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フラン・ユーステスという男

フラン・ユーステスという男は口はちょっぴり悪いが、なんだかんだでお人好しである。

そして口では何かと文句を言いながらも、放っておけない面倒見のいい世話焼き体質でもある。


だから雪のように白い髪、海のように青い瞳、珍しい容姿をした田舎から出てきたばかりであろう見たまま世間知らずのような少女をなんだかんだで放っておけなかった。

なんの偶然か同じ学園の入学希望者で、学園への道を案内したことがフランの運の尽き。


外見だけ言えば前述通り非常に珍しい色を持ち、そして庇護欲がそそられる様な可愛らしさと儚さを持ち合わせ、かと思えば性格も決して悪いわけではなく人の輪にするりと入り込むような天真爛漫さが長所と言えるだろう。

ただしそれはあくまで表面、更に蓋を開けて本性が漏れ出れば、箱入りなんて言葉すら生ぬるい。

非日常(ナンセンス)日常(当たり前)に、やらかすことは滅茶苦茶ばかり、その癖に自由気儘。


(たった1日半しか一緒にいないのに何で俺はここまでこいつに振り回されてるんだ……?)


もっともな疑問である。



しかし悲しいかな、人間というのは単純な生き物だ。

どんなにめちゃくちゃではちゃめちゃな人物でも名前を呼ばれて当たり前に懐かれてしまえば情も湧いてしまう。

アイリスは確かに思いもよらないような事はしでかすものの、その性質が憎めないものも理由の一つである。



だからこそ、フランには知られたくない隠し事があった。



それはフランの出自と、常に深く被っているフードが深く関係する。

フランはスエルテ王国の隣国に貴族の息子として生まれた。

けれど生まれ持ってしまったその瞬間から、彼は親からの愛情を放棄された。

その理由、生まれ持ってしまった決して変えることのできないそれ。


ただ髪が黒い、それだけ、たかがそれだけだった。

けれど両親はフランを"魔族の子"と呼んだ。

スエルテ王国の隣国であるその国では、金や白銀が神聖視され、黒は闇の色、魔族の色と呼ばれ疎まれるものだった。

親すら疎んだその色を、周囲が疎み、叩かない訳がなかった。

それが当然とされた国だったからこそ、彼への中傷は止むことはなかった。


たかが、髪が黒いというだけ。

それだけでフランは人として生きることすら許されなかった。


人として生きることを奪われたフランに愛情を与え、人として育てたのは祖父母だけだった。

隣国に暮らしながらも彼らはその慣習に染まっていなかった。

しかし狭い世界の中、疎まれることが当然の国にフランを置き続ければ何れは彼は1人になって、壊れてしまう。

それを危惧した祖父母は、自国ではなくスエルテ王国にあるグラスフィール学園への入学を勧めたのだ。


フランは国を捨てた。

祖父母の姓を名乗り、黒色でも人権を与えられるスエルテ王国へ、そして実力のみを必要とするグラスフィール学園への入学を決めた。



けれど、フランにとって自分の持つその色が“魔族の色”であることは変わらない。

生まれて、親から、周囲から、祖父母以外の全てから彼は蔑まれ、人として生きることすら許されず、疎まれた。

スエルテ王国は多種多様な人が、種族が行き交う国。


それでも、だからこそ、そこですら疎まれればフランはどこに行けばいい?


ずっと、フードを深く被り続けた。

親すら疎んだその“黒”を、何よりもフラン自身が疎み続けていた。


(いやだ…いやだ、いや、だ、いやだ!)



初めて、だった。

同い年の子と共に隣に並んで歩くことも、ふざけた様に会話することも、どれもこれも、初めてだったのだ。

例え黒を隠していたからとは言え、嬉しかった、楽しかった。


けれど、あの美しい、聖なる白を持つ彼女から国で向けられていたあの目を向けられば、どうしよう。



もしかしたら、アイリスは非常に疎いから、受け入れてくれるかもしれない。

けれどそれはたられば、フランの希望観測だ。




きっと、そんなの耐えられない。




フードを力強く握りしめ、唇を噛み締めた。


「フラン、どうしたの?」

「…何でもねぇよ」


何も知らないアイリス(白色)の心配を、フラン(黒色)は知らん顔して隠した。




「それより合格祝いもかねてご飯食べて行こうか!」

「へいへい」


心底嬉しそうにはしゃぐアイリスの合格は、疑うまでもなく確実だったろうと思ったものの、あまりの喜び様にその言葉を飲み込んだ。

そういうのは、野暮というものである。


跳ねる様に人の合間を縫っていくアイリスを追おうと小走りになった時、フランのフードがすれ違った人の装飾品に引っかかった。


「おい、ちょっと待てって…!」



そしてフランの黒は顕となった。



彼の中では時間が止まった様だった。

数秒、もしかしたら数分、はっと意識を取り戻したときには振り返ったアイリスの海のように青い瞳にフランの黒が写っていた。


突然立ち尽くしたフランと、彼と一緒にいるアイリスのその組み合わせに視線が突き刺さる。

そこに含まれているのは奇異や驚き、物珍しさ、それから、



『なんて悍ましい色!お前はきっと魔族の子に違いありません!』



僅かな、嫌悪感。





「フラン?」





あ、だめだ________


弾かれた様にその場から走り去ったフランの背中はあっという間に人混みにまぎれて見えなくなる。

周囲のざわめきも、慌ててフランの名を呼び止めるアイリスの声も全て置き去りにして、フランはその場から逃げたのだ。





あんな目を向けられるのは、本当はもう一度だって嫌だった。

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