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笑うだけの力もない

複数連射銃弾(ガトリング)、ほらほら、よぉくねらってばんばんばーんっ!」

「“対象足 威力倍増 スピードアップ 身体強化”×2(ツヴァイ)、おらぁ!!!」

「新技の実験にぴったりで嬉しいよぉ、魔法陣展開“反射(リフレクション)”」


無邪気な声に合わせてアイリスの複数連射銃弾(ガトリング)”がまるで流れ星のように降り注ぐ、指で銃の形を作って可愛らしいポーズとは裏腹に割とシャレにならない勢いで。

それを避けても、足に身体強化をかけたついでに威力とスピードも上げるバフをかけたフランが構成員たちに強力な足技を食らわせ、ミシェルが廃屋のいろんな場所に展開させた触れたものを反射させる魔法陣を利用して飛び回る。


20は優に超えていた構成員たちはひとり、また一人と地面に倒れていく。


(っち、ほんとにこいつら学生かよ!)


「雷よ、ナイフの形を取れ、“トニトルスクルーテル”」


内心で文句を零したユールは雷でできたナイフを握りしめて、1番猛威を振るうアイリスに向けて勢いよく投げる。

それらはアイリスにあたる事なく壁に突き刺さて霧散する。


「!お嬢さんっ」


外したかと舌打ち、だが臆する事なく更にナイフを投げていく。

ナイフは全てアイリスに刺さる事なく壁に突き刺さり、入れ替わるようにアイリスと交差してユールの前に現れたミシェルによって一瞬視界が乱れる。


「邪魔だ餓鬼!雷よナイフの形を取れ、餓鬼共に撃ち放て、雷を放ち邪魔なやつらをどかせろ!!“トニトゥルースクルテル”!」


詠唱が変わり、今まではユールが投げるだけだった何本もの雷のナイフが魔法によって勢いよく放たれる。


「あぶねっ!」


近くにいて反応が遅れたミシェルが慌てて体を仰け反らせて避けたことによって雷のナイフは全て壁に突き刺さる、だがそれだけでは終わらない。

霧散する事なく突き刺さったと同時に雷のナイフからバチバチン!とショートしたような電気の音。


「うわっ、フラン壁から離れて!!!」

「はぁっ?!」


転がるようにナイフが刺さった壁から離れると同時にバチン!!!という破裂音。

雷のナイフから刺さっている壁を這うように電撃が走って周囲を焦がす。

壁に掛けられていた鏡は割れ落ち壁の近くに置かれていた本などは黒焦げ。


「あっぶなぁ……」

「アイリス、きたぞ!」

「!りょーぉかいっ!」


その一瞬の隙をついて数人の構成員が集まる。


「炎よその姿を矢に変えて穿て、俺たちの行く手を阻む餓鬼共をぶっつぶせぇ!!!“ファイアーフォローアロー”!」


何人もの魔力を組み込んだ事によって大きさも数も威力も倍増された炎の矢が視界を埋め尽くすほど打ち放たれる。


「はっ、ミシェルぅ!!」

「はいはいわかってるってぇ!魔法陣展開“反射(リフレクション)”!!」

「“対象魔法陣 強度強化 耐性強化 魔法強化”!」


展開されたミシェルの反射の魔法陣にフランの強化魔法をかけて魔法耐性と強度をあげる。

一斉に魔法陣に突き刺さった炎の矢の勢いに、少し顔をしかめて体が後ろにひるみかける。



「っ、は、お嬢さんのに比べりゃぜんっぜんマシ!」



不敵な笑みを浮かべて殴りつけるように腕を振りかぶる、魔法陣は淡く光り突き刺さっていた炎の矢は本来の術者に牙を剥く。

反射し自らの元に襲いかかる炎の矢に響く構成員たちの悲鳴。


今や地面に倒れる数の方が立ってこちらへ向かう数より少なくなっていた。



「あは、上がお留守で大丈夫っ?ただいま落石注意報発令中だよ?“隕石(メテオライト)”、それどっかーん!」



にやぁと意地の悪い笑顔を浮かべたアイリスが発動した魔法、相手側の上空にゆっくりと現れたのは炎を纏った巨大な隕石(メテオライト)


「おいマジかよ……!」


ズドガァン!!という轟音と共にそれは彼らに降り落ちた。


地面にクレーターが空いて、廃屋はもはや半壊、当初ユールたちが立っていた方の壁と屋根は吹き飛んでいた。

ある意味、ここが王立都市とその外との境界線ギリギリの人気のない場所で良かった。


構成員たちはひとりとして立ってはおらず、意識がかろうじて残っていても立ち上がることができなかった。

唯一ギリギリ膝をつきながらも体を起こしているのはユールのみ。


(……バケモンかよこいつら……!あの白い髪の餓鬼が1番だが、他の二人も滅茶苦茶しやがる……!俺たちはこれでもC級犯罪集団だぞ……!??)


「さて、お仲間さんはおねんねしちゃったみたいだけどどうする?おじさん」

「そういやあんた退屈させんなっていったよな、お仲間さんたちは満足して寝てるみたいだしご希望に添えたんじゃねぇの?」

「確かにそうだよねぇ、じゃあ俺たちの問いにちょぉーっと“答えてほしい”なぁ」


弱った体に、相手に対する少なからずの敗北感。

それらはつまり、相手よりも自分が下だと思ってしまった、相手を優位的な立場においてしまったということ。


精神干渉は、確かに術者の技量に依存する魔法であるし幼い頃から精神干渉を受けていれば耐性もできる。

けれど、どれだけ耐性を持っていても、相手を少しでも上だと思ってしまうことこそが敗北の条件でもある。

弱肉強食、意志の強いものが制するもの。

だからこそ、精神干渉使いは少しでも相手の心を弱らせて隙を作って干渉がかかりやすくする。


ユールが今まで精神干渉で犯罪を続けてこれたのも、それを忠実に悪辣に行い続けていたから。


ユールは今、彼らを化け物と称した、仲間を目の前で倒された、勝てるビジョンが思い浮かばなかった。

精神干渉使いと戦う時は、どんなことがあっても心を意志を一定に、強気に持ち続けなければならない。


「うーん、まず“誰目当てでこんなことしたの”かなぁ」

「ぁ、がっ……そ、の……白い……う、ぐっ」


染み渡る毒は心とは反対に口を開かせる。

しまった、と思った。

たった一瞬、作ってしまった隙に入り込んだ毒を必死に抑えつける。


「あぁ、やっぱりこいつ目当てか」

「じゃあさ、誰からの命令でやったのか、“教えてほしいなぁ”」

「え…ん…だれ、が…………命令、おし、え」


ギチリと爪を手に食い込ませて必死に意識を保つ。

一瞬でも油断すれば喰われる。


床に散らばる破片を握りしめたユールは手から血を滴らせながら、不敵な笑みを浮かべた。



「だ、ぁれが、教えるかよバーカ!!!」



そうだ、そうだ、確かに俺たちは負けた、それは認めよう

だが誰からの命令かなんて、誰が言ってたまるか

俺たちが黙ってさえいれば絶対わからない!


確かに圧倒的不利な立場にある。

けれど、それを打開する隠し札はあるし、それにつながる証拠はついさっき(・・・・・)始末した!



ユールが口を開かないとわかったのか、大きくため息を吐いたアイリスは何かを思い出したようにそうだ、といった。


「そういえばさ、いくら周りに人気がないからって騎士団も何もこないなんて不思議だよね」

「そうだよなぁ、それに今日は祭りだから警備だって回ってるだろうに」

「おかしいねぇ」


態とらしく会話を続けるアイリスたちに、違和感。



そう、確かにアイリスの指摘は正しい。

こんなドンパチやらかして巨大な轟音も立っているのに誰もそれを察していないのは、おかしい。


その理由はユールだってわかっている。

廃屋がある地下、といっても深くはなく深度一メートルくらいの場所にもう一つ設置型魔法陣が組み込まれているのだ。


その魔法陣の効力こそが、理由。

[魔法陣範囲内にある物体の不可視、消音、並び外からの侵入者防止のための精神干渉]

要するに魔法陣の中にあるものは外からは一切見えないし何があっても聞こえない、更には外から偶然人が近づいて魔法陣内に入って来たりしないように簡単な精神干渉で無意識に避けるようにする、というもの。


だからこそ、この周辺は人気が少ないし外からも気づかれない。



……だがなんだ?と怪訝な顔をする。

今思い出すことか?いや、なぜそんな話を今更始める?


「あ、でも、そりゃそうか。だってほら、えびふらいさんだっけ?そこに先に押し入らなきゃなんないもんね」


えびふらい?なんのことだと更に顔をしかめる。

吹き出したフランとミシェルに頭を小突かれたアイリスは、違ってたっけと首をかしげる。




「違うだろばか、なにがえびふらいだ」

「そうそう、まぁ確かに似てるけどね、スエルテ王国の伯爵さん。あ、もうすぐ元がつくかな」




その名にぞっと背筋が凍えた。


まて、まて、まて!


理解が追いつかない、何故自分たちの雇い主の役職を知っている?

自分たちは一度だってそれを言ったことはないのに。

唯一の証拠も始末した、はずなのに。





「あぁ、そいつの名はナトカ・エンビズレント。つい先ほどその伯爵の位を剥奪された」





ガシャンと鎧の金属音、周りから向けられる剣。

彼らはスエルテ王国第三騎士団。

外から見えないはずの此方に向けられる剣と視線。

馬鹿でもわかる、魔法陣はとうに機能していない。


「まずは、心の底から感謝を、こちらの魔法道具のお陰です」


そう言って騎士が取り出しのは壁掛けタイプの1メートル程の鏡。

ついさっきまで壁にかかっていた、ユールの“トリトゥルースクルテル”で壊されたはずの鏡。


「……馬鹿な、あれは、壊したはず……!!」


壊したはずの証拠品、咄嗟に視線を向けると床に散らばっていた鏡の破片はとけるようにその本来の姿を現して、木の破片に姿を変えた。


理解できたようで、だけれど更に分からなくなって、顔が引きつって乾いた笑みすらでなかった。


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