箱入りお嬢様疑惑勃発
2019/05/06
通貨の詳しい設定などを一部変更、追加しました。
大変申し訳ありません。
「合格が分からないだぁ!?こんな素材を取れる奴をあの完全実力主義の学園が取らない訳がねぇだろ!!」
「お前のあの結果で受かって無かったら他の奴らも受かってねぇっての!!!」
「ひいっ!?な、なに、ご、ごめんなさい!!」
必死の剣幕で迫られ、訳もわからず謝罪の言葉を口にする。
そうすれば2人はやれやれと言わんばかりに肩をすくめて、互いに顔を合わせ頷き合った。
「とにかく、これは全部買い取らせて貰っていいんだよな?」
「あ、はい、お願いします」
「ちょっと待っててくれるか、……これは……金貨…ん……全部合わせて……30…いや……これは保存状態が良いからな……」
一つ一つを手にとって丁寧に見ながら、ギルドマスターは時折驚いたような声や信じたがい物を見たかのような文句を混ぜながら鑑定をしていく。
ギルドにいる全員はアイリスに注目していて、今かいまかとギルドマスターの査定を待った。
「……よし、金貨50……いや、60枚でどうだ」
その査定結果に再びざわめきが広がった。
く。
この世界の通貨は3種類、下から順番に銅貨、銀貨、金貨。
銅貨100枚が銀貨1枚、銀貨50枚が金貨1枚。
銅貨1枚でパンが1つ、銅貨20枚もあれば宿に泊まれる。
銀貨1枚あればそこそこいい宿に泊まれるし、銀貨10枚くらいあれば高級料理も食べれる。
そして金貨1枚あれば1日贅沢しても使い切れない価値を出す。
余談だが、銅貨100枚銀貨50枚なんていくら軽量化されてても軽く人を撲殺できる威力がでるほど量が多い。
その為銅貨と銀貨には10枚通貨なるものが存在する。
例えるなら10円10枚を100円1枚に交換できるように、銅貨10枚をら10枚銅貨1枚に、銀貨10枚を10枚銀貨1枚に交換することができる。
さて話を戻して、金貨60枚もあれば2ヶ月、いや3ヶ月は毎日豪遊贅沢して暮らせる程だ。
「えっと、はい、わかりました」
周囲の騒めきをよそに、肝心のアイリスのその返答のなんともあっさりとしたことか。
そもそもアイリスは日常を知らない世間知らず、物資の価値感覚はおろか金銭感覚も何一つ備わっていない。
彼女を構成する一つである育ての村はほとんど硬貨など使う機会がなく、物々交換で成り立っているような村だったことも理由の一つだろう。
だからこそ査定結果の金貨60枚という大金がどれほどの大金かなど知るよしもない。
「……随分とあっさりしてんだな……」
「え?」
「これ位レア度の高い素材を持って来るやつは俺たちが提示した値段より高いのをふっかけることも少なくねぇ、俺達からすれば喉から手が出る程欲しい代物だからな、それにオークションなんかに出せば際限なく値段だってあげられる」
「別に売れればそれでよかったですし…オークションは苦手で。あ、宿に泊まれる位のお金はありますか?」
「この国の一番良い宿に軽く1ヶ月は泊まれるな、スパだの美味い飯だの贅沢しまくってもお釣りがくる」
ギルドマスターの何いってんだこいつという目をして言われた内容にきょとんと目を丸めてから「えぇ!?」と、査定が出たときに出すべき反応をようやくしてみせた。
タイミングがずれている。
「うそ、そんなに高いの!?」
ここでようやく、フランが突っ込んだ。
ついうっかり、頭を叩いてしまったのは最早反射だった。
「当たり前だろ!!お前金銭感覚も馬鹿かよ!何処の箱入りお嬢様だ!!」
残念ながらアイリスは田舎の村育ちであるし、アヤメも彩芽もお嬢様とはかけ離れた生活をしている。
悲しいかな、彼女のこれは箱に収まるどころか自由奔放な非日常によって形成された天然物である。
その後大変そうに受付嬢が金庫から持ってきた金貨60枚が台の上にガシャンと夢のような音を立てて置かれた。
銅貨と銀貨と違い金貨は10枚通貨が存在しないので60枚をそのまま手渡すしかない。
ちょっぴり貧乏な冒険者たちは羨ましげな視線を投げかけた。
重量のある金貨60枚を受け取ることにたいして心配な言葉をかけたギルドマスターは大容量の空間魔法を使えることを知らない。
「大丈夫です!」と元気よく返事をしたアイリスが、先程と同じように空間に裂け目を作り出してそこに無造作に金貨60枚を投げ込んだ。
ギルドマスターは少し膝を曲げ、アイリスと目線を同じくさせ、その肩に両手を置いた。
そしてきりりと真面目な顔をつくりだして、一言。
「嬢ちゃん」
「はい?」
「学園卒業したらうちにはいってくれ、お願いします!!」
冒険者は各国に点在する支部に所属する。
そしてその所属する冒険者の評判は、ぶっちゃけると、冒険者ギルドを束ねる中央都市からのギルドマスターへの査定に繋がったりする。
あまりの勢いに若干背中を逸らして引き気味になりながらも、愛想笑いで誤魔化した。
「え、えーと……考えておきます……」
「いい方向に考えておいてくれ!高待遇で迎える!嬢ちゃん欲しい!」
「その時はうちのパーティ入ってくれえ!」
「いや俺んとこに!」
「私のところ!」
「……え、っと……考えて、おきます……」
ギルド総出の勧誘に愛想笑いすら引き攣った。
しかしギルドマスターはそんな引き気味の様子にも一才引かない、吹っ切れた大人は時として吹っ切れすぎる。
「頼むからな!」と握りしめた手をぶんぶんと上下に振って、その勢いにアイリスの体も揺れる。
アイリスと、それから一緒に来たフランもついでにと声をかけられながらようやくギルトから飛び出る。
フランからすればとんだ巻き込み事故だった。
「……お前と一緒にいたら驚くのが面倒になってくる……」
「えっ、そんなラジみたいなこと言わないでよ」
「……で、いいのかよ、ほんとにこの宿で。お前馬鹿みたいに金持ってんじゃん」
「いや……そんな高い宿に泊まっても肩凝るし、普通の宿でいいよ。ていうかどんな宿でも結局は従業員の質が一番だよね」
「なんでお前世間知らず常識知らずの金銭感覚皆無の癖にそういうとこ達観してるんだよ」
日本人の性かな、お客様は神様の精神によるおもてなしを受けていたせいでそういう所が肥えてしまったのだ、と心の中で返事した。
宿に泊まり一晩過ごし、そして次の日。
2人一緒に学園へと合格発表を見に行けば、喜ばしいことに合格者として名を連ねていた。
ここでフランに悲報である。
アイリスとフランは同じクラスだった。
フランの学園生活は無自覚はちゃめちゃ自由人ことアイリスに振り回されることが決定した。