9, 怪しい転校生
――まぶたに光を感じ、小太郎は目を開けた。
窓から朝日が差し込んでいる。
そこは見慣れた病室で、小太郎はベッドに横になっていた。
「……やっぱり、夢?」
体を起こし、何気なく顔をめぐらせた小太郎は横のテーブルに目を止めた。
赤い曼珠沙華の花が一輪、置かれている。
「……マミ」
バタバタと廊下を走る音がして、病室のドアが乱暴に開けられた。
「小太郎!」
飛び込んできたのは、父親だった。
「あれ、父さん?」
退院の迎えにしてはずいぶん早すぎる。
きょとんとした小太郎に、父親は飛びついて抱きしめてきた。
「え、ええ!? 何……」
「母さんが、目を覚ました」
小太郎をぐいぐい抱きしめながら、父親は涙声で言った。
小太郎は目を見開き、父親の肩越しに曼珠沙華の花を見やった。
「……マミ」
大きな金色に輝く瞳が赤い花に重なった。
小太郎は学校の机にやる気なく体を預けていた。
一週間ぶりの登校は酷くかったるい。
クラスメートは腕の怪我を心配したり、母親の意識が戻ったことを喜んでくれたりしたが、透のことについて気を遣っているのは明白だった。
その気遣いが嬉しくも鬱陶しく、朝のHRが始まる前から既に帰りたくなっている。
だらしなく机に突っ伏していると、ドアが開いて担任が入ってきた。
「あ~、おはよう。突然だが、今日からこのクラスに転入することになった新しい友達がいるぞ」
クラスがざわつく。
のろのろと顔を上げた小太郎は、そのままの姿勢で固まった。
「刑部マミです。よろしくお願いします」
担任の横でぴょこんと頭を下げたのは、マミだった。
「席は……柏木の隣が空いてるな。こら、柏木! 久しぶりの学校だからって、だらけるんじゃない!」
担任の小言も右から左へすり抜ける。
小太郎はぽかんとして、隣に腰掛けたマミを見つめた。
「お……お前、なに……」
「しっ」
マミはすました顔でウインクした。
「授業が始まるぞ、私語はよせ。……ところで、教科書を見せてくれないか」
呆気に取られていた小太郎は、不意に机に顔を伏せた。
笑いがこみ上げる。
押さえきれず、小太郎は肩を震わせてくすくすと笑った。
「これからよろしく、小太郎」
囁いたマミの瞳がちかり、と金色に輝いた。
これで完結となります。
このお話は、以前とある同人誌に寄稿したものです。
テーマは「和風」と「秋」でした。
楽しんでいただけたら幸いです。




