閑話:メリーシープグッドナイト
異世界にやってきて早数週間。
毎日が予想もできないことばかりで、慣れない魔法の訓練などのお陰で始めの頃は疲れのあまり死んだように眠るばかりだったが、少し体が慣れてしまうと今度は眠れなくなった。
マーリンによって創られた部屋のベッドでゴロゴロと寝返りをうつばかり、一向に眠れなくて深いため息を吐く。
枕元に置かれたモルモンラパンのぬいぐるみをよしよしと撫でればそれに反応してぴょんぴょんと飛び跳ねる姿に少し和む。
「ねれないなぁ……」
少し外の風に当たろうとベットから降りて外に出る。
空を見上げれば、高層ビルも街灯の光も沢山ないこの世界の夜空は星空が沢山散りばめられていた。
きらきらと瞬く星空、妖しいほどに存在感を放つ黄金の月、そして空に浮かぶ巨大なもふもふ……
「ん!?」
真っ白なもふもふ、紛うことなきもふもふ。
「はら、へった……め、しぃ……ぃぃぃぃ!!」
叫びながら自身の部屋の窓から飛び出してきた赤い髪、ホルンと気づいたのはすぐで、そして彼の目が閉じていることにも同時に気づいた。
「うざ、ぁい………“状態異常 束縛”」
もふもふが、どこか聞いたことのある寝ぼけた声で喋った。
放たれた魔法が弾けて途端ホルンの体が空中で何かに縛られたかのように固まった
「……“状態異常 麻痺”」
「ーーー!ぅ、がぁ?」
ホルンの体の内側から弾けるように電流が流れた。
そのショックに意識を取り戻したホルンが空中でぱちくりと目を瞬かせた。
「寝ぼけない……くらいぃ……落ちろぉ……“ 睡眠”」
ところで思い出したほしい、ホルンがいるのは空中で、彼がそこにいるのは自身の脚力と突進力だけで飛び上がったため。
重力魔法も風魔法も何も使っていない、そのためそんな状態で空中で何もせず止まると
「ほ、るんさぁーん!?」
当然、落ちる。
受け身を取ることもせずただただ落ちていくホルンに慌てたのはそれを眺めていたアヤメの方だ。
(柔らかくてな大きな、あの空のみたいなもふもふ!!)
慌てて必死になりながらも冷静に魔力を練って作り出したのは、あの空に浮かぶもふもふみたいな衝撃全部吸収しそうなクッション。
もっふぁ……、効果音をつけるならこんな感じ。
落ちたホルンは幸いにもそのクッションに沈み込んで怪我ひとつなく、恐る恐る声をかける。
「ぐぅー……かぁー………」
「…寝てる……」
1度目を覚ましたと思ったが、もうすでに再び夢の世界に旅立っていた。
「……そいつぅ……あの高さから落ちても……いつも呑気に寝てるしぃ……?怪我の一つも……しないからぁ……別に良かった、のにぃ〜……」
「……ラジさん」
降りてきたもふもふ、に埋もれたラジは呑気に間延びした声でそういった。
「…………そいつ、なんだけどぉ〜……たまぁ、に寝ぼけておれたちをめしって、かんちがい……するんだよねぇ〜……まほうをくうから、おれをよく……ひょーてきにするんだ、よねぇ」
「なる、ほど……?ところで……ラジさんはなんでそんなもふもふ……」
「おれ夜行性なんだよねぇ〜……」
じぃっともふもふを見つめるアヤメの視線に気付いたらしい、もふもふから飛び降りて指を鳴らすとそれは人の体サイズの抱き枕に姿を変えた。
「!これ、ラジさんの魔法ですか!?」
「これはぁ……おれの、幻術。重力の術式、付与してるやつをぉ……げんじゅつで、おっきくもふもふにみせてたのぉ……おれのはぁ、五感にひびくからぁ、みえてるものがほんものみたいになるわけぇ……?」
「???、?……実体のある、幻覚?ってこと、ですか?」
「……んー、まぁ……にてひとなるぅ……?」
夜行性、と自称する割には相変わらず間延びした眠たそうな声で喋りながらクッションにもたれかかる。
「おれのげんじゅつで、だした剣。創造魔法で、だした剣。見た目はおんなじぃ……創造魔法の剣できったりさしたりしたらぁ〜、血もでるしぃしぬしぃ……けどおれの幻術の剣できったらさしたりしてもぉ、きったりさしたりしたのとおんなじにすげぇいたいけどぉ、血も出ないしぃしななぁい」
「……あくまで、幻。触れたりするけど本物じゃない……ってことですか?」
「そぉいうこと〜」
きみはのみこみはやいねぇ、と頭を撫でられる。
実体のある幻、触れるし感覚に干渉してくるため本物に限りなく近いがあくまで幻。
感覚に干渉はするから刺したり切ったり殴ったり、諸々の衝撃を加えれば相応する痛みなどは感じるが、それによって与えられる傷などは一切ない。
創造魔法は創り出したものは本物、だから刺したり切ったり殴ったり、そうすれば痛みはあるし傷もできる。
だから、どれほど近くても、本物ではない幻。
……まぁそんな、幻を作り出せるのなんて、割と常識外のそれなのだが閑話休題。
「おれはねぇ……幻術と、それからぁ……ホルンねむらせたみたいにぃ、状態異常の魔法が得意なんだよねぇ〜」
「?状態異常……(ゲームのデバフみたいなのかな?)」
「おれはねぇ……わりと、ここすきなんだよねぇ……」
「……え……?」
ぐらり、とアヤメの視界が揺らめく。
あいもかわらずクッションに体を預けながら、ラジは上目遣いでこちらをじっと見つめる。
「おれはねぇ……何かを壊すのはぁ……不和 だと おもうんだ よ ねぇ」
「……ぅ、ぁ……」
アヤメの体が地面に倒れて、抗いようのない眠気に目が勝手に閉じていく。
「“魔力吸収”、魔法転換、“睡眠”……“悪夢”。…さぁみせて、君の悪夢……おやすみなさぁい」
ぐるぐる、ぐるぐる、そして悪夢の中に、おちていく。




