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グラスフィール学園入学

グラスフィール学園入学式当日。

試験に合格した新入生達がきちりと並ぶ広い講堂、その壇上に堂々と立つのは癖のある金髪と頬に残された大きな傷跡が特徴的な男。

一眼見ただけでわかるほど、鍛え抜かれた体にアイリスは呑気にもライオンのようだと思った。


「まずは諸君、入学おめでとう!」


ぐわりと開かれた口からはマイクなしにも講堂に響き渡る大きな声が発された。

空気がビリリと震え揺れる。


「私はこの学園の学園長、ジェット・ルーカスだ。特に語ることはないし長々と話すのもめんどう…んんっ、苦手なので端的に。知っていると思うがこの学園は完全実力主義。金も、権力も、この学園において他者に振り翳せば退学処分もあり得るということを忘れるな。」


ジェットの厳しい言葉に、入学生達の纏う雰囲気が引き締まる。


「魔族、魔獣、戦場においてそんなものが通じるようなら家で寝てろ。そしてもう一つ……勇敢と無謀を履き違えるなということだ。自身の力を信じることと、過信することは全く違う。余裕と油断は違う、驕りは必ず死を招く。けして忘れるな、何かを成し得るには切り開く為の力が必須ということを!日々精進せよ!俺からは以上だ!」


グラスフィール学園に入学し、卒業する人々は冒険者や騎士、宮廷の魔導士などを目指す者が殆どを占める。


だからこそ、決して忘れてはならない。


戦場では命のやり取りが当たり前に行われる、魔獣たちにとって金はただの金属であり、権力などないに等しく、全てが平等に食い潰される。

余裕を持つことと、驕り高ぶることは全く違うということ。

その驕りは必ず自分だけでなく周りすら巻き込み最悪を引き起こしかねない。


完全にその個人の持つ力によって勝敗がつけられる学園だからこその姿勢は、まるで軍隊のようだった。


ジェットが壇上を降り、生徒達がまばらにそれぞれのクラスごとにまとまり始めるとアイリスの服が引っ張られる。


「おい、とっとと行くぞ。俺たちはA組だ」

「流石にそれ位は覚えてるよ」

「え?」

「…………え?」


聞き返されて、ショックを受ける。

フランの中ではアイリスは抜けてるやつになっていたらしく、心の底からの驚きを詰めた一言に何よりも心が抉られた感覚を覚えた。


その後案内された教室にA組に所属する総勢14名が集まった。

席は自由となっており、アイリスとフランは当たり前のように隣同士に腰を下ろした。

少ししてから、1人の教師が教室に入ってきた。


燻んだ赤い髪に、顎に蓄えられた髭が特徴的な、柔らかな笑みを浮かべた老爺だった。

しかしその見た目とは裏腹にその足取りは静かで軽やかだった。

教師に、教室にいた生徒達の動揺が広がる。


「あれってケイト・マクガーデン?!」

「本物だ、学園に教師してるってのは聞いたたけど…!」

「もしかして私たち、あの人に教えてもらえるの……!?」


有名人らしい彼に、しかしその盛り上がりについていけないアイリスはそっと小さな声でフランの名を呼んだ。

最早驚くこともせずやれやれと言わんばかりに、フランは説明を返す。


「……はいはい。あの人はケイト・マクガーデン。スエルテ王国騎士団の元団長だ。年齢を理由にって騎士団をやめたらしいけど、すごい人だぜ。何せワイバーンの群れをたった1人で倒し切った国の英雄だ。辞めた今でも騎士団に指南したりしてるらしいし…」


絵本の内容を語るように話すフランに、へぇと呑気な声を返す。

確かに瞳に映るケイトは、所謂“達人”だとか、そう言われる人たちと同じ雰囲気を纏っていた。


あいも変わらず世間知らずな彼女に、フランは呆れた視線を投げかける。


「……ほんっと何にもしらねぇよな、お前」

「田舎出身なもので…」


短い付き合いではあるものの、順応しつつあるフランは「慣れた方が楽」と達観し始めていた。

人間の順応力って素晴らしいものである。


(ぱっとみはおっとりとしたお爺ちゃんって感じなのに、人って見た目によらないよなぁ)


恐らくそれは、アイリスに言われたくない台詞No.1であった。



それはさておき、ケイトはほやほやと笑いながら生徒をぐるりと見渡して自身の自己紹介を始めた。



「儂はケイト・マクガーデン、このクラスの担任を勤めさせてもらうことになっているよ。まぁ、教師の前は騎士団に入っていたりもしたけれど、気軽にケイト先生と呼んでほしいな。じゃあまずは、みんなに自己紹介をしてもらおうかな」


間延びした言い方で窓際から順番にと、生徒を指名する。

突然振られたそれに、名前や得意魔法、好きなこと、プロフィールシートに書くような内容を口にする。

当然順番が来たアイリスの指名に、生徒達は少しざわめく。


入学試験の事は彼らにも周知の事実だったからだ。

実際に見てはいなかった生徒は試験の噂と彼女の外見がマッチせず、パニックを起こしつつあったがそんなこと肝心の本人は知らない。

「はーい」と律儀に手をあげて立ち上がったアイリスに、隣のフランは少し頭が痛くなったものだ。


「アイリス・オークランドです。好きな事は料理とか、いろいろです。あと、得意な魔法は創造魔法と天体魔法です!よろしくお願いしまーす!」


楽しげに語尾を伸ばして満足げな表情で再び座ったアイリスに、教室中の思いが一致した。


冗談でもなんでもなく、アイリスが当たり前のものとして言い放った魔法はドマイナーで、かつ、言うなれば失われた魔法というものであった。

悲しきかな、その中で1番復活が早かったのはフランだった、フランだけは理解していたからだ。


アイリスに関しては考えるな、感じろ、そう思っておかないとやっていけないということをこの数日で彼は身にしみていたのだ。


未知の生物を見るかのような視線を感じて、アイリスはと言えばおや?とそこでようやく気づく。


(もしかして創造魔法とか、天体魔法ってマイナー?あっ、天体魔法、名目的には私のオリジナルになるんだったっけ。マーリン達も普通に使ってたし、忘れてた…いやでも千年以上は経ってるんだし………あちゃー、なんか目立とうとして滑ったみたいになってる。なんかこう、炎系とか水系とか、王道のとかにしたほうがよかったかなぁ)


道には沿っているのにどうしようもなくズレているようだった。


確かに天体魔法はおろか創造魔法もドマイナー、主流ではない。

人気がないとか、そういう意味でのマイナーではなく、そもそもの扱いずらさが理由である。


天体魔法はアヤメの、そして創造魔法はマーリンの作った魔法(オリジナル)である。

アイリスの言った通り確かに千年以上も経っており、そして彼らは世界中を旅していたために、オリジナルとは言え残っていても不思議ではない。

だが残念ながら残っていない訳ではないが主流として出回っていない、何故か?

詳しく説明は省くが、この2つの魔法をもし今の世界の基準ににのっとってランクをつけるとするならばS級(伝説)の魔法という扱いになる、という事だ。


アイリスによって色んな意味で固まった自己紹介だが、皆忘れ流すという技術を習得した結果穏便に終わることができた。

ケイトによる学園の内部の場所やルールなどの説明を終え、授業そのものの開始は明日からという案内を受けた。

学園のルールの説明についてはジェットの言っていたことを更に詳しくした、といったような内容で端的に言えば


・成績が悪ければクラスは降格、良ければ昇格

・権力、金等の振り翳しによる横行は禁止

・すぐにではないな総合評価の内容次第では退学処分が勧告されることもある


と言った内容だった。



入学説明等の後は、入寮を希望した生徒たちのみ残され、寮の場所等の案内へと移った。

A組はアイリスとフランを含め、6人の希望者がいた。

説明によると、寮は基本的に2人部屋だが入試試験にて上位の成績を冠したA組に所属する生徒のみ1人部屋を与えられることになっていた。

これはクラスの降格処分を受けない限りである。

また食事に関しては、食堂が用意されているためそこを利用することも可能である。

勿論、部屋には簡単なキッチンがあるため自分で作っても良い。


フランと別れ、自分に与えられた部屋の備え付けのベットに寝転んだアイリスは白い天井を見上げた。

待ちに待った学園生活の幕開けの、第1日目である。


「よーしこれからがんばるぞー」


くふくふと楽しそうに笑いをこぼしてそんな風に口にしたアイリスは、嬉しそうな様子のまま瞳を閉じた。





ちょっと休憩するだけの予定がうっかり眠ってしまい、食堂で夕食を一緒に食べようと約束していたのに一向にやってこないアイリスにフランが怒りの言葉を並べたのは、今回は割愛することとする。


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