武器選びと誘拐もどき
場所は王国都市の商店街の中でも大きな武器屋。
肝心の張本人は数多ある武器を前に腕を組み首を傾げた。
「武器選びっていっても、俺剣術とかしたことないからなぁ」
「ミシェルってサポート型っていうか……対人の、ネチネチ削るタイプの戦い方するもんねぇ」
「つーかお前、言い方悪いけどよ、あの入試内容でよくA組になれたよな」
「あぁ、あれね、俺そもそも一回落ちてるよ」
「「……んぇ???」」
衝撃の事実に2人の顔が惚ける。
落ちた?落ちたとは何に?……入試に?
ミシェルの得意魔法は幻術と精神干渉、暗殺や情報収集、サポートに長ける物ではあるが指定の的を破壊するという入試内容とは相性が悪すぎる。
……まさか試験管に精神干渉かけたんじゃと疑いの目を向けると、それを察したのか違うからね!?と慌てて身振り手振りで手を振った。
「まぁ試験自体はさ、半分もいかなくて。お嬢さん特性の地獄の特訓のお陰で今なら物理の方なら様になったかもしんないけど。ただサポート特化の奴のために、筆記の方の成績が一体越してればお情けで一番得意な魔法を使ってみせて、それの成果次第じゃ相応のクラスにいれてくれんだってさ」
「あぁなるほど、確かにミシェルの精神干渉の腕は確かだもんね!」
「……そう正直に褒められるとなんか照れるね」
にこにこ笑って手放しで褒められて、珍しく頬を染め照れ臭そうに頬を緩める。
「ま、まぁもちろん、誰も彼もってわけじゃないみたいだけどね」
「おぅそうだな?お前の腕が確かだからA組に入ったんだもんなぁ」
いつもの仕返しだと言わんばかりにニヤニヤ笑いながら揶揄ってくるフランに「うるさーいよ」と横腹を小突く。
「……まぁ、てなわけで、剣術とかは知らないし、武器も基本的に使い回しっていうか……取り敢えずしとめりゃいいみたいな感じだった、し……」
「んー、そだなぁ。ミシェルは忍者みたいなとこあるし、短剣二本使いとかかっこよ……んんっ、いいんじゃない?」
「お嬢さんの好みで言ったね?」
「うん」
誤魔化す事なくあっさりと頷いたアイリスは武器屋の中をぐるりと見渡す。
その中で見づらい場所に置かれていた短刀を二本手に取る。
「短剣二本使い、かっこいいと思うんだよね!ミシェルはどっちかっていうと相手を翻弄して背後からざくっとやるタイプだから剣とか大振りのはあんまり向いてないと思う」
「うん、間違えてないけどね……俺そんなに暗殺者みたい?」
「暗殺者?んー、まぁ素質はあるんじゃないかなぁ」
けろりと言い放ったアイリスの言葉にどこかショックを受けたような表情を浮かべたミシェルには気付かず更に言葉を続ける。
「ただまぁ『お前はもう終わっている』っていってワイヤーの罠とかで相手の総力をざくっと削ってくれるみたいな感じかなぁ。暗躍がうまいタイプ、暗殺者よりトラッパーの方が向いてそう」
「あぁ確かに、ミシェルは情報処理が早いから予測とかうまいよな」
「……あは、何それ。うーん、お嬢さんがそういうならそうしようかな。うん、学園から支給されたお金で足りるし」
「んぇっ、待て待って!流石に適当にとったのは申し訳ないからっ、ちゃんと手にとって選んで!」
アイリスが目について手にとった二本の短剣をそのまま購入しようとしたため流石にそれは焦って止める。
しかしミシェルはうーんとねぇ、頬をかく。
くるり、くるり、と器用に短剣を回して「驚いたことにねぇ」と話を切り出す。
「なんかびっくりするくらい手に馴染むんだよねぇ」
「ありゃ?なんでだろ」
「マジかよ、アイリスお前凄いな」
「……そりゃあ、東の国の短刀だ」
今まで黙りこくっていた店主の男が低い声を出す。
「……東の国で作られた刀はただの刀でも、持ち手を選ぶ。相性がよけりゃ、いい、だが悪けりゃとことん使えねぇ。その短刀の作り手は、持ち手を選びまくる、刀を作る。何年も埃をかぶってたそれが、手に馴染んだってこたぁ、お前はそれと相性がいいんだろう」
ぼそり、ぼそりと紡がれる言葉に顔を見合わせる。
「……なぜ、その刀を、選んだ?」
「えっ、いやただ、なんかいいなぁって目が惹かれたのをとっただけなんですが……」
「……ほぉ、いい目をしとるな」
「うーん、じゃあお嬢さんの直感を信じてこれでー」
「いいのっ!?もっとちゃんとみなくて!?」
「いいよ、別に俺、武器にこだわりないし。扱いやすくて相手に刺さりゃいいよ、これは今までで一番手に馴染むし」
かつての友人、気に入ったものをとことん収集する癖のあったリードの武器へのこだわりが強かった事もありそれを心配したのだが、生憎とミシェルは特にないらしい。
寧ろ上機嫌で金を払う様子にまぁいいかと安心する。
「そういえばフランの持ってるのって、入試の時に使ってた剣だよね?」
「んぁ?あぁ、おじいちゃんが昔に使ってた奴らしくて、入学祝いなってくれたんだよ」
「……そっかぁ」
(おじいちゃんって……さっきの妖精結晶のお店の時といい、フランってどっちかっていうと口悪い方なのになんだかんだいってそういうとこあるよね!かわいい!)
ギャップ萌えだわー、と内心で思っていると邪な考えが届いたらしい。
じとりとした目で見てくるフランに、負けじとにこりと笑顔を見せる。
「……おい何考えてんだ」
「なーんでもなーいよ?」
「おい!そのにやけ面はなんだ!?」
「ん?お嬢さんとフラン何してるのー?」
「あははー、なんでもなーいよ?」
「ゼッテー嘘だ!」
「フラン……お嬢さんいじめるなんてサイテーだよーぶはっ、」
「ミシェル!お前も乗っかんなぁぁぁぁぁぁ!」
武器屋でフランの怒りの声が響く中、所変わってとある貴族の別宅では不気味な笑い声が響いていた。
はしゃぐ彼らに、ひっそりと背後から魔の手が伸びた。
時間は少し巻き戻って、数十分前。
男の名はナトカ・エンビズレント、伯爵の位を与えられているスエルテ王国の貴族である。
ナトカはにやけそうな顔を必死に抑え、平常心を抑えようと息を吐く。
「サーマイズは自滅、レアクもガーバルも同様……ふはは、あの小僧、見事に邪魔な者らを排除していっているなぁ……今度は俺の番、というわけかな」
誤った形の情報に踊らされたフース・サーマイズ伯爵は治癒魔法に長けた灰色の髪の少女を、禁止されている奴隷商から買い上げた。
そして希少なスノーティアドロップの果実によって無理やり髪色を染め上げて_____そうして出来上がったのはペンキをかけたような不自然な濁った土と混じった雪のような色。
そしてそれを_____件の白の聖女と偽り王へと謁見させた。
「遠目から見ただけで本来の色はこの色である」
けれど、謁見させた少女はとうに王宮の隠密部隊と入れ替わっていた。
人身売買、王家への虚偽、それ以前の横領や隠蔽なども追及されたフース・サーマイズは爵位を剥奪され罪人に身を落とした。
サーマイズ伯爵に続きガーバル子爵、レアク男爵も白の聖女に関わる件で今までの罪すら言及され皆自滅していった。
「……あの王子の手腕には物の見事に、この短期間で白の聖女を利用し邪魔な者らを排除していった」
ナトカのエンビズレント家を含め、計4家は何十代に渡りスエルテに根を張っていた古き家系である。
それ故に_____特に、このエンビズレント家は王家に口出しをすることができるほどには年代を経た得た権力を持っていた。
王家にとっては邪魔で、その地位が邪魔で、埃を突つけず、今まで排斥できなかったうざったらしい古狸ども。
けれど、現王であるニエス・クロスロードが戴冠してからは4家も無傷で済んでいた訳ではなかった。
賢王と呼ばれるほどに策略家であるニエスによって、まるで真綿で首を絞めるように徐々に弱められていった4家は、文字通り崖っぷち。
ギリギリのところで耐え切って、自身らの権力と地位を復活させるチャンスを待ち望んでいた。
そうして、まるで自分たちが手にしたように掴ませた白の聖女という情報に踊らされ、三家は潰された。
ああ全くもって見事だと言うしかないだろう。
此方が探って漸く掴めたようなとっときの隠された情報は、本当に嘘を交えた相手側が用意した罠だった。
「治癒情報に長けた、遠目に見えた白髪の少女によって助けられた」
その罠の中で刃を突きつけられていることにも気付かず惨めに足掻いて、自分から首を切り落とされた。
「全ては王子様の手のひらの上ってかな…?……ふはは、嗚呼、だが王子様、此度は俺は運が良かった!!俺の方が、一枚、上だ!」
ナトカは我慢ならないと言わんばかりに笑い声をあげる。
ナトカも気づけばエイトの用意した罠の中、情報に嘘が交えられていて突きつけられた刃に気づいても逃れるすべはなかった。
“白の聖女”という餌に飛びつかずとも、今を生き延びれるだけ、他の三家同様、落ちるのは奈落に変わりはない。
_____そう、あの少女のことを思い出すまでは。
数年前、エイト王子が行方不明になると言う事件があった。
その真相は王宮に設置されている転移魔法陣の暴発で、王子も一週間ほどで発見され大事には至らなかったのだが。
けれど、ナトカはその時見てしまったのだ。
エイトが誤転移されたというスエルテの南東部の端にある小さな村、そこにいた純粋な雪のように白い髪の少女を。
今はグラスフィール学園に入学し通っているという、あの少女を!
白の聖女がイコールとしてあの少女であるかはわからない。
だが、純粋たる白い髪を持つ少女というだけで構わない。
嘘を交えられた情報の本当が「白い髪の少女に手助けをされた」であるというだけで、構わない。
崖っぷちの状況を回避できる、とっておきの切り札。
エイト王子が自身の持つ力を使ってでも手出しできないように撹乱させた“白の聖女”という存在は、おおよそ王子にとってどんな形かは知らないが守りたい存在であるのだろう。
“白の聖女”がエンビズレントに与している、この事実があれば、王宮はエンビズレントに手を出せなくなる。
机の上に置かれた水晶にはフードを被ったあの少女の姿が映されていた。
「出番だ、“マニピュレ”、白い髪の少女をこの俺の元に、連れてこい!!!」
それは、中央都市にC級指定され手配されている“洗脳”を生業にする犯罪者集団。
先代から関係を持つ彼らとの関わりは、秘密裏に、王宮も察してはいても関係を表す証拠が一切見つからず、エンビズレントに手を出せなかった一因でもある。
“白の聖女”をこの手中に、その全てを操り人形に、私の駒に!!
けれど、ナトカは知らない。
“白の聖女”が、どれほど規格外な存在感かを
「えっなに、変質者?」
同時刻、ボグシャァ!と1人の男がその外見とは裏腹な力で殴られぶっ飛んだ。




