敵と謳う狂信者
ケイトから告げられた親善試合におけるルールは、さして模擬戦闘のそれと代わりなかった。
・制限時間は15分
・戦闘不能状態に陥った段階で外へ強制転移
・殺人はNG
・武器、魔法道具の使用は例外なく可能、ただし犯罪級のものは不可、必ず使用する武器類は両国の教師による査定が必要となる
・試合は3年から順に行うものとする
模擬戦闘試合において、武器や魔法道具の使用が認められていないわけではない。
事前に申請を出し、両パーティ同意の上にはなるが可能となる。
もちろん実戦では使えるものは全部使ったものがちではあるが、そもそも実践経験のほとんど無いに等しい生徒たちにそれらを破棄した戦場でいきなり戦わせる、というのはいささか危険すぎたからだ。
説明にもあったように犯罪級の武器使用を防ぐため、公平を記すために両国の教師による査定の元使用を許可される。
エイトによる結界、アシルチによる鑑定、武器や魔法道具を関与させたとしても不正の一切を見逃さないための万全も期されていた。
3年、フロス・サンフラワー、マリーアン・クラウド、リュカリー・ストロゥベのパーティ“フロス”の対戦相手はコース・メチャネット、イラ・サドゥン、オルグ・クァンのパーティ“アイシクル”
2年、テユ・ケーリング、マクラ・カーズ、サワー・エイジのパーティ“特攻隊”の対戦相手はピゾン・ブルズ、エノア・ヅヅルのパーティ“君影”
1年、アイリス・オークランド、フラン・ユーステス、ミシェルケイネスのパーティ“イリス”の対戦相手はカルカス・ミャービリオン、ソドム・シークライト、ワグ・マグレイニアのパーティ“ハイリヒ”
以上の説明、注意喚起をケイトから受けたアイリスたちは呼び出された割にあっさりと解散を告げられた。
集められた割に、伝令形式でも構わなかっただろう内容の短さに少しだけ困惑を覚える。
しかし、だからといって部屋の前でいつまでも突っ立っているわけにもいかない。
各自の部屋に戻ろうとしたとき、アイリスはがっしりとフロスに肩を掴まれた。
「ぅわっ?」
フランとミシェルが声を上げるよりも前に鼻がひっつくほど顔を近づけたフロスは、距離感を感じさせない大きな声でアイリスの名前を叫んだ。
「俺はお前と遊びたい!」
「……はい??」
恐らくは本人の中では辻褄の合っている台詞の突拍子さにぱちくりと瞬きを返す。
困惑をしたが、すぐに理解した。
フロスの顔は少し前、つい最近に見たばかり、ユリウスやトーリスのそれとそっくりだったからだ。
「本当なら2学期、入ってからの模擬戦闘で遊ぼうと思っていたのに3回目は“イリス”は1、2回ほどしか参加せず、4回目に至ってはこの親善試合で不参加。だから俺はお前と遊びたいのだ!」
むぅと頬を膨らませ駄々をこねる子供のようにがくがくとアイリスを揺さぶるフロスに、困ったのはアイリス本人だ。
3年は卒業試験の関係で5回目がない、模擬戦闘は学年で唯一4回、“フロス”は親善試合のため4回目も免除のために要するに“つぎで遊ぼう”がないのだ。
「ツヴァインとは最後、遊んだのだ。残念ながら決着はつかなかったがな!ちょうど勝率は半々となってしまった…“サンフロッテ”も最後くらいはと俺と遊んでくれた!いやぁレッチェとウェネが俺と遊んでくれるなんてほんっとうに嬉しかった!だから心残りはお前たちだけだ!」
きらきらとした瞳を向けるフロスをよそに、こそりとテユがフランとミシェルに耳打ちする。
「ちなみに俺が投げられたのも、『お前はツヴァインに負けてる奴だな!あっでも”イリス“とも戦ってたな!俺とも遊んでくれ!』って言われたからな」
「正しく理解したわ、要するに遊びたくてたまらないってわけね」
「ほんっと、まさか投げるなんて噂通りキテレツっていうか自由人っていうか…」
「『そうか!じゃあ遊ぼう!』…っていった1秒後にテユが吹き飛んでた」
「うわコッワ」
「さぁ!遊ぼう!」
ひそこそと話される内容からしてつまり、これに頷けばイコール遊ぶ、戦う、今この瞬間で、ということになる。
というか、フランたちはもう少し助けようとして欲しいな、と心の内でぼやく。
フロスを止めたのはアイリスでも、フランたちでもなく左右からひょこりと現れた2人の男女だった。
顔こそあまり似ているとは言えない、吊り目で赤色の髪の少女はアイリスから見て左から、垂れ目で青色の髪の少年はアイリスから見て右から、フロスの腕をぎゅうと掴んだ。
フロスの身長が高く、2人の身長が低いためぷらんと足が浮く。
「うぃ、近いですよぅ」
「あいあい、離れるべき」
ぷらん、ぷらん、と体を前後に揺らしながらフロスを宥める言葉を発する。
「ちなみにぼくマリーアン・クラウド」
「ボクはリュカリー・ストルゥべ」
吊り目で赤い髪の少女がマリーアン、垂れ目で青い髪の方がリュカリー。
2人は顔は似ていないのにツヴァイン双子に似ているようでまた違う意味での鏡合わせみたいに思えた。
「ごめんねぇおじょうちゃん、でも遊びたがってたのはほんとなんだよぅ」
「あいあい、模擬戦闘で遊べなかったのはしかたないこと」
「うぃ、でもおひまな時でいいからまた遊んでくれると嬉しいよぅ」
「だからフロスあやまるべき」
「本人に無理くりこんなとこで募るなんてさいてーだよぅ」
「そだそだー」
マリーアンとリュカリーの言いたい放題ないい様に心外だと口をへの字にしたフロスだったがすぐに表情を変え「それもそうだな」と大きく頷いた。
「すまんな!」
「たいちょーがごめんねぇ」
「お暇な時にまた遊ぼう」
「ん?リア、リュカ、なぜ俺の腕を引っ張って連れてく?」
ひらひらと腕を振ってマリーアンは左腕、リュカリーは右腕を掴んで引き摺る様にどんどんとアイリスから離れて廊下を歩いていく。
「帰るよぅ」
「いつまで経っても終わらない」
「ん!?まて、まだ俺は話したいことが……!」
慣れた様子で、引き摺られながらわぁわぁと叫ぶフロスを2人は軽く無視して、そうして3人の姿はあっという間に見えなくなった。
残されたアイリスたちはといえばあっという間に去っていった嵐みたいなそれらにぽつねんとするばかり。
「…すげぇ、噂通りの奇天烈っぷりだな。嵐みたいに去っていったぜ」
「そうね、でも押しかけ弟子してるテユも人のこと言えないわよ」
「うん、そうだね」
「え?」
フロスの遊んでくれ攻撃とテユの弟子にしてくれ攻撃は方向性が違うがはたから見れば同じ様なものだった。
つっこみはいれないものの、うん、うん、と”イリス“の3人が大きく頷いた。
「私たちもそろそろ行きましょ、まさか前日に魔法道具の使用できるって言われるなんて思ってもみなかったわ。すぐに用意しないと」
「うん、明日の朝イチで査定するらしいからね」
「じゃあ師匠とフランとミシェルまた明日なー!」
「どさくさに紛れて師匠って呼ぶのヤメテクダサーイ」
ちなみに、アイリスはこういう時軽く助けてくれないフランとミシェルを許していなかったので左右の手でむにゅと2人のそれぞれのほっぺたをつねることでゆるすことにした。
金色の髪の男はゆるりと腕をくゆらせた。
「あぁ、あぁ、ようやくこの日がやってきた」
蠱惑的な笑みで空を仰ぐ、愛おしい神聖な彼女の瞳と同じ色が広がっていた。
瞳の裏に思い描くのはいっぺんの汚れもない、この世全ての神聖さ、清らかさを閉じ込めたような“白色”。
世界のためにその身を捧げた、この世で最も崇められるべき女神の色を抱いた少女。
「…ようやく、ようやくだ。明日、彼女は我が国が手に入れる」
花瓶には鈴に似た形をした白い花が風に揺れていた。
そうして、スエルテ王国とリンシパル帝国の親善試合日がやってきた。




