第6話 歪ノ宮杜ノ進入
宮杜進入編
思い返せば、埜都の外に出たことはあまりなかった。
ジルクと外に出ることはあっても、遠出しても隣の杜梁くらいだった。
だからか、すごくワクワクしてる自分がいた。
休日とはいえ無断で屋敷を抜け出してきたこともあるが、それ以上に知らない地へ行くことが俺にとっては冒険のようだった。
週末
今日は講技は休みだが、同時に野外訓練の実地日でもある。
他の応用生と共に出発したリアを見送り、俺も実戦用の剣を持って出発する。
宮杜までの道のりは地図で確認したし、あとは引率の教育師にバレないようについていけばいい。
ただでさえ北部は森林や小山が多くて自然が豊かだ、整備されてない道を進み続けるのは簡単ではない。
だが、子供の頃からジルクと一緒に駆け回ってきた俺にとってはさほど問題ではなかった。
辿り着いたのは宮杜の入り口のようだった。
林道に門のように大きな置石が二つ対称に置かれていて、苔がはびこっている。
先頭を歩いていた教育師が立ち止まった。
深緑のベリーショートヘア、野外担当のリッグ=ヨキ教育師だ。
「よーし集まりな! それじゃ今から野外訓練を始まるけど、初参加の屋敷生もいるから確認しておこうか。活動内容はシンプルに宮杜の魔物を狩ることだ。採点基準は倒した数と魔物の種類だけど、くれぐれ逸って格上の魔物に戦いを挑むなよ! 襲われてヤバくなったら渡してある破裂玉を思い切り投げろ。間違っても最優先は君達の命だ。何か質問はあるかい?」
「師公、今回の訓練はこの周辺だけっすか?」
「例の村の方に行きたいって意味なら答えはノーだ。今回は初参加の子も何人かいるし宮倣に近づくほど魔物は強力になる。今回は杜梁寄りの地域で我慢してくれ」
「教育師、宮杜に主がいるって本当ですか?」
「君は……初参加だな。これは毎回言ってるんだが、絶対に宮杜の主を探そうなんて考えるな? いるかどうかも定かじゃないし、それは今回の趣旨とは違う。何より、主なんて言われてる魔物が君達に倒せるはずがないだろう」
「やってみねーと分かんねーじゃねーですか」
「黙れタンド。じゃあ他に質問がなければ訓練に移る。昼の休憩は各自で取ってくれ。始め!!」
応用生がそれぞれバラバラに走っていく。
リッグはバインダーを取り出して石に寄りかかりながらそこで休憩するようだ。
俺も、なるべく音立てないようにそこから離れた。
脇道を通って宮杜の内部に入る。
・・・・・・
「よぉ、リア」
「イーゼ。……大丈夫?」
なんとか打ち合わせ通りに人気のないところでリアと合流できた。
しかし、俺の方は伸び放題の自然の中を進んでいたため、擦り傷や切り傷だらけだった。
早速リアから絆創膏をもらうはめになった。
「ここまで遠かったけど、疲れてない? 道に迷わなかった? 少し休もうか?」
「別に疲れてねぇしお前は俺の母さんか……。ちゃんとお前たちの後ろにくっついてきたからな、ちょっとだけ疲れたけど、それくらい」
「良かった。じゃあさっそく動ける?」
「おぅ、体も温まってるしな。けど、この辺じゃ皆に見つかっちまうよなぁ」
「うん、やっぱり奥に行くしかないね」
宮杜の奥
それを聞いただけで胸のあたりが逆立つような感じがする。
「けど、宮杜の奥って強い魔物も多いし行っちゃダメだってリッグさんが言ってたろ?」
「あ、さっきの聞いてたんだ。んーでも、そんなに心配はないんじゃないかな?」
「なんでそう言えるんだよ」
「だって、イーゼは強いでしょ?」
その目に疑う気持ちは一切なかった。
変わらない、俺への信頼が宿っていた。
いや、嬉しいけど恥ずかしい。
「そう、だな。何とかなるだろ。隣にリアもいてくれるし」
「もぅ……恥ずかしいこと言わないで」
「お前も言ってたからな?」
そんなことないよ、って言いながら二人で笑いあう。
うん、リアが隣にいてくれて良かった。
すっかり緊張がほぐれた。
「じゃあ、行くか」
宮杜の奥地へ。
魔物狩りの始まりだ。