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確かな何かと羨望の変奏曲  作者: 櫻井 島弥
2/3

人は何かと言って不確かである

かなり遅れました、そして、次もおくれます。最近何かと忙しいんですよ。2部しかないのを思いつきで増やした回です。まぁ、全部見切り発車の思いつきでしかないのですが・・・

「それにしても、引きこもりってのはずっと何をしているんだろうな」

ふとした疑問が口に出ていた。

「はて?自分の趣味では無いでしょうか」

なるほど、つまり、俺なら本を読んでゲームをしてと言ったところか、さすがに飽きるな。まぁ、引きこもった時のために覚えておこう。


学校から20分、俺は十文字 律(じゅうもんじ りつ)と話している間に、目的の家までたどり着いていた。物部(もののべ)先生から聞いた柳みとせの住所は間違いない。全く、一生徒の個人情報を私利私欲の為に漏洩する教師がいるとはな。そろそろ我が校も滅びるのだろうか。


「着きましたね」

「あぁ、インターホンを押すのはお前がやってくれ。見知らぬ男子高校生だと通報されかねないからな」

はい。十文字は笑顔で了承してから、そのままインターホンを押した。


あぁ、俺には出来ないな。というのも、出てきた柳の母親に対して笑顔で事情を話して家に入れてもらった。俺はいらないよなこれ。


頑張ればできないことは無い。だが、やはり俺の中では相当難易度が高い。


「すみません、顔を出すようにとは言ったんですけど。やはり、会いたくないと」

2階から降りてきた柳母はとても申し訳なさそうに謝った。


「いえいえ、大丈夫です。こちらこそすみません。」

そりゃそうだ。今まで不登校児だったやつが急に出てくるわけもない。このまま無理でしたと言って帰ってもいい。だがあまり得策ではない。なぜなら、これは誰かの任務であるからだ。柳みとせを登校させること、それ自体を学校側は望んでおり、その任務を受けた物部先生に俺は託された。ならば、収穫なしと帰ってしまえば、再出撃となるだろう。面倒だ、それならいっそ、ここで終わりにした方がいい。


「みとせさんは、いつ頃から学校に行ってないんでしょうか」

十文字の質問に、柳母はこう答えた。

「中学校2年の頃からです。ある日突然、学校に行きたくないと言い出して、でも、しっかり勉強だけはしているようで、受験をして鳶平(とびのひら)に入ったんですよ。高校生になれば学校に行くかと、思っていたんですけど、ダメでした。」


「原因は、いじめ?ですか」

「いいえ、そうではないんですが、なんだか友人関係が原因らしくて。でも、本人があまり教えてくれないんです。」


十文字の考えもわかるが、いじめではないか、まぁそうだろう。


もし、いじめが原因で学校に来ないのならば、それはいじめられることを恐れてだ。しかし、高校に入ってから人間関係が変われば大丈夫と考えるのが普通、それでも来ていないのなら、理由はほかにあるだろう。例外として、中学も高校も人間関係が変わらない場合があるが、それは考えにくい。事実的に俺やその周りは、同じ中学からの人間は少ない。


考えるか。俺も学校に行きたくないと思ったことくらいある。ではそれはどんな時にか。

その1、課題終わってない時。これは典型的な例だ、本当にあれは行きたくない、怒られるとわかってて誰が登校するか。


その2、月曜日。これもまた典型的だな。誰もが通る道だ、むしろ一生ここで止まっている気がする。

その3、プールの授業。これはわかる人にしかわからない。というのも、金槌の気持ちは金槌にしかわからないからだ。


では・・・ダメだ、参考にならない。

「十文字、お前は学校に行きたくない思ったことはあるか?」

俺の意見は参考にならなかった。それに、やはりここは女子に聞くべきだ。

「ありません。あ、ですが、強いて言うならば、喧嘩という程ではありませんが、友達と意見が対立する形になった時には少し学校に行くのを憂鬱に感じたかもしれません。」

それを世間一般では学校に行きたくないと言うんだよ、というツッコミは控えた。というのも、恐らく、この十文字はよくできた人間だ。強い人間ならば、逃げるという選択肢を選ぶことは無いのだろう。それに、俺の意見もだが、それは今日行きたくない理由でしかなく、二度と学校に通いたくない理由にはならない。


「すみません。あまり、学校に行きたくないという気持ちがわからないようです。」


「いや、十分参考になった。それに、それはいいことだろう。」

羨ましいな、学校に行きたくないと思わないだと、初対面なら絶対に信じないな。

しかしまぁ、友人関係の線は濃いだろう。てか、それ意外の理由の方が驚きだな。そもそも勉強はしているというのだ、意欲はあるらしい。


「あぁー」

俺は少し考えるだけで疲れたようで、体をのけぞらせてついでに部屋を見渡した。

ここで、写真を見つけた。そこには川辺でバーベキューをする少女2人の姿があった。当然、どちらかは柳みとせだろう。

「すみません、その写真、左がみとせさんですか?」

「え、えぇそうです。中一のときですかね。右の彼女とは家族ぐるみ付き合いなんですよ。私と彼女の母親が仲がいいので、小学校の時からよくバーベキューや海に行っていました。」

当たった。いや、多少自信があった。これには俺の涙ぐましい努力が関係してくる。

俺は人の顔を覚えるのが苦手なのだ。だから、せっかくできた人間関係をわざわざ崩すまいと、高校生活初日はクラスの人間の顔を頭に叩き込んだものだ。

あれ、まてよ。いや、それはそうなのだが。

「そうか、意欲はあるんだ」

「え?」

悪い癖なんだが、思ったことをよく口に出してしまう。だから、俺の発言の半分は無視してくれていい。


ともかく、今わかったことを整理するとこうだ。

柳は中学校2年の頃から学校に通っていない。その理由としてはおそらく友人関係。だが、それは中学校の話である。だから高校になって彼女は学校に来たのだ、入学式の日俺は彼女を見ている。だから面識がないだけで一方的には認知していた。それに、記憶を辿れば、最初の数日は来ていたのだ、だって彼女は女子の図書委員だもん。一回も図書室に来てないので忘れてた。というより、もとより一人だと思っている俺がいた。


つまり、彼女が学校に来ない理由は・・・ブランクか?ダメだ曖昧だな。いや、違う。確かに長い間引きこもって、人とコミュニケーションをとっていないとはいえ、それならそもそも数日間も学校に来ない。それに記憶の限りでは、いや、俺の記憶は当てにならない。

「なぁ、もうひとついいか?十文字は柳と話したことがあるか?」

「えぇ、ありますよ。みとせさんとは数回話しています。」

だが、それは、十文字という人間の完璧な人間性とコミュ力があってこそ、なんて可能性もある。


「ほかの女子とは、会話していたか?男子でもいいが」

「していましたよ。クラスの女子は、初日に全員が打ち解けましたから。」

なに!!はやい、はやすぎる!!やっぱりうちのクラスは少しおかしいのでは、いや、いいことだ、いい事ではあるのだが。


まぁともかくこれで確定だ、柳にはコミュニケーション能力がある、よって学校に来れない理由はブランクではない。


なら、ならば結局なぜなんだろうか。今ので可能性はひとつ潰せたがそれだけだ。いやまて、早まるな、ブランクという線はかなりいい発想だった、そしてその発想を潰したんだ、意味はある。


時間が問題ではなかった、ということは、初期の問題が継続している?しかし、同じ高校である可能性なんて低い、そもそも同じ高校にわざわざ来るわけがない。百歩譲って、そうだったとしても、随分とうちのクラスは楽しそうではないか。つまり、問題の継続でもないのか?


いやでもなぁ、楽しそうと言っても見た目だけかもしれない。中学校の時にさんざん見てきたぞ、女子って言うのは表ではあんだけ仲がいいのに裏では恐ろしいほどに愚痴と言うやつを言い合っているのだ。うぅ、怖い。


まてよ、そうだな、もしかしたら、

「雨宮さん、雨宮さん!!」

「うおっつ、おおっ」

突然のことに慌てふためいてしまった。

「もう、何度も呼んだんですよ、どうしたんですか考え込んで?」

前言撤回、突然じゃない。俺がボケっとしていただけだ。気づけば、俺たちの前に座っていた柳母もキッチンの方に立っていた。どうやら俺は考え込むと周りが一切見えなくなるらしい、迷惑な男だ。彼女に振られそうだな(もとよりそんなものはいない)

「あ、いや、やなぎのことを少し考えていた」

「柳さんのこと、ですか?」

なんか俺が気になってる女子の話してるみたいで腹立つな、いや、俺がその言い回しをしたのか。


「あぁ、不登校の原因を考えていた。」

「すみません、つかぬ事をお伺いしますが、みとせさんは普段何をしていらっしゃるんですか?その、趣味とかを聞きたいんですが」

俺がそう聞くと、柳母は少し戸惑ったように

「みとせは、みとせは漫画やアニメが好きみたいで、勉強しない時はほとんどそういうのを見ているようです。」

いちよ、聞いてみたのだが、急に変なことを聞かれればそれは戸惑うか。

「すみません、気になったもんで」


それにしても、好きじゃない人間からすれば、「そういうの」というひとくくりになってしまうのだろうか。


「すみません、みとせさんの部屋はどちらでしょうか。一方的で言いんで、お話がしたいんです」


「え、2階の突き当たりの部屋ですが、」

「ありがとうございます」


十文字、お前は少し待っててくれ。といってから俺は階段を登った。


一段一段、登りながら考える。

俺はそこまで、いや、全くもって柳とは面識がない。はっきり言ってしまえば今はまだ他人だ。他人の人生に関わるようなことをしていいのだろうか。それに俺の行動する理由にあたっては、善意などではない。あの問題教師が私利私欲のために強制的に渡してきた仕事を、次来るのが面倒だという理由で俺は今説得にかかろうとしている。いいのか・・・


一個人宅の階段が、何十段もあるわけはなく、だが俺の主観的時間の流れはそんな常識を軽く踏み外していた。


あるいは、単に深く考えていて、歩くスピードがカタツムリレベルで遅いのだろうか。


やっと2階にたどり着いたと思えば、奥の部屋までの廊下は、次元がよがんだかのように程遠く感じた。


まずそもそも、俺の考えは正しいのか、わからない。自分もなんとなく気持ちが分かる、なんてのは、気持ち悪い。考えてみろ、道端でいきなり知らない男に、君、僕に似てるねって言われるんだぞ。気持ち悪い、警察に直行したくなるに決まってる。


だが何故だろう、その可能性が俺の中では信憑性を増していくのだ。大した根拠もないくせに、そうであって欲しいという願望を押し付けて、馬鹿みたいに。


部屋の前まで来て再度問うてみた、俺よ、人の人生に関わるかもしれんことだぞ。そんなことをしても、いいのかよ。


俺は多分どうにかなっちまっている。無性にイライラしている。自分の妄想が真実にほど近かったとして、それに対して腹を立てている。ふざけている。


だから、答えは誘導されるように、OKに決まっていた。言い訳をするならひとつ、たとえ今はまだ、面識のないクラスメイトだとしても、()()()、仲良くなればいいだけだ。問題ないだろ。


俺は柳の、部屋の扉をノックしてから言う。

「なぁ、聞こえるか?初めまして、同じクラスの雨宮 勇輔(あまみや ゆうすけ)です。自分で言うのもなんだが、悪い人間ではない、つもりではいる。よ、よろしく頼む、あ、お願いします。」


まず、言葉遣いもそうだが、俺がモタモタしてどうするのか。やはり、コミュニケーション能力に多少、いやかなり問題がある俺だ。


「あのさ、返事はしなくてもいいから、聞いてくれれば嬉しい」


少し気合を入れてから、自分の中ではかなり高い方のテンションまで、無理やりあげる。

「学校は楽しいぞ」


ダメだぁ、全然楽しそうに聞こえない。


俺がたどり着いた作戦。それは、アマテラス作戦。ようするに天岩戸のあれだ。外が楽しそうだと思えば出てくるというとても安易な作戦である。


だが、まぁちゃんと理由があるのだ。

もう一度整理してみる。

柳は一定の人間関係が問題で不登校になった訳では無い。またそれによるブランクで高校に来ない訳でもない。彼女には確かな意欲がある。高校に進学し、クラスに溶け込もうとする努力がある。学校生活を送りたいと思ってる。じゃあ何故来ないのか、俺の知る少ない情報で出る結論なんて一つだ。


柳は人が怖いのだ。中学二年の頃に、いじめじゃなくて、なんてそれしかないだろ。女子は表では仲良くても裏では全くそんなことないからな。

多分、柳は相当いい人間なんだろう。心が幼いなんて言われればそこまでかもしれないが、純粋の一言に尽きる正確なんだろう。

あまり人を見た目で判断してはいけないんだろうが、飾ってあった写真からそれが伝わってきた。


勝手な妄想だが、多分キラキラした青春物とかが大好きなんだろう。幻想に過ぎないし関係ないけど、そんなふうに思ってしまう。


ある程度の年になると、表と裏という女子の社会が形成され始める。そのときに、人を疑う心すら持たないような純粋な人間が、どこまで耐えられるだろうか。


最初の、理由はわからない。もしかしたら喧嘩もしたかもしれない。それこそ、さっきのまとめた考えは間違いだ。人間関係の悩みもあったさ。その程度はあるだろう。でも今学校に来ない理由は間違いなく、ただ人が怖いだけ。これもさっき、ブランクじゃないと言った。でも間違いだ、間違いだらけなのだ。

長い間人と話さず、恐怖だけ増幅した人間がまともにコミュニケーションを取れるわけがない。

それでも、頑張って学校に来て、友達を作ろうとしたんだから、勲章もんだ。


でも、やっぱ怖いもんは怖いさ。

何となくわかる、目の前の人間が、本意でそれを言っているのか。もしかしたら善意でそう嘘をついているのではないか。

それならまだいい、善意すらないのなら、裏では悪意でせらあるのではないか。そんなふうに考えたら、もう誰も信用できない。


まぁ、俺の場合は、ひねくれまくってそれすら跳ね除けたんだろうが。そんなことはどうでもいい、お前みたいなアホの話は知らん、このドアの向こうの子はお前と違って素直でいい子なのだ。


やっぱ腹立つなぁ、なんで、頑張ったのに報われないんだよ。この社会は間違っている。糞が、努力した人間が成功しないのも、褒められないのも、楽しく生きられないのも全部社会が悪い。なによりも自分に腹が立つ。この少女は立派に目標を持っているじゃないか、希望も夢もあるじゃないか。なのにお前はなにか持っているのか?なんの目標も持たずに不毛な時間ばかり過ごしているんじゃないのか。


別に高校生活なんて、大して期待はしていなかった。でも今思ってしまった。彼女が、ここで学校で行けなかったら、高校生活が終わってしまったら、それは悲しいことだ。そう思ったと同時に、高校生活は、今しかないと気づいてしまった。


俺はこの1年間、谷口と一緒に過ごしてきた時間を楽しいと感じていた。無くしたくない大事な時間だと感じる。それ以前の記憶を辿っても、そんなふうに思える時期はない。


だから数年後、今中学生活を思うように、高校生活を振り返ってみた時。俺は果たして、楽しかったと言えるのだろうか。同様に、彼女がこの部屋から出ることがなかったら、後悔するのではないか。いや間違いなく、俺も彼女も後悔するだろう。


人生楽しんだもん勝ちだ、学生でいられるのは今だけだ。そんなふざけたことを言うやつは知っているが、まさか理解してしまう時が来るとはな。


「まぁ、具体的にどこら辺が楽しいかと言うとな。そうだな、んっと、俺らの担任はどうしようもないやつだから敬意を払わなくていいから気が楽だ。」

なんか、結局何をいえばいいのかわからなくなった。だから適当なことしか言えない。そもそも、話が下手なんだ。精一杯俺自身が楽しむしかない。それが、天岩戸の唯一の正攻法だ。


「あと、俺らのクラスは異常な程に人がいいやつばっかだ。人間怖いし女子なんて信用ならないけど、うちのクラスだけは例外であると言いきれる。それほどいい人間だ。変わってるだろ」

まぁ、十文字を褒めてるわけじゃない。


「あと、あとは」

あとは、何が楽しいんだ?

「はぁ、前言撤回、あんま楽しくない。腹立つことに、皆は楽しそうだけど、俺はあんまし楽しめてないみたいだ。」


作戦失敗。暗いやつが岩の前で踊ったところで、アマテラスは出てこず、世界は滅ぶな。でもまぁ

「だからさ、出来れば学校来てくれよ、楽しく話す相手が欲しいんだ。俺さ、お前と同じ図書委員なんだよ、1人で仕事するのきついから、適当に喋る相手が必要なんだよ」


「あとはどうすりゃ楽しい高校生活が遅れるか知らないけど、それは後で考えればいいことだろ、とりあえず学校だ学校。高校に通えるのは今だけなんだから勿体ない。」


普段は憂鬱な登校路も、今は少しだけ、暖かな青春の1ページに思えてしょうがない。青春なんて、多分一生縁のない男の妄想なんだろうが。


「念のために言っておくが俺はこんなキャラじゃないからな。今、結構興奮気味で自分でも何言ってるかわかってない。でも予感がするんだ、もしお前が、この部屋を出て教室に来てくれたら、仲良くなることが出来たなら」


「きっと、何かが変わるんだろうなって」


「雨宮さん」

「うるわっフゥー、え、なにどうした、、あ、十文字か驚かせないでくれ」

いや違う、これは多分またあれだろう。俺が気づいてないだけで何回も呼ばれたことだろう。

「何回も呼んだんですよ。下まで声が聞こえていますよ、気になって見に来たんです。」

だろうな、冷静になると俺、かなりうるさかったことだろう。


「私からもお願いします。どうか、学校に来てくださいみとせさん。そして、良ければうちの部に入って貰えませんか?人数が少なくて困っているんですよ。いきなり勧誘してすみません。」

十文字は笑顔でそう言った。明るいとか、優しいとかそんなんじゃなくて、その笑顔は、まだ俺の知らない美しい何かだった。未体験のものを上手く言葉に出来ないのは少し残念だ。


柳のためにそんなことを言ったんだろうが、この言い方じゃあ、自分のために言ってくれてるとは意識しないで済む。本当に相手のことを考えるなら、こんなふうに話すべきなのだ。俺はまた、十文字という人間に対して尊敬の念を抱くと同時に、こんなふうにはなれないと思った。


「おうまじか、じゃあ俺も入るぞ十文字。柳も入るだろ、一緒に部活をしよう、楽しいぞ。」

まぁやった事もないし全く知らないのだが、もう俺に言えることなんてこの程度だ。あれ?入部宣言した?まぁいいか、流れだ流れ。


ほんの少し、短いとも長いとも言えない沈黙のあと、返事が返ってきた。

「わ、私も、入ります。雨宮さん?りつさんよろしくお願いします。」


ここに来てやっと聞けた声は、清流のように美しく、だが流れる水のごとく掴むことが出来ないような綺麗な声だった。


このタイミングで答えが返ってきた。そのことに関しては俺はあまり驚かなかった。恐らくは、自分に期待して、十文字を信頼して、柳に対して希望のようなものを抱いていたのだ。


なんでかは分からない、でもそうであって欲しかった。今はまだわからない、この感情はなんだろうか。普通の人間は感じたことがあるのだろうか。



「わかりますよ、確かに人が怖いって思う時があるかもしれません。人間とは不確かなものですから」

俺は、いや俺達は、既に半分ほど沈んだ夕日に、それでもまだ照らされながら歩いていた。


柳は学校に来ると約束してくれた。はっきりいって成功だな。あぁよく働いたもんだ。物部に明日一言いってやる。

それで、まぁ帰宅途中に十文字に色々と質問攻めされて仕方なく答えているという訳だ。


人のことを詮索するのは良くない、それに俺の妄想なんざ聞かせる訳にもいかないので、説明して結論だけ聞かせた。


「でもやっぱりすごいです。学校に来れない理由を見つけ出して、さらに解決するなんて」


「別に凄くはない、理由も俺の妄想かもしれない。それに解決はしていない。うちのクラスが特殊だからセーフだっただけで、柳が高校を出てからどうなるかは、これからの問題だ。」


実際、十文字が、いなければ俺は柳の声を聞いていなかった気がする。不確かな事実でしかないのだが、そんな気がしてならない。


不確かだな、今日は不確かなものが多すぎる。適当すぎる、腹立たしい。遺憾の意を表する。そんなもんに突き動かされては、自分が自分でないようだ。


人の繋がりは不確かだ、お互い完全な意思疎通なんてできやしないのに、できてると思い込んで、自分の考えが正しいと思い込んで


相手にそれを押し付けてるだけのようにも思える。実際昔から何回も、友達とかいう輪っかを外から眺めて思っていた。その笑顔にはなんの意味があるのか、お互い同じ意味で受け取っ手などいないのに、そうだねぇって言い合って


でも、確かなものもある。どんなに不確かでも、その時間ってのは確かにあって、自分が感じたことも、相手と話したことも、事実的に存在して無くならない。


もしかしたら、あの時感じたのは、今までの積もり積もった感情ではないのか。


「なぁ十文字、今から3年間、楽しいと思うか」

「えぇ」


俺はそれだけ聞いて、十文字もそれだけ答えた。

短いながらも確かなやり取りに、俺はまた、不確かな何かを感じながら確信した。


歪な心をしてきた俺が、ほかの人間のように色々と感じてきたわけがない。きっとそれは、積もり積もって山のようになっていることだろう。今日の高揚感の、正体は、恐らくそれの切れ端なのだ。確かめるすべはないけどな。


そんなことを思いながらも、空が暗くなる前の少しの時間、俺は黄昏ながらも、1人ではなく2人で歩いているのだった。












次で最後なんでよければ見てください。

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