まじかるくっきんぐ
秋の精霊 フィスノポロに捧げる秋の四季祭を錦秋祭と呼ぶ。
だが、錦秋祭はその特性から別名収穫祭とも呼ばれていた。
夏の青嵐祭が屋台が出て珍しいものが並んで、王道の夏祭りといった様であったように、秋の錦秋祭は世界各地の食材、そして料理人が集まり料理を振る舞うまさしく収穫祭だった。
更に夜にはもう1つの側面もあるのだが、それは追々。
料理人が集まる、というのは錦秋祭においてもっとも投票数を稼いだ料理人もしくは店舗には“秋の料理人”の名を賜るのだ。
秋の料理人のあのスエルテで称号を与えられたとして、全国から人が集まるほど名が売れる。
そして、スエルテを拠点とする冒険者たちの稼ぎ時期でもある。
なんといっても食材調達の依頼が爆誕に増える。
収穫祭に向けての料理の研究のため、そして肝心の収穫祭当日のために。
_____まぁ、前置きはさておき、錦秋祭はまだ先のはなし、今はここまで。
グラスフィール学園、一年生はとある試験を間近に控えていた。
と、いうのも、話は収穫祭のそれから始まった。
「二学期に入り、3回目の模擬戦闘訓練を前にしているみなさん。それが終われば何があるか、ご存知ですね?えぇそう、スエルテの誇る四季祭のひとつ、錦秋祭です。錦秋祭は別名収穫祭と呼ばれ、世界各地の食材が集まります。さて!そこで皆さんに言いたいことがあります」
植物学と生物学の教師であるアシルチ・コヘンはぱんと手を合わせて大きな音を鳴らした。
にこやかに、笑顔で、そうしてこういった。
「脳筋だけでこの先やってけると思うなよ」
……まぁ、当然といえば当然の言葉であった。
「脳筋なのはいい、けれど大事な大事なことがありますとも。それは、知識です。正直なところ知っていればとても役にはたちますが知らなくても割となんとかなることが多かったりします。ですが、それはあくまで深いところの話、例え浅く広くでも、知らなければならないことはあります」
それは、と話を区切ったアシルチは何かを堪えるように机を思い切り叩いた。
「それは!食べれるか!食べれないか!です!!!」
……たしかに、大事なことだ。
「あらゆる生物、植物の中には毒が含まれるもの、反して薬にもなるもの、火を通したりすれば毒が消えるものなど多種多様存在します。あなた方が卒業してからどういった道を歩むかは知りません。ですが、冒険者になればクエストのたび、野宿をしてその場で食料を調達することは少なくないでしょう。騎士になれば遠征に出ることもあるでしょう、王宮魔導師ならば騎士と同じく遠征に出ることもあればそもそもあれは割と研究職の色が強いのでそれらの知識は不可欠でしょう」
あらゆる可能性を示唆していくアシルチはその度に食材が食べれるか否かを教材片手に調べるのか!いや無理だ!と反語を使って叫んだ。
「確かに毒消しのポーションや回復魔法もありますが、それで対応できなければ?缶詰を毎回持っていく?なくなったらどうするんですか。中途半端な知識は時に毒となることもありますが無知は薬にはなりません、知らないよりも多少知っていた方がいいに決まってるんですよ」
ですから!興奮したアシルチは自身の教材を机に叩きつけた。
余談だが何度もそんな目にあってきたのだろう、教材は使い込まれているのとは別に何だかよれてくたくただった。
「あなた方にどんな食材が食べれるのか否かを叩き込む責任が私はあります。なので!一週間後テストをします、入学してから今日まで習ったものが範囲です。当日、多種多様の食材を用意します。それを使い、料理をしてもらいます。食べれるか食べれないか、調理方法に誤りがないかを最重要判断基準として、美味しい美味しくない何かの付与効果があるなどは、100点満点の加点方式としますので、余裕があればどうぞ。それからァ!料理はできる人がするべきだとか思ってる奴!別にその考え方自体を否定はしませんが、それを主張したけりゃ食べられるものとそうでないものの区別つけれるようになってから言え!以上!!!」
なんだか最後の方に私情が籠っていたような気がするが賢い彼らは何も言わなかった。
そして、普段は物柔らかな優しい先生がこと食べ物に関しては恐ろしく怖くなるという事実を知った。
彼らは人には誰しも裏と表があるということ、触れたらならないから逆鱗というのだということを学んだ。
話は進んでinフランの部屋、3人、訂正フランとミシェルの2人はとても、それはとてもとても真剣な顔でアイリスと向き合った。
何かを耐えるように、しばらく黙って、ようやく何かを決意したように唾を飲み込んだ。
「「アイリス/お嬢さん……料理、できる?」」
「真剣な顔して何それ!?馬鹿に!!馬鹿にされてる!!!」
女の子のプライドが大きく傷つけられた。
「もう見た目から御伽噺の悪い魔女の薬みたいなのに食べたなんかすごい付加価値ついたりしてたりとか」
「暗黒物質みたいなのに激ウマ、意識を失うレベルでだったりだとか」
「そんなものを作り出したりは」
「しないの…?」
「2人とも!息ぴったりに!私を罵倒するのはやめてくれないかな!!?」
普通!普通だから!と叫ぶアイリスだが、残念彼女の普通は割とぶっ飛んでいるし肝心の彼女は無自覚だが2人は身にしみて知っている。
「これでも私は、村に住んでた頃よく晩御飯作ったりとかしてたから!ふつーに料理できるから!」
「本当か……?」
「いやー、村の人たちが俺たちみたいに慣れてしまった可能性もなきにしもあらず」
「寧ろそれしかねぇ可能性が」
「そろそろ怒るよ!?」
村人たちがアイリスのせいで割と常識がぶっとんじゃったりしていることはないことはないが今回はそれはおいておいて。
どうしたって信じられないらしい、疑いの目で見る2人にそれなら作ってやるよ!やってやるよぅ!と啖呵を切ったのは致し方ない流れであった、お約束とも言う。
ばこんと創造魔法で創り出されたのは簡易キッチンで、亜空間収納に顔を突っ込んだアイリスは何かないかなと中を探る。
「ご飯が毎日ちゃんと供給されるから、あんまりいれてないんだよね」
ノーフェイスの頃は気の向くまま赴くまま、住むのはマーリンの創った“模型の家”だったけれど彼らの感覚的にあれはテントのようなそれで。
先々で現地調達することもあったが、なんか唐突に食べたくなったこれを作りたいからあの材料が欲しい、なんてことも多かったわけで、各々で亜空間収納の中に食材をストックするのは彼らの中で常識であった。
(多分これは、長期任務に行ったりする騎士や冒険者もする手だろう。嬉しいのは空間魔法に長けた人物ならば中に入れたものの腐食も遅くなる)
しかし、今の彼女は学生。
住んでいた村から王立都市に来るときは村のみんなから貰った食材やらを溜め込んでいたのだが、一切補充をしていなかった現状中にはあまりものはない。
「……あっ、あった!これおいしーんだよねー」
ぱっと声を明るくして取り出した、もの。
大きさこそ手のひらにのるくらいの普通のサイズの赤のマダラ模様の入った黒い卵、それだけなら、ちょっと見た目が黒いだけなのだが……
【ギヤァァァァァぁぁぁぁぁぁあAhッ】
……さながらそれはハンプティダンプティの怨霊。
つり上がった目と引っ掻いたみたいな口の模様(?)を持つ黒い卵は亜空間収納から取り出された瞬間甲高い叫び声をあげた。
五月蝿いと顔をしかめたアイリスが創り出したタオルの上に卵を放り投げると悲鳴は止まった。
「それは……?」
「シャウトーチバード、通称“叫び卵の鳥”の卵。卵に親鳥以外が接触するとこうやって卵が叫んで親鳥を呼ぶからそう呼ばれてるんだけど、この卵の味が濃厚で、すっごいおいしいんだよぅ」
「…………そっかー」
シャウトーチバード、“叫び卵の鳥”はB+級指定の魔物で超高層の崖に巣を作るからその卵も超高級品、高い店なら金貨1枚はくだらない……
顔をひきつらせる2人もなんのその、更に取り出されたのは骨つき状態で冷凍保存されていた肉、こちらもアイリスの腕に抱えるのもいっぱいいっぱいな大きさだ。
それは?と聞けば「鳥の肉」、うん知ってたテンペスタティグレ倒すんだもんねそりゃシャウトーチバードだって倒すよね!
「お湯よーい、鍋よーい、温泉卵ぽーい」
【ギャァァァァァァァァahッ!】
アイリスの手から離れて魔法で出されたお湯をはった鍋に放り投げられた卵は悲鳴を止めたものの、その見た目のせいで呪いの鍋みたくなっている。
「その間にシャマイの実を炊いて……次はメイン!」
卵を茹る間に手慣れた様子で肉を一口大に切り、塩胡椒、フロマの実の粉をまぶしてフライパンでじゅうじゅうと美味しそうな音を立てながら焼いていく。
「酒を入れて蒸し焼き……油をとって、醤油に砂糖にみりんをいれて……最後にとっときの味付け」
こんがりときつね色に焼けた鶏肉にタレを絡めて、部屋には食欲をそそる匂いが充満する。
“とっときの味付け”、取り出されたのは虹色水晶を溶かしたようなシロップでとろりとかけられていく。
じゅわ〜と香ばしい音、ほかほかと湯気を立ててる白いご飯の上に冷めないうちにと丼に照り焼きを盛り付けていく、勿論タレをかけるのも忘れずに。
最後に温泉卵を乗っけて刻み海苔をかけたら
「できあがりー、超天才の鮫さん直伝照り焼き卵丼〜」
「……ふっつーに、うまそう」
「うん、普通に美味しそう」
ぱちりと手を叩いていただきます、若干恐る恐る口に運ぶ。
「……!うまい!」
「うん、おいしいね!?」
少し濃いめに作られたタレが温泉卵でまろやかになって、噛めば噛むほど旨味がじゅわりと広がる鶏肉はこんがりと焼かれて中はふわふわ外はかりかり。
どれもが濃厚な旨味を凝縮しているのに、不思議なのは一口目の感動がずっと続いて開かないこと。
「ほらぁ!でしょう?」
「悪かったよ……」
「たださぁ、最後に入れた“とっとき”てなに?」
「ドラゴンの涙、入れると味に変化が出て飽きないんだよー」
ぶふーーーー!!フランとミシェルの口から米粒が飛んだ。
げほげほとむせる2人は前言撤回した。
龍の涙なんてものどこで手に入れたんだ!
そもそもドラゴン自体が最低ランクでもA認定だっていうのに、その涙?
涙なんてものは、ドラゴンを仕留められるか認められるか出来ないと手に入れれない素材だ。
実際ドラゴンの涙やらは超高値で取引されるレアもレアな食材だっていうのに。
_____嗚呼やっぱり!アイリスが“普通”なんて創り上げるわけなかったのだ!




