祭りにトラブルはつきもの
「“あ”、【あ】……んんっ、あー……ふぅ、やっと声が元に戻ったぜ……」
「フランの顔でめちゃめちゃ甲高い、ぶふっ、こ、声出てたの、ぶふぁっ!面白すぎる……!」
「テメェ面白がってんじゃねーよ!」
「あはははははは!!」
「アイリスゥ!元はお前が『あ、これ試食できるんだってはいフランあーん』とか言って無理やり飲ませたんだろうが!」
「反省はしてるけど後悔はしてない!」
「フラン、お嬢さんに“あーん”してもらって顔赤くしてたくせにーぃー」
「いい顔すんな!うるせぇミシェル!」
パコーン!いい顔でサムズアップしたアイリスと完全におちょくりにきてるミシェルの頭を思い切り叩いた。
「いーやー痛いーフランがいじめるー」
「きゃーぁーこわいーフランらんぼーう」
「ミシェルゥ!お前が特に腹立つ!」
「差別だよ」
「区別だ!」
けらけら笑うアイリスだが、何かを見つけそれを拾い上げた。
「ん?どうしたのお嬢さん」
「えーと……多分落し物かな?」
深い海の色に淡く新緑のような緑が混ざり合い、ほしてほんの少しの燃えるような赤が混じった鉱石のついたシルバーのリング。
「うん……?この石……」
「あ、あそこの店の商品じゃねぇのか?」
「あぁ、そうかも、同じような装飾品売ってるね」
リングについた鉱石と同じものがついた装飾品を売っている屋台が少しだけ逸れた場所にあった。
屋台を覗き込むと台の上や壁などに、同じ鉱石を使った装飾品があって、その美しさと少し道を外れた場所のせいもあって、まるで何かの映画のシーンを切り取ったようだった。
そこにいる少し年を召した女の商人にリングを見せ、落し物だと言えばきょとりと目を丸くし、少し考えるそぶりをしてから、あぁ!と思い出したように手を打った。
「その指輪は少し前に来た子が買ったもんだね、多分落としちまったんだろうね。また来るかもしれんから、こっちで預かっておくさね」
「はい、お願いします」
「はい、はい、しかしまぁ、よく届けてくれたねぇ。精霊結晶がついたものだとバックレる奴もいないわけじゃあない。いいこだね、いいこ」
「精霊結晶……?」
きょとりと、アイリスとそれからミシェルの目が丸くなる。
「おんや、知らなかったのかい。精霊結晶てのはね、このリングについた石のことさ。水種は知ってるかい?あぁ、なら話は早い。あれと同じでね、領域近くの鉱石がカロケリ様の魔力の影響を受けて長い時間をかけて出来たのがこの精霊結晶なのさ。装飾品にすりゃこれほどに美しい、魔法道具の素材にするのもいい、まぁ扱い切れればの話だがね」
謂わば精霊の膨大な魔力に影響を受け、自然にできた魔法結晶。
精霊が意図的に魔力を込め作り出した魔石や魔法結晶とは違い、大気に流れる精霊の魔力で勝手に生み出されたものであるために年月がかかるしいつ生み出されるかわからない。
更に水種よりもふんだんに精霊の魔力を含んでいるために、その希少さと魔力からオークションにかけられることも少なくない。
「……あぁ、夏の宝石のことか!」
「あれ、やっぱりそうだよね?精霊結晶て言われたからなんか情報と食い違うなって思ってたんだよね」
「おんや、嬢ちゃんと緑の坊ちゃんはそっちの名を知ってるのかい、それは昔の呼び名さ。最近じゃあこっちが主流さ」
アヤメの頃、四季の精霊達の影響を受けた魔法結晶や彼らが作り出した魔石はそれぞれの四季の宝石と呼ばれていた。
どうもミシェルもその名の方で知っていたらしく、ようやく精霊結晶のことを聞いていたときの不思議そうな顔が剥がれた。
「でもよ、おばあさん。んな希少な割には結構この店には多いみたいだけどなんでだ?」
その割には精霊結晶がついた装飾品が多く売られている事に不思議がると、あぁこりゃあねぇとからころと笑った。
「ここにあるのは小さな、それこそ大きなものでも指の上になるくらいのものだからね。ほら、大きなものはないだろう。領域近くの小さな欠片や加工するときに溢れた削り残しなんかをうまぁく手に入れて利用してるのさ。小さな欠片でも多く使えばこんなふうに、綺麗だろう?」
「なるほど、魔法道具の素材とか、それこそ王冠とかにつけるのとかならこの大きさじゃ足りないもんね」
「そういうことさ、売ってるものも指輪に腕輪、アンクレットにペンダント、シンプルなデザインなものが多いからそれ以上の大きさのものを仕入れる必要もないからね。……まぁこのサイズでも買うとなるとそれなりに値段はしてしまうのでね、少し値段は高くなってしまうんだけれどね」
安売りは出来ないが高く売りつけたいわけでもないらしい商人は全く困ったものだよと頬に手を当てる。
ちなみにと、長話ついでに屋台にかけられている看板を指差す。
そこに書かれているのは『精霊の祝福を受けた方 アクセサリーの加工格安でお受けします』の文字。
「古くから伝わる伝統でね、四季の祭りをしていると極稀に精霊の祝福を受けるのさ。領域が近くにあるスエルテと他三国で多いんだけどね、気がつけば鞄の中やポケットの中に純度が高い精霊結晶が入っているのさ」
「あぁ、それなら俺も聞いたことあるよ。青嵐祭に限らず四季の祭りでスエルテに人が多いのって、発祥ってのもあるらしいけど、祝福を受けやすいからだって」
「そうさね、ほかの、領域に近い国の祭りでも多いらしいが、やっぱり初代様が8人の英雄と懇意だったからかねぇ。まぁそんなわけもあって、精霊の祝福で受けた精霊結晶をアクセサリーに加工するサービスもしてるのさ。加工するものによって値段は変わるがね」
と、その時突風が吹いてアイリスのフードが外れる。
うわぁと声を出しながらもフードを被り直そうとして、じゃららららーっと地面に何かが勢いよく滑り落ちた。
「………………精霊の」
「…………………祝福、受けすぎじゃね?」
「……あははははー」
引き攣った声と乾いた笑い声。
地面に落ちた青い青い精霊結晶だけが空気も読まず太陽の光を反射して幻想的にキラキラと光っていた。
それを満足そうに見つめる少年が1人。
青い髪をなびかせ、赤い瞳を嬉しそうに細めながらアイリスをじっと見つめていた。
[ふふ、アヤメ、みーぃつけたっ☆]




