。何の変哲もない状況すぎるだろ。別になんの事件も起きてないけど、それにしても今日聞いた悲鳴とか十文字のだけだよ。


せめて事件らしい事件であってくれれば助かるんだけどなぁ。


実際の所、探偵ものでよく主人公が迷子の猫探ししてるけど、多分人探しよか難しいことだろう。苦労がわかる。


モチベーションもあがらない。攻めてあれが血痕であれば幾分かやる気は出てた。今も十分あるんだけど、蟻じゃあなぁ。


て、何訳の分からないことをブツブツブツブツと、頭の中だからって現実逃避しすぎだ。


考えろ、えっと、だからなんで落としたんだ。そこに手がかりが。


ん?まてよ、そいやなんで蟻なんて着いてたんだ?着くか?落ちてた時だよな。でも、道の真ん中だぞ。


「あ、そうか分かった!!」

今まで周りの声は耳にも届かず、死んだように社会から切り離されていた人間が叫ぶにしては、かなりの音量だっただろう。


「分かったんですか!?」


「あ、いや、驚かせてしまって済まないな。本当に済まない、何もわかってない。」


すまん、まぁ何もわかってない訳では無いが。

わかったのは落ちた理由まで

恐らくは、まずおばあちゃんとは一緒には暮らしていない。そして、今日は誕生日だ。誕生日だということは勿論、ケーキがある。


普通ありえないが、仮にケーキの箱にバースデイカードを挟んで持ち歩いていたとしたら。何かの拍子に落としてしまい、同時に少しだけホイップクリームか何かがついてしまうぐらいのことは有り得なくはない。別にケーキじゃなくてもなんでもいい。


今大切なのは、落とした理由。こじつけでもなんでもいい、ついうっかり落としてさえいてくれればそれでいい。


考えすぎと言われるかもしれないが、普通に考えてありえない状況なのだ、緊急事態もありえる。誘拐されている、なんて可能性まで視野に入れても別におかしくはない。だから、うっかりならいい。


だがまぁ、この仮説は結構つじつまが合う。ケーキの箱に挟んでいて、何かの衝撃で落としたのならば、気づかない可能性もあるし、ありだって集ってくるだろう。


そして、こう考えることで、まず、りょうたくんの家もおばぁちゃんの家と比較的近いことが分かる。


他に道はない、正しい道を歩いていてくれよ。


「おーいすまない、だいきくん達、もういっかいいいか」

俺はいきなり口を開いて、隣の十文字には目もくれずに子供達に駆け寄る。


「お、どうしたお兄ちゃん、まだなんか聞きたいのか?」


「さっき言ってたりょうたくんの中で、ここから1番近くに住んでるのって、誰だ?」


さぁこい

「一番近く?そりゃうちのりょうただな、同じクラスの。今日はおばぁちゃんの誕生日だから来てねぇんだよ」


きた、ビンゴ。





「行くぞ、十文字」

「え、待ってください、分かったんですか?」

走って十文字のところまで戻り、即座に荷物を持って移動を始める。


「あぁ、わかった。俺たちの探してるりょうたくんに該当する人物とその子の家までわかった」


落し物ひとつで住所や家族構成、友人関係に年齢、学校、おばぁちゃんの誕生日まで分かってしまうとは、怖いな。世の中怖すぎるだろ、こりゃ誘拐や詐欺を目的とした人間からは好都合だろう。


これからは落し物をしないようにより一層警戒を強めよう。


「では、今りょうたくんの家に向かってるんですね」

「いや、違う。むしろ逆方向だ。今家に行っても誰もいない可能性が高い。わざわざ確認しに行って、その間に当人とすれ違っては意味が無い。」


「バースデイカードが落ちていた位置と、家の位置から推測するに、おばぁちゃん家はこっちの方向。ケーキを手に持って運んでるから考えるに、半径500メートル以内、しかも家とは逆方向の半円の中のどこかだ。」


「なるほど、流石です雨宮さん。ですが、何故急いでいるのですか。それに、1度家を確認してもいいんじゃ」


「そろそろ出番なんだ。見つけてからそれ相応の時間が経った。さっき言った落ちていた位置だが、風で飛ばされていないとも限らない。だが、ありが着いていたから、飛ばされたとしても一、二メートル程度だろう。そのことから考えて、俺達が見つけた時は、落としてからそんなに時間が経っていなかったんだ。」


「でも、それから結構時間が経った。まもなく6時、最初に食べようが最後に食べようが、まもなくケーキの出番が来る。そしたらさすがに、カードに気づいてくれるだろう。」


「なるほど!それで、りょうたくん本人が落としたことに気づいて、探しに来るんですね!」


「あぁ、親に連泊が取れればいちばんよかったが、さっきのだいきくんの親が知っているとも限らない。最近は個人情報保護とかで連絡網っていう禁じ手がなくなったからなぁ。」


それに、見知らぬ高校生(特に俺)が、いきなり息子さんの友達の親御さんの電話番号を教えてくださいなんて、通報されるに間違いない。


「ん、待ってください」

十文字が何かに気づいたように、急に立ち止まる。

「どうした」

「りょうたくんは、公園の近くで落としたと気づくんじゃ、それなら公園で待っていた方がいいんじゃないんですか」


「それは違う。三つの理由がある。1つ目、りょうたくんが賢い少年だかどうかがわからない以上、もしかしたら公園近くに探しに来ないかもしれない。2つ目は、1秒でも早く渡してあげた方がいい。さらに3つ目、持ち主を探して届けてあげたいと言い出したのはお前だろ。」


「はい、そうでした、早く届けてあげましょう。」

まぁ言ってしまえば十文字の言ってることの方が正しい気がする。俺のこれは、お節介ってやつだからな。でも、言い出したならやり遂げるべきだ。


手ぇ出したなら最後までやれって、千と千尋の釜爺(かまじい)も言ってたしな。


そして分かれ道に差しかかる。

「左だ」

「え、いや、ふた手に別れた方がいいんじゃないんですか?」


「いや、右に行く意味は無い。だいきくんに聞いたんだが、りょうたくんの家はマンションらしい。だがカードに描かれていたのは一軒家で尚且つ日本家屋だ。」


止まっている時間がもったいないので、歩きながら説明する。


「そうですね!でも、なぜ右でないと」

十文字は子供のように無邪気に問う。


「知ってるか、最近ここら辺の住民が増えているんだ。というのも、さっきの道から右の方に行けば、真新しい一軒家やマンションが立ち並んでるよ。少なくとも日本家屋なんて見た事ない。」


満足な答えだったようで、今日だけでも何十回と見たであろう(なるほど)の表情をする。

「そうなんですか!流石です雨宮さん」


「だから大したことないって、()()()()だ。」



ほんの5分ほど歩いただけなのだが、この周辺、4、5軒程日本家屋があってどれか分からん。子供が書いた絵だ、判別できるわけもない。


「どうしましょう雨宮さん」

どうしたもこうしたも、流石に自分の家の近くでもないし、どこにどんな人が住んでるかなんてわからない。


どうしたものか、苗字聞けばよかった・・・な何故聞かなかった・・・


「仕方がない、どこかから少年が走って出てくるまで探すしかない。一軒一軒見て回ろう。」


十文字はいい人間であるが、人をいいものだと思ってない俺は、てっきり否定されるものだと思っていた。


いや、否定と言っても十文字だ、きっと、意外そうな顔をする程度だろう。


だが、普通に「はい」って言って一緒に探してる。今更ながら思う。俺を否定せず肯定する人間なんて珍しいな。


「わるいな、俺は真実はいつもひとつなやつでもじっちゃんの名にかけるやつでもない。どこの家までかはわからないから、虱潰しだ」


「いいえ、ここまで来たので十分凄いですよ。そもそも、物語上の名探偵も、この状況なら私たちと同じ行動をとる他ありませんよ。自分に自信を持ってください雨宮さん」


持ってるよ、充分自分のことは理解している。だから、自分に見あった自信を持ってるさ。



さて、

電気がついてない

おじいちゃんおばあちゃんで乗るとは思えない車が止まっている。

そもそも誰も住んでない

などの理由でやっと見つけだしたりょうたくんのおばぁちゃんの家と思わしき家。


「じゃあ、頼んだ十文字」

「また私ですか!?分かりました」


ダメなんだよ、俺がやったら通報されるだろ。


とまぁ、デジャブのような感じで出てくる母親に事情を説明する十文字。直ぐにりょうたくんが出てきてカードを渡すとことは片付いた。


最初こそ驚きと恐怖と疑いを顕にしていたが、りょうたくんが礼を言うと母親も礼を言った。というか言われた。


そりゃ、不審だよな。


「喜んでいましたねりょうたくん」


「あぁ、まさか、丁度なくしたことに気づいたとこに俺達が到着したとわな」


問題解決した俺達は、お礼に渡された缶ジュースを飲みながら帰路についていた。


「えぇ、良かったです。おばぁちゃんの、誕生日に神様からのプレゼントだって、はしゃいでましたね。」


「神様、ねぇ。落としたものを届けたただの常識人だろ。皆それくらいするさ、しなきゃ駄目なんだ」


「人は優しくあるべきですね。と言うか、やっぱり凄いです雨宮さん。結局家を見つけてしまいました。落ちていたバースデイカードからなんでも分かってしまうなんて、流石です!!」


興奮しているようで、早口で止まらず俺を絶賛する。


「だから俺は凄・・・」

すごくない。間違いないく、俺は才能もないし褒められるほどの人間じゃない。でも、もしかしたら、どの人間が尊敬する偉人も大したことがないかもしれない。


そう考えれば、尊敬するなんて別に簡単なことだしな。尊敬されることだって、責任もリスクもないかもな。


珍しくも、そんなふうに意味のわからない言い訳をしてまで、思い込みたくなった。それは彼女の目が、表情が、あの時の自分にそっくりだったからだろうか。


人は羨望の眼差しを向けることがある、しかしそれは、必ずしも自分より目上の相手でも、自分より優れた相手でもない。そう思い込んでいるだけかもしれないからだ。間違えならば正してやるべきだろうが、生憎、俺にはその度胸も資格もない。


「どうかしましたか雨宮さん?」


「いや、なんでもない。まぁ、凄いかどうかはわからないけど、驚きだな。落し物ひとつから住所までわかるんだ、これからは俺も個人情報保護法を遵守するよ。」


「はい、そうですね」



* * * * * * * *


とまぁそんな日から二日たったわけだ。


そして今日もまた放課後の話、なんとこれが驚くニュース。不登校児 柳みとせ が学校に来た。しかも久しぶりとは思えないほどにクラスに溶解した。


さらに忘れかけていたが

「雨宮さんも入るんですよね?」

「はい?」


そいえばなんか化学部はいるとかなんとか言ってたな俺。ついこないだまでよく知らないながらに変人集団呼ばわりしてた部活にだ。


「はぁ」

先が思いやられると、重いため息をつきながら1人化学室へ足を運んでいる。



ついてしまった。まじか。

俺はまずノックをしてから失礼しますを

「来たんですね雨宮さん!待ってましたよ」


ノックだけならして部屋に引きずり込まれた。


反応速度が脊髄反射に等しい。見てみれば活力に満ち溢れた柳だ、お前キャラ変わってないか。


「えっと、その、今日からお世話になる雨宮です、よろしくお願いします。」


立ち上がって一礼して顔を上げてびっくり。

「よろしくお願いします雨宮さん」

「よろしく雨宮」


は?

「おい、なんでお前がいる谷口」

そこに居たのは谷口(たにぐち)彰一郎(しょういちろう)だった。だったじゃない、なんでいる。


「あれ?言ってなかったか、俺化学部なんだよ」

嘘だろ。

声は出ず、立ち尽くすしかなかった。


ほか数人と挨拶を交わし、なんの研究をしているかも知らない化学部に迎え入れられた。


ええい、もうどうにでもなれだ。居心地のいいところに安住するのも悪くは無い。







「雨宮さん、奥の戸棚に置いていた本が無くなってしまったんです。どこへ行ったんでしょう」

「何故俺に聞く」

「みんな知らないと言っているんです。それに化学部以外にはあまり意味が無いものですから、盗む人もいないと思います。第一、今日はこの部屋は使われていません。」


そんなものを俺が考えて、本が見つかると・・・


はぁ、探すしかないか








最後までお読みいただきありがとうございます。毎日思うのは、僕も渡航先生みたいな語彙力文章能力が欲しいという願望です。


意味がわからん、という人へ

雨宮が尊敬した、というのは大学生になった春澤憂人だと思います。

無駄に長い気がしないでもありませんが、いちよ全て必要なものだと思っています。


良ければ次の機会があれば、またお付き合い下さい。

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